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【規律委員会】 2022年4月5日付 公表
2022年04月05日
公益財団法人日本サッカー協会(以下「本協会」という。)規律委員会(以下「当委員会」という。)は、下記1記載の当事者の行為について、本協会懲罰規程(以下「懲罰規程」という。)及び関連規則に基づき、2022年3月18日及び3月25日に開催された委員会で審議した結果、下記のとおり処分を決定しました。
1 当事者
鈴鹿ポイントゲッターズ
チーム運営会社社長A氏(株式会社アンリミテッド代表取締役)
チームオーナーB氏(鈴鹿ポイントゲッターズオーナー)
チーム運営会社元役員C氏(株式会社アンリミテッド元執行役員)
2 懲罰
対象者1: 鈴鹿ポイントゲッターズ
懲罰の内容:
① 2020年度JFL最終戦(第30節)ソニー仙台対鈴鹿ポイントゲッターズの試合(2020年11月29日)の没収(0対3で鈴鹿ポイントゲッターズの敗戦とする。)
② 500万円の罰金(当通知の日より3ヶ月以内に本協会に納付しなければならない。)
該当条文: 懲罰規程[別紙1]競技及び競技会に関する懲罰基準3−6(2)
対象者2: チーム運営会社社長A氏
懲罰の内容: 当通知の日より1ヶ月間のサッカー関連活動の禁止
該当条文: 懲罰規程[別紙1]競技及び競技会に関する懲罰基準3−7
対象者3: チームオーナーB氏
懲罰の内容: 当通知の日より3ヶ月間のサッカー関連活動の禁止
該当条文: 懲罰規程[別紙1]競技及び競技会に関する懲罰基準3−7
対象者4: チーム運営会社元役員C氏
懲罰の内容: 当通知の日より2年間のサッカー関連活動の禁止
該当条文: 懲罰規程[別紙1]競技及び競技会に関する懲罰基準3−6(1)
3 その他の根拠条項
懲罰規程 第2条、第4条、第12条、第27条
4 事実関係
JFL規律委員会における各当事者及びその他関係者への聴取結果、選手及びスタッフからのアンケート回答、各当事者から当委員会に提出された陳述書、当委員会による追加調査その他関係資料によれば、以下の事実が認められる。
なお、当事者及びその他関係者への聴取等のJFL規律委員会による各調査は、概して十分に行われており、その内容は客観的かつ適法であり、当委員会ではこれらの調査結果は本件の事実関係の認定において依拠できるだけの信憑性を有すると判断した。
また、JFL規律委員会の調査においても、各当事者に対して聴聞がなされ、弁明の機会が与えられているが、当委員会としても改めて各当事者に対して弁明書の提出を求め、審議において考慮している。
(1)鈴鹿ポイントゲッターズ(以下「鈴鹿PG」という。)は、JFLに所属し本協会に登録してJリーグ昇格を目指す三重県鈴鹿市を本拠地とするチームであり、チーム運営会社社長A氏(以下「A氏」という。)は同チームを運営する株式会社アンリミテッド(三重県鈴鹿市)の代表取締役社長、チームオーナーB氏(以下「B氏」という。)は同社の支配株主、チーム運営会社元役員C氏(以下「C氏」という。)は2020年2月頃から2021年7月31日付けで辞任するまで同社の執行役員だった者である。
(2)2020年11月29日に実施されるJFL最終戦(第30節)のソニー仙台対鈴鹿PGの試合(以下「S仙台戦」という。)にあたり、鈴鹿PGは以下のような状況に置かれていた。
S仙台戦前のJFLの順位の状況は、その時点で既にJ3昇格が確定していたテゲバジャーロ宮崎が4位、鈴鹿PGが5位、J3ライセンスを保有し、その時点でJ3昇格の可能性を残していた3チーム(いわきFC、ヴィアティン三重、FC大阪)の順位がそれぞれ6位、7位、8位であった。S仙台戦の結果次第で、いわきFC以下の3チームにJ3へ昇格する可能性があったため、翌年以降のJ3昇格を目指していた鈴鹿PGにとってはこの3チームからJ3に昇格するチームが少ない方が望ましかった。また、鈴鹿PGとしては、同一地域の他チームがJ3に昇格することも避けたかった。鈴鹿PGは、シミュレーションの結果、S仙台戦に敗戦したほうが、3チームのJ3昇格の可能性が小さくなると分析していた。
(3)同年11月27日(金)、鈴鹿スポーツガーデンの会議室に、A氏、B氏、C氏、監督及びチームスタッフ2名が集まり、上記の分析結果を前提に、S仙台戦の戦い方について、3つのパターンに分けて議論が行われた(以下、このミーティングを「第1回ミーティング」という。)。
議論の中で、B氏から、「もう昇格も降格もないので、この試合は必ず勝たなければいけない試合ではない。負けてもいい試合なので若手や出場機会のなかった選手を使ってほしい。仮に0対1で負けていて、残り時間が少ない場合、日本vsポーランド戦の時のように追いつこうとせずに、そのまま負けるという選択肢を選んで欲しい。」という発言があった。
