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いざ、出陣! ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第25回~

2022年11月14日

いざ、出陣! ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第25回~

11月20日にカタールで開幕するFIFAワールドカップが目前に迫ってきた。大会に参加する26人のSAMURAI BLUEのメンバーも11月1日に森保一監督の口から明らかにされた。発表の場で名前を呼ばれた選手も呼ばれなかった選手も、胸中にさまざまな思いが去来したことだろう。森保監督の隣の席で、読み上げられる選手の名前を聞きながら、ここまでの努力、苦労、歓喜等が頭をよぎったのと同時に気持ちが高揚してきたのは言うまでもない。

国際サッカー連盟(FIFA)が定めたルールでは、26人の最終リスト提出期限は11月14日。その前の段階で55人以下のラージリストを提出しておき、その中から26人に絞りこむという方式だった。ただし、それぞれのチームは自分たちの初戦(日本の場合なら23日のドイツ戦)の24時間前までならメンバーの差し替えは可能。もちろん、差し替えはケガなど医学的な問題が生じた場合に限られ、ドクターの診断書を添えなければ認められない。14日に26人のリストを提出した後の差し替えは、55人のラージリスト以外の選手を呼んでもかまわないことになっている。

そういう仕組みを知ると、今回の11月1日の発表について、ちょっと早すぎるのではないか、という感想を持つ方もいらっしゃるかもしれない。J1リーグは11月5日に今季の全日程を終えたが、欧州各国はリーグ戦、カップ戦を13日まで行った。それまではどのクラブの、どの選手がケガをするか分からないのだから、ぎりぎりまで様子を見て、いろいろと情報を集めながら26人をフィックスした方が良かったのではないかと。いろいろな考えがある中で、我々が1日にメンバーを発表したのは、J1リーグの日程との絡みがある。FIFAワールドカップの開催時期が従来の6、7月から11、12月に後ろ倒しされたことで、J1リーグの最終節をどこに設定するか、1年前に真剣な議論がなされた。そして、最後の残り2節は中1週間を空けて全9試合を同日同時刻開催とし、コンディションを限りなくイコールにして昇降格の公平性を担保しようということになった。その結果、11月5日最終節という線が固まったのだった。

5日を最終節にしたのは、FIFAワールドカップに参加するJリーガーに少しでも多くの休養を与えたいと考えたからである。これまでの夏開催のFIFAワールドカップなら、Jリーガーはシーズンの真っ最中に大会に突入できたから比較的コンディションは良かった。一方、長いシーズンが終わってから参加する欧州拠点のプレーヤーは疲れを取るのが大変だった。冬開催となった今回はまったく逆。長いシーズンを戦い終え、疲労を抱えて参加するのはJリーガーの方になる。5日土曜日に最終節を終え、7日月曜日はJリーグアウォーズに出席、9日にはカタールに飛び立つ。こんな慌ただしいスケジュールを想定すると、せめてメンバー発表だけでも早めに1日に済ませ、サバイバルレースを続けてきた選手の緊張を解きほぐし、心と体を整える時間を少しでも多く与えたいと考えた。

選ぶ側も選ばれる側も11月1日まで根を詰めていたことと思う。メンバー発表はそういう意味で一つの節目というか、気持ちの切り替わる日になったと思う。ただし、本当の意味で一息つけるのはまだ先になる。今大会に合わせて、FIFAは開幕1週間前(当初の開幕は21日だった)の14日からインターナショナルウインドー(IW)を設けた。その期間を利用して日本はカナダと、スペインはヨルダンと、ドイツはオマーンと、コスタリカはイラクと本大会前最後のテストマッチを行う。

裏返すと13日はまだIWではないので、ヨーロッパ勢は国内のリーグ戦やカップ戦、UEFAチャンピオンズリーグなど欧州のカップ戦の日程をそこまでぎゅうぎゅうに詰めこんだわけである。その結果、いつどの試合でケガ人が出てもおかしくない状況になった。1日に26人のメンバーを発表した我々にしても、チーム内で欧州組が多数派になったからまったく気が抜けない。実際、発表翌日の2日に中山雄太(ハダースフィールド・タウンFC)がアキレス腱を痛め、泣く泣く出場を断念することになった(代わって湘南ベルマーレの町野修斗を招集)。本人にとってこんな無念なことはなかったはず。その悔しさを押し隠し、手術を終えた後に仲間へのエールを発信した中山の態度には本当に頭が下がる思いだった。

