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Japan’s Way ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第23回~

2022年08月19日

Japan’s Way ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第23回~

日本サッカー協会(JFA)は7月15日、公式サイトを使って「Japan’s Way」という我々の羅針盤となるものを発表した。日本サッカーの目指すべき姿に関心を持たれている方は是非、目を通していただきたい。また、発信した内容について誤解されている向きもあるようなので、今回は私の思うところを述べたいと思う。本当はJFA創設100周年に合わせて昨年、発表するつもりだった。しかし新型コロナウイルス禍では予定どおりに運ばないことも多く、著作権の調整や製作に時間がかかり、発表は今年夏にずれこんだ。その分、いろいろ中身を深める時間も取れて、影山雅永JFAユース育成ダイレクターを座長に、タイトルどおり、日本サッカーの進むべき道を明確に説明するものができたと思っている。

「Japan’s Way」という言葉をサッカー界でちらほら耳にするようになったのは、2006年に私が北京オリンピックを目指すチームの監督に、イビチャ・オシムさんがSAMURAI BLUEの監督になった頃だった。当時のJFA技術委員長だった小野剛さんが単なる外国のものまねではない、日本や日本人の長所を標準装備したサッカーを構築すべきだと提言したのが最初だったと記憶している。2019年のラグビーワールドカップで日本代表が「ジャパンウェイ」を合言葉に大活躍する、はるか前のことだ。ただ、この考え、その後、言葉だけが一人歩きした感がある。シャビ、イニエスタ、メッシらが主軸を成すFCバルセロナの「ティキタカ」と呼ばれるリズミカルなサッカーが世界を席巻した当時の時代背景もあり、「日本の選手はフィジカルが弱いからバルサのようにパスで相手を崩すのが一番」という考えが一気に支配的になった。それでピッチにいる選手がGKを除いて全員MFタイプになるようなチームが編成されたり、ボールを握ってポゼッション率は上がったものの攻撃が前になかなか進まない試合が増えたりした。

1990年代に活躍した女性デュオ、PUFFYの『これが私の生きる道』というヒット曲のタイトルを借りれば「これが」ならいいけれど、「これだけが」になると視野は狭くなり、かえって弊害の方が大きくなる。スローガンには掲げることのメリットとデメリットは常にコインの裏表のように存在するわけで、そこに対する配慮は今回、影山座長たちも慎重に検討を重ねたことと思う。2005年宣言で、JFAは2050年までにフットボールファミリーを1000万人に広げ、FIFAワールドカップの単独開催と優勝を目標に掲げた。その理想の姿から逆算して、現在とのギャップを埋めるための大きな道筋を体系化、言語化、映像化して誰にも分かりやすく見られる形にしたのが今回の「Japan’s Way」である。一時の低迷から完全に脱したイングランドは「ENGLAND DNA」を、カタール大会で64年ぶりにFIFAワールドカップに出てくるウェールズも「Welsh Way」というそれぞれ自分たちの伝統を意識したフィロソフィーを協会が掲げている。

断っておきたいのは、我々が今回示したのは決して〝教科書〟ではないということ。「ここに書かれていないことはやってはいけない」とか「求められる選手像から外れる者はダメだ」というような原理主義に陥るのを、むしろ我々は最も恐れている。強いていえば〝副読本〟くらいに受け止めてくれればいい。一読して「こんなこと、当たり前だろう」と思う人はそれでいいし、応用問題はライセンス資格の上級に進めば、より細かく具体的な専用の講習がある。今回発信したのはあくまでも指導のベースになるフィロソフィーというか、日本サッカーが求める最大公約数的なものであり、それが指導者をはじめとするいろんなルートを通して選手、チーム、クラブに還元されればいいと思っている。文中に出てくる「プレービジョン」という言葉にしても、既に定着している「プレーモデル」という言葉を選ばなかったのは、後者は監督それぞれに独自性があり、そこに干渉するような印象を持たれたくなかったからである。

地味ながら、今回の「Japan’s Way」で注目してほしいのはサッカーを愛する人たちのパスウェイとして「2つのピラミッド」を示したところだ。従来型のパスウェイで描かれたのは1つのピラミッドで、草の根のグラスルーツから始まって、小、中、高、大学とサッカーを続け、プロになれるものはサッカーを職業としていく。その山の頂に君臨するのがSAMURAI BLUE。山の底辺さえ広がれば、自然に頂は高くなるというイメージだった。