(4)同年11月28日(土)、仙台市内の宿泊先のホテルで夕食後の20時から、A氏、C氏、監督、チームスタッフ4名及び選手17名が集まりミーティングが行われた(以下、このミーティングを「第2回ミーティング」という。)。
C氏が冒頭からいきなり、第1回目ミーティングにおけるB氏の発言の趣旨を超えて、意図的に試合に負けるようにとの指示(以下「本件行為」という。)をした。具体的には、「同一地域の他チームに昇格されないように負けて欲しい。」、「試合の終盤に3対0以上でリードしていなかった場合、DFラインとGKの連携ミスからオウンゴール等で失点して欲しい。」、「わざと失点するようにペナルティーエリア内でファールをしてPKを与える。」など、試合に出場する数名の選手に対して、個人名を挙げて具体的な行為を指示した(スタッフ・選手のアンケート回答には、「『八百長しろ』という指示が試合前日にありました。」と明確に断言するものもあった。)。
このようなC氏の発言について、監督は「脅迫のような雰囲気での話があった。失点方法まで指示していて信じられなかった。とても残念な気持ちになった。今まで選手と積み上げてきたものをこのミーティングで全て壊されたような気持ちになった。」とJFL規律委員会の聴取に回答している。また、選手もC氏の発言に対して激しく反発したためにC氏が逆上し、「お前らには嫌でもやってもらう。」、「お前らがやらなければ俺がやる。」、「試合に負けなければ途中でグラウンドに割り込んででも試合を中止させる。」、「監督は国に帰れ。」等の発言をし、収拾がつかない混乱となったため、いったんA氏とC氏が退席し、選手と監督だけでミーティングが続行された。
その後、選手からの声掛けでA氏がその場に戻り、A氏は、「クラブとして不正行為をしてほしいという意図は断じてない。」、「明日チームは全力で戦ってほしい。」と発言してその場を収め、選手や監督と「正々堂々と戦う」意思を確認するために誓約書を交わした。この誓約書には冒頭に「クラブは選手に場合により負ける選択肢を打診したが、これを撤回し、正々堂々と戦おうと指示した。A」と手書きで記載され、その下に「私達選手監督スタッフはピッチで正々堂々と戦う。」と手書きされ14名の選手の署名がある。しかし、第2回ミーティングに参加した選手のうち5名は試合に参加せず鈴鹿に帰ってしまった。
(5)11月29日(日)のS仙台戦の状況については、残って試合に参加したメンバーは大きく戦力ダウンしたわけではなく、後半80分までは0対0の拮抗した試合であり、最終的には0対1で鈴鹿PGが負けたものの、意図的に負け試合をしたことをうかがわせる事情は見られなかった。
(6)当委員会が独自に専門の調査機関(Sportradar社/スイス)に依頼し実施した追加調査によれば、S仙台戦において、各国におけるスポーツ賭博等に絡んで試合結果を操作しようとする動きや徴候は確認されず、また、選手を含む関係者といわゆる八百長に関係する犯罪組織等との関連性も確認されなかった。
5 当委員会の管轄権
司法機関組織運営規則第3条等に基づき、当委員会は、競技及び競技会に関する違反行為について調査、審議し、懲罰を決定する権限を有する。本件については、懲罰規程第3条第1項に基づき、当委員会の懲罰権を委任したJFL規律委員会が懲罰案を決定し本協会に通知したものであり、同第16条第1号に基づき、当委員会が調査、審議を開始したものである。なお、JFL規律委員会の懲罰案は、競技及び競技会に関するもの以外の違反行為のための条項である同第34条に依拠し決定されたものであったことから、当委員会と本協会裁定委員会の何れの機関が本件の管轄権を有するかが不明確であったが、司法機関組織運営規則第15条第3項に基づき、本年3月7日付けの本協会専務理事の決定により当委員会の管轄権が確認されている。
本件の当事者のうち鈴鹿PGは、本協会に登録するチームであり、また、A氏は鈴鹿PGの運営会社である株式会社アンリミテッドの代表取締役社長として、B氏は同社(鈴鹿PG)のオーナーとして、本件行為の日から本日に至るまで本協会に登録されていることから、懲罰規程第2条に基づき、当委員会はこれらの者に懲罰を科す権限を有する。また、C氏は2021年7月31日付けで同社の執行役員を辞任しており、本日時点においては本協会の登録者ではないが、本件行為の日において同社の執行役員として本協会に登録されていることから、司法機関組織運営規則第18条第2項に基づき、本協会は同人に対しても懲罰を科す権限を有する。
6 懲罰事由の判断
(1)JFL規律委員会の判断