メンバー発表前、負傷からの回復途上にあった浅野拓磨(VfLボーフム)、板倉滉(ボルシア・メンヒェングラートバッハ)、田中碧(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)らの状態は気になるところだった。彼らの最新情報を集めるためにSAMURAI BLUEのチームドクターとトレーナーを我々の欧州拠点であるドイツ・デュッセルドルフに送り、所属クラブのチームドクターと協議を重ねさせてきた。そういう密で即時な情報交換を可能にするという点で、デュッセルドルフにJFAの〝支社〟を設けたのは大きなアシストになっている。負傷者の回復と復帰のプログラムを組み立てるのは大変難しい作業になるが、そちらも新たに代表スタッフに招いたフィジオセラピストが効力を発揮すると思っている。

私自身は今回、SAMURAI BLUEの選手団団長を務める。団長といっても、ここからはナショナルチームダイレクター(ND)としての仕事が本筋になる。前回の西野朗監督の時は関塚隆さんがやっていたポジションだ。日本サッカー協会の数ある代表チームの中で、トップのSAMURAI BLUEに特化してマネジメントするのが役目。もし今回も別にNDがいたら、例えば1日のメンバー発表の会見でも森保監督の隣に座っていたのは技術委員長の私ではなく、NDだったろう。今現在、私は技術委員長とNDを兼任している格好。技術委員長は本来、指導者養成も代表強化も選手育成も普及もすべて職掌するポジションだが、この約1カ月間だけはFIFAワールドカップの戦いに私も一意専心する。

カタールにいる間は最高責任者になるわけだから、気持ちは自然に引き締まる。なんといっても新型コロナウイルス禍の下での大会である。始まる前も始まった後も、この先、何が起きるかわからない。我々はJFAのガイドラインに従いながら、とにかくカタールに入国してからは検査を頻繁に行い、活動の入り口をしっかりと行うつもりである。また外部との接触を極力避け、避けることが出来なった場合にはその都度しっかりと検査を行うつもりである。そして何か起きたときには、その初期段階での対応がとても重要になる。メディカルグループと連携して適切なソルーションを行うつもりだ。ちなみにFIFAから発せられたレギュレーションによると、試合を行う為には最低13名の選手が必要で、GKがいない場合はフィールド・プレーヤーが背番号、名前無しのGKユニフォームを着て試合に参加することになっている。出場可能な選手が13人に満たない場合には大会組織委員会が協議する事となっている。それを踏まえ、食事における円卓では3人のGKは同じ食卓で取らないことや飛行機やバスでの移動の際にはなるべく離して座るなど細心の注意が必要になってくる。

今回のFIFAワールドカップは準備期間がすごく短い。大会が始まるまで、新たなケガ人は出るかもしれないが、それはどの国もお互いさまだと思っている。20日の開幕戦で準備万端のホスト国カタールと戦うエクアドルなんか、14日に集合したら1週間以内に試合が始まる。日本も用意周到にやるべきことをしっかりやって備えないと、すぐにドイツとの1戦目がやってくる感じだろう。問われるのは選手だけではなく、スタッフの力も含めたチームの総合力だ。我々がどこよりも早くカタールに乗り込んだのは、試合に向けた準備を一つ一つ丁寧に仕上げていくためである。

責任者として細心の注意を払い、森保監督と選手、スタッフ全員のカタールでの活動を最後の最後までサポートする。ここまでは万全を期して準備してきたつもりだし、まずはドイツとの23日の初戦を大いに期待してほしい。国民の皆様も共に戦ってほしいと願ってもいる。終了の笛が鳴り終わるまで我々と共闘してほしいと。チームに「ここには勝てるだろう」という甘いは空気ないし、チャレンジ精神の塊でいる。グループ内4チームのFIFAランキングを足すと、日本が属するE組は、B組(イングランド、アメリカ、イラン、ウェールズ)の60に次いで少ない76というハイレベルなグループである。優勝経験のあるドイツとスペインはもちろん、コスタリカも100%以上の力を日本が出さないと勝てない相手だと思っている。そういう相手と戦えることがすごく楽しみでもある。

代表のアイデンティティーを表す5つの言葉がある。「誇り」「責任」「礼節」「団結」「覚悟」である。カタールでの活動もこれらを全面的に押し出していきたい。どんな試練に立たされても、JFAがやってきたことは正しいと証明されるように、一丸になって乗り越える大会にする。人事は尽くし、最後の最後まで力を合わせて100%以上の力を出して、いい天命を待ちたいと思う。期待してください!

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