今回の「Japan’s Way」は明確に違う。グラスルーツがサッカーをする楽しさ、学びを登山口とするのは変わらない。しかし山でいえば5合目、6合目のユースサッカーあたりから、徐々にサッカーを生涯スポーツとして楽しむ「Well-Being」というアマチュアのピラミッドと、勝利を追求する楽しさ、選ばれてプレーする喜びと厳しさに満ちたプロフェッショナルのピラミッドに昇るルートは分かれていく。国際的なコンペティションに勝つためにJFAとしてはエリート→プロのピラミッドの重要性にページを割いているけれど、学校を卒業した後も「する」スポーツとしてカジュアルにサッカーを楽しめる環境を整え、より良き生活の一助になるようにアマチュアのピラミッドを充実させていくことも我々は強く意識している。日本は世界に例を見ないほどの少子化高齢化が進み、人口減社会の到来が目の前に迫っている。ダイバーシティーやインクルージョンはこれからの社会に最も必要な考えで、多種多様な生き方を尊重しながらアマチュアのピラミッドの裾野を広げ、頂を高くしていくことは社会からの要請でもあると思っている。そしてこのアマ、プロのダブルピラミッドが互いに支え合い、相乗効果を発揮することが日本のサッカーをさらに発展させると強く信じている。

幼少のころから、どういうサッカー選手になりたいかをイメージさせ、個性を無くさずにしっかり育成年代を育てる。それが大きな集合体になればなるほど、プロのピラミッドの頂にある日本代表の最高到達点も高くなる。一方、FIFAランキングで上位にいる国はサッカープレーヤーが人口の7%を超えているという統計がある。アマチュアのピラミッドとプロのミラミッドには明らかに相関関係があるわけだ。日本がFIFAワールドカップで優勝しようとするなら、今よりもはるかにサッカーを愛する強固な地層(ファミリー)を築いて、アマチュアのピラミッドを大きくしなければならない。

競技志向とエンジョイ志向の両方を大事にしつつ、指導者養成も成功と発展の鍵を握るから、今よりもっとライセンス制度も充実させて、みんなが楽しめる環境を整えたいと考えている。エンジョイ志向に指導者がいる? という意見もありそうだが、サッカーの魅力をくまなく伝え、サッカーを通して、人生を豊かにしてくれる指導者も大いにクローズアップされていいと思っている。遊びだから適当でいいとはならない。むしろグラスルーツでハラスメントまがいの指導をされて、サッカー嫌いの子どもや少年少女をつくられるのは競技にとって致命傷になる。もってのほかである。年齢が幾つになっても「うまくなりたい」と思っているのはアマもプロも一緒。子どももシニアも一緒。どんなプレーヤーにも寄り添える指導者は絶対に必要だと思っている。

日本サッカーの発展には「代表強化」「ユース育成」「指導者養成」「普及」の〝四位一体〟が必要だと私は以前に述べたが、今回策定した「Japan’s Way」は各方面で具体的なアクションプランを立て、遂行する際に立ち返る〝原点〟のようなものだと思っている。発表したから「これで終わり」なんてことはない。そもそも「これ以上の戦術的な進歩はもうない」と思っても、ゲーゲンプレスとか5レーンとか、いろいろなアイデアが次々に出てくるのがサッカーというものだ。日本の前提だって変わる。「日本の選手はフィジカルが弱い。だから球際で勝てない」というのも、もはや俗説レベルであり、代表クラスになるとデュエルで負ける日本の選手はそんなにいない。米大リーグの大谷翔平選手みたいなサッカー選手がこの先、出てくる可能性も大いにあるだろう。今回の「Japan’s Way」の策定に当たっては、SAMURAI BLUEの海外組の意見も参考にしたと聞いている。外から見ると、よく日本が分かることもある。彼らの知見を取り込めるのも今の日本の強みである。

「Japan’s Way」と掲げたからといって、別に日本サッカーを自画自賛しようと思っているわけではない。日本代表に「インテンシティー」という考えを持ち込んだのはイタリア人のアルベルト・ザッケローニさんだが、この言葉についても「デュエルの強度のことだろう」とかいろいろなとらえ方がある。例えば、すべてのランの中で「時速20キロ以上の速さで走る割合(高強度ラン)」を見たとき、7月のE-1選手権の日韓戦で日本のそれは9.2%だった。韓国は8.3%。これを目安にすれば、客観的に見てもあの試合、日本の方がインテンシティーは高かった。ブラジル戦は9.5%、チュニジア戦は9.6%。日本はこの数字が10%を越えることを実は目指している。というのも、2014年のFIFAワールドカップで優勝したドイツは、他のチームが8%から9%の間でうろうろしていたとき、平気で10%をクリアしていたからだ。上には必ず上がいる。ちなみにJリーグの平均は6~7%。これだけでも「国を懸けて戦う」ということの「強度」が見えてくるというものである。あらゆるアクションがデータ化され、代表チーム間で比較される時代に、常に世界を向こうに回して戦う我々が、海外の先端の動きや情報を遮断して悦に入るなんてことはありえない。

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