JFL規律委員会は、前記4とほぼ同様の事実を認定し、弁護士にも意見を求めた上で、第1回ミーティングと第2回ミーティングにおけるA氏、B氏及びC氏の行為について、不正な利益を得ること(金銭的な利得)が目的ではなくチームの将来の正当な利益を得ること(星取りの戦略)が目的であったこと、第2回ミーティングではC氏による度を超した強要があったもののチームとして八百長行為の企てが明らかにあったとは認められないことを理由として、懲罰規程[別紙1]懲罰基準(以下「懲罰基準」という。)3−6の「八百長の企て」とまではいえないと判断した。
その上で、懲罰規程第34条第1項第3号の「本協会、加盟団体、加盟チーム又は選手等の名誉又は信用を毀損する行為」及び同第4号の「本協会又は加盟団体の秩序風紀を乱したとき」に該当するとして、A氏、B氏の2名は「譴責」が相当であるとし、C氏については、C氏の鈴鹿PGへの対応の状況等を踏まえ懲罰の処分を保留とし、鈴鹿PGに対しては、罰金50万円が相当であると判断した。
(2)当委員会の判断
しかしながら、当委員会は、上記のJFL規律委員会の判断を是認することができない。その理由は以下のとおりである。
なお、JFL規律委員会の懲罰案(又は懲罰)のうちチーム(鈴鹿ポイントゲッターズ)に対するものが懲罰規程第3条第2項に定める「6ヶ月以上等の重罰」に該当するため、同項に基づき、当委員会が懲罰を審議決定することになる。これに対して、チーム運営会社社長A氏とチームオーナーB氏に対するJFL規律委員会による懲罰(共に譴責処分)は、「6ヶ月以上等の重罰」に該当しないものの、本件事案は一連の行為として、各当事者の行為及びその責任範囲は不可分の関係にあるため、両名に対する最終的な懲罰の決定権は当然に同条第1項に基づく委任者である当委員会にもあると考えられることから、両名に対する懲罰も併せて当委員会で審議し、決定した。
また、チーム運営会社元役員C氏については、JFL規律委員会における審議では、弁明の機会を与えた上で、C氏の鈴鹿PGへの対応の状況等を踏まえ処分保留とされ、当委員会に対して懲罰案の通知がないが、それらは本件の事案と直接には関係のない事由であり、処分を保留にする理由はないと考えられるため、当委員会委員長において調査・審議が必要であると判断し(懲罰規程第16条第4号)、調査・審議を開始して懲罰を決定した。
a. 懲罰基準3−6(1)「八百長行為」の解釈
前記4の事実関係からすれば、本件行為は、賭博等の金銭的な利得を目的としたものである可能性は極めて低く、チーム育成上の戦略的な敗退目的であったと判断される。そこで、「戦略的な敗退目的」での行為は、「八百長行為」に該当しないのかについて検討する。
懲罰規程及びその法源である国際サッカー連盟(FIFA)の懲罰規程(FIFA DISCIPLINARY CODE(以下「FDC」という。))の該当規定は以下のとおりである。
懲罰基準3−6(八百長)
(1)「作為若しくは不作為により、直接若しくは間接に、試合の経過、結果若しくはその他の側面に不当に影響を与え若しくは操作する行為、又は、何らかの手段によりそれらを共謀し若しくは企てる行為(以下、総称して「八百長行為」という。)をした者には、最低5年間のサッカー関連活動の禁止処分及び最低1000万円の罰金を科す。重大な違反の場合には、永久的サッカー活動の禁止処分を含むさらなる厳しい懲罰が科されるものとする。」
FDC第18条
Article 18 Manipulation of football matches and competitions
1. Anyone who directly or indirectly, by an act or an omission, unlawfully influences or manipulates the course, result or any other aspect of a match and/or competition or conspires or attempts to do so by any means shall be sanctioned with a minimum five-year ban on taking part in any football-related activity as well as a fine of at least CHF 100,000. In serious cases, a longer ban period, including a potential lifetime ban on taking part in any football-related activity, shall be imposed.
