「サッカーの
一番の魅力はリスペクト。
サッカー競技規則に
『敵』という表現はない」西村雄一さん
(プロフェッショナルレフェリー)インタビュー
2021/07/09サッカーファミリーの声
日本サッカー協会(JFA)は2021年9月に創立100周年を迎えます。ここではサッカーの魅力について考えるきっかけにするために、さまざまなサッカーファミリーにインタビューを実施します。第10回目は国際審判員としてFIFAワールドカップで主審を務め、現在もプロフェッショナルレフェリー(PR)として活躍する西村雄一さんに登場いただきました。 ○オンライン取材日:2021年6月15日
サッカーと出合ったきっかけを教えてください。
幼稚園生の頃、自宅近くの大きな公園でボールを蹴っていたお兄さんたちの仲間に入れてもらったのがきっかけです。本格的に始めたのは小学4年生の時で、駒沢サッカークラブに入りました。そこで小・中・高、社会人チームに所属していました。
その後、審判員に転身したのでしょうか。
初めて審判をしたのは小学5年生の頃です。練習試合で控え選手の時に、当時のラインズマン(アシスタントレフェリー)をしたことがあって、「面白いな」と思いながら旗を振っていました。その後、選手兼アンダーカテゴリーのコーチをしていた時に、審判の判定ミスが結果に影響し、子どもたちのとても悔しがる姿を見て「これは何か違うな」と思い、18歳の時に4級の資格を取得し本格的に始めました。
審判員の立場から、サッカーの一番の魅力はどこにあると思いますか?
一番の魅力はリスペクトですね。サッカーの競技規則には、「相手」という言葉は出てきますが「敵」という表現は一切出てこないんです。サッカーが大好きな仲間がチームをつくり、お互いをリスペクトしながらゲームを楽しむ。これがサッカーにおいて最も大切な部分だと思います。「サッカーは少年を大人にし、大人を紳士にする」というデットマール・クラマーさんの格言にも通ずる最も重要な柱だと思います。
これまでのサッカー人生で特に印象深い出来事を教えてください。
2011年に行われた東日本大震災の復興支援チャリティーマッチは、サッカーの素晴らしさを感じる意義深い試合でした。私がサッカーと関わってきて、日常からサッカーが消えてしまうという経験は初めてでした。このチャリティーマッチから日常にサッカーが戻ってくるきっかけとなる試合で、日本代表とJリーグ選抜の選手たちが復興に向けての様々な思いを胸に、最高のプレーを見せてくれました。その中で、Jリーグ選抜の川口能活選手がロングフィードを蹴り、(田中マルクス)闘莉王選手のヘディングから三浦知良選手が抜け出してゴールを決めました。3人の連係に「絆」を感じましたし、そのゴールを悔しがる人は誰もいないという感動は、後にも先にもないものでした。全ての人がカズ選手のゴールを喜び、ここからサッカーとともに復興に向けて頑張っていこうとひとつになれた瞬間でした。
2010年のFIFAワールドカップで4試合、主審を務められたことも、サッカーファンの間では印象に残っていると思います。
私にとって初めて参加するワールドカップで、支えていただいた多くの皆さまへの感謝を込めて1試合1試合を大切に臨みました。スペイン対ホンジュラスの試合では、「ティキ・タカ」と呼ばれる素晴らしい距離感と連動性のパスサッカーを同じピッチで体感することができました。また、準々決勝のオランダ対ブラジル戦では、先制して余裕を持ちながらも追加点がなかなか奪えず、同点にされて完全に浮足立っていったブラジルの選手たちと、冷静に自分たちのサッカーを貫いたオランダの選手たちの、お互いに隙を狙い合った高度な心理戦が印象に残っています。
JFAは今年9月に100周年を迎えます。
まずはJFAを創設された方々に心から感謝したいと思っています。審判員としてサッカーを支えることで、サッカーの発展に貢献できることに喜びを感じています。そして、今後もサッカーを通じて「人」として成長し続ける機会をいただけることに感謝しています。
審判員の環境の変化はどのように感じていますか?
審判フィットネステストの設立や無線機器の導入、今シーズンからのVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の本格稼働と、3つの大きな変化がありました。それぞれの変化は「選手のために」という大前提があると思います。私たちの判定で選手の運命を変えてしまう可能性があります。審判員の環境変化は、その時代のサッカーに合わせた審判法を駆使して、全力で選手を支えるという普遍的な取り組みだと感じています。
未来を担う子どもたちへのメッセージをお願いします。
たくさんあるスポーツの中でサッカーに出合い、楽しみを感じてくれたのであれば、まずはサッカーに夢中になってほしいと思います。夢中になって取り組めば取り組むほど、失敗もしますが、何とか上手になりたいと思って努力し、改善し、そして成功すれば「もっとチャレンジしたい」と、また新しい挑戦につながります。サッカーにはその魅力が十分にありますし、サッカーを通じて人として成長できるので、ぜひ夢中になってほしいですね。
これからの100年間でサッカーやJFAに期待することを教えてください。
昨今のコロナ禍において、スポーツは不要不急なものにカテゴライズされてしまいました。感染対策を施し徐々に再開していく中で、スポーツは私たちの日常にちゃんと根付いていて、その中でもサッカーはとてもポジティブなエネルギーを多くの方々に届けることができると再認識しました。これは、サッカーに携わっている情熱を持った方々の存在によって実現できることだと思います。今後も、サッカーが日常にあることで、多くの人々が幸せあふれる素敵な日々を過ごせる一助となれるよう願っています。
- プロフィール
- 西村 雄一(にしむら ゆういち)
1972年4月17日生まれ、東京都出身
幼少期からサッカーを始め、18歳の頃に4級審判員、99年に1級審判員資格を取得する。2004年からは国際主審ならびにプロフェッショナルレフェリー(PR)となる。以後、10年のFIFAワールドカップ南アフリカ、14年のFIFAワールドカップブラジルを筆頭に国際舞台でも活躍。12年にはAFC Referee of the Year (Men)にも輝いた。14年をもって国際審判員を退いたが、2019、2020シーズンはJリーグ最優秀主審賞を2年連続で受賞。現在も日本を代表するトップレフェリーの一人としてサッカーを支えている。