このように、懲罰基準3−6(1)及びFDCの規定は、懲罰の対象行為を「試合の経過、結果・・・に不当に影響を与え、操作する行為(unlawfully influences or manipulates the course, result ・・・of a match and/or competition)と規定し、その行為の目的(動機)が金銭的な利得であることを要件とはしていない。
近時、スポーツにおいては、「インテグリティ」(スポーツが様々な脅威により欠けることなく、価値ある高潔な状態にあること)が強く求められている。サッカー界においても、FIFAは2005年以降、インテグリティ部門を立ち上げ、八百長を防止するための試合の監視や選手及び関係者に対する教育、啓発活動等の様々な施策を講じており、日本国内においても、FIFAの指導のもとにJFAやJリーグにおいてインテグリティを守るための積極的な取り組みがされているところである。懲罰基準3−6(1)及びその法源であるFIFAの上記規定も、このような趣旨から定められたものであると理解できる。そうであれば、懲罰基準3−6(八百長」の対象となる行為は、規定の文言どおり、「試合の経過、結果・・・に不当に影響を与え、操作する行為(unlawfully influences or manipulates the course, result ・・・of a match and/or competition)」であって、賭博等の金銭を利得する目的といった主観的な要件は不要であると解すべきである。
もっとも、例えば、①リーグ戦の終盤において、来シーズンを見据えて若手選手に経験を積ませるために、敢えて当該試合の勝ちにこだわらずに若手選手を積極的に登用したり、②予選リーグの最終戦等において、他チームの試合経過等を勘案して、以降の対戦相手を有利にするために、試合の途中から消極的な戦術を採るといった行為は、チームの育成方針やスポーツ上の戦略として許容されると考えられる。すなわち、これらの行為は、「試合の経過、結果・・・に影響を与え、操作する行為」ではあるものの、チームの育成方針やスポーツ上の戦略として一般的に認められているといえ、「不当に(unlawfully)」の要件を欠くものとして「八百長行為」に該当しないと解することができる。
そして、いかなる場合にこの「不当性」が認められるかは、個別の事案に即して慎重に検討する必要があるが、少なくとも、選手やチームの関係者に対して、試合開始前に、当該試合に積極的に負けるように指示する行為は、「試合の経過、結果に不当に影響を与え、操作する行為」に該当すると解すべきである。
上記の見解は、当委員会が参考意見を依頼したCavaliero & Associates法律事務所(スイス)のハイメ・カンブレレン(Jaime Cambreleng)弁護士の本年3月15日付け意見とも一致する。同意見で引用されているCAS(スポーツ仲裁裁判所)の仲裁判断(CAS 2017/A/5338)においても、「賭博目的だけが八百長および/またはフェアプレー原則違反の動機となるわけではなく、例えばスポーツ上の理由(例:下位リーグに降格しないため)やその他の財政上の目的によって引き起こされる場合もある。」(The Sole Arbitrator notes that betting purposes are not the only possible motives for match manipulation and/or breach of the principle of fair play, which can also be caused by e.g. sporting reasons (e.g. in order not to relegate to a lower division) or for other financial purposes.)と説示されていることから、この解釈は世界的にもサッカー界における普遍性のあるものであると解される。
b. 各当事者の行為は「試合の経過、結果に不当に影響を与え、操作する行為」に該当するか
当委員会は、第1回ミーティングにおける当事者3名の行為(特にB氏の発言)は、「仮に0対1で負けていて、残り時間が少ない場合」という限定、すなわち、試合の流れを見ながら戦術を変更するという緩やかな方針の指示であり、試合開始前に、当該試合に積極的に負けるような指示があったとはいえないことから、懲罰基準3−6(1)の「試合の経過、結果に不当に影響を与え、操作する行為」には当たらないと判断する。
しかしながら、第2回ミーティングにおけるC氏の発言は、前記4で摘示したとおり、選手やチームの関係者に対して、S仙台戦の開始前に、当該試合に負けるために選手名を挙げて具体的な失点方法まで指示していることから、試合開始前に、当該試合に積極的に負けるように指示したといえ、懲罰基準3−6(1)の「試合の経過、結果に不当に影響を与え、操作する行為」に当たると判断する。
c. 第2回ミーティングにおけるC氏の発言はチームの指示といえるか
C氏の発言はチーム運営会社の執行役員としての発言であったこと、その後にミーティングに戻ったA氏の音頭で作成された誓約書には、前記のとおり、「クラブは選手に場合により負ける選択肢を打診したがこれを撤回し」と手書きされており、C氏の発言がチームとしての指示であったことを社長自らが認めていることを併せ考えれば、C氏の発言がチームとしての指示であったことは明らかである。
d. 「未遂」に終わったことは行為の違法性を阻却するか
本件においては、前記のとおり、C氏の指示(チームの指示)にもかかわらず、監督と選手らがこれに反発したため、結果的にS仙台戦は「操作(manipulate)」されたとは認められない。Sportradar社のレポートによれば、S仙台戦の映像に関する第三者による客観的な分析においても、選手の各種プレーに不自然な徴候は見られなかったことが確認されており、S仙台戦は操作されることなく出場した選手たちによって全力でプレーされたものと認定できる。すなわち、試合結果の操作は結果として完遂されなかったことになる。そこで、このような未遂行為であっても「八百長」が成立するかという点について、念のため検討する。
まず、懲罰規程及びFDCの規定は、前記のとおり、「作為若しくは不作為により、直接若しくは間接に、試合の経過、結果若しくはその他の側面に不当に影響を与え若しくは操作する行為、又は、何らかの手段によりそれらを共謀し若しくは企てる行為」と定めており、完遂することを要件としておらず、「不当に影響を与え若しくは操作する行為」をした時点で成立するとする。さらに、FDCでは、総則規定である第8条第2項において、Acts amounting to attempt are also punishable. (未遂行為も処罰対象となる。)と明記されている。
本件では、監督や選手たちがC氏の指示(チームの指示)を拒否したために未遂に終わったにすぎず、懲罰規程やFDCの規定も踏まえれば、結果として未遂に終わったことは当事者らの行為の違法性を何ら阻却するものではない。
(3)まとめ
以上の検討を総合して、当委員会は、各当事者の懲罰規程への該当性について、以下のとおり判断する。
まず、C氏による本件行為(第2回ミーティングにおける選手、スタッフに対する指示)は、懲罰基準3−6(1)が定める「試合の経過、結果に不当に影響を与え、操作する行為」に該当すると判断する。
また、当時、鈴鹿PGの運営会社の執行役員であったC氏の行為はチームの行為に他ならないから、懲罰基準3-6(2)により、鈴鹿PGも懲罰の対象となる。
さらに、第1回ミーティングにおけるB氏の言動は、前記のとおり、懲罰基準3−6(1)の「試合の経過、結果に不当に影響を与え、操作する行為」には当たらないものの、オーナーとして絶大な影響力を持つB氏の第1回ミーティングにおける発言が第2回ミーティングのC氏の本件行為を誘発したといえ、B氏の責任は重いといわざるを得ない。すなわち、B氏の当該行為は、サッカー界とこれに関わる様々な関係者の名誉と信用を毀損し、その秩序風紀を乱す行為に他ならず、懲罰規程第34条第1項第3号(本協会、加盟団体、加盟チーム又は選手等の名誉又は信用を毀損する行為を行ったとき)及び第4号(本協会又は加盟団体の秩序風紀を乱したとき)「の趣旨に明らかに違反すると判断される行為」(懲罰基準3−7)に当たるといえる。
加えて、A氏は、鈴鹿PGの運営会社の代表取締役社長というC氏を監督する立場にあったにもかかわらず、第2回ミーティングにおいてC氏と同席し、C氏の本件行為を含む暴走を認識していながら、これを止めなかったこと(不作為)の責任は免れないと考える。すなわち、A氏の当該不作為は、サッカー界とこれに関わる様々な関係者の名誉と信用を毀損し、その秩序風紀を乱す行為に他ならず、懲罰規程第34条第1項第3号(本協会、加盟団体、加盟チーム又は選手等の名誉又は信用を毀損する行為を行ったとき)及び第4号(本協会又は加盟団体の秩序風紀を乱したとき)「の趣旨に明らかに違反すると判断される行為」(懲罰基準3−7)に当たるといえる。
なお、C氏は、当委員会に提出した陳述書において、第1回ミーティングの後に、B氏からA氏及びC氏に対して、具体的な失点方法を含めた八百長の指示があった旨を述べる。しかしながら、JFL規律委員会による各当事者に対する聴取結果を含む関係書類を精査しても、そのような事実を認定することはできない。
7 結論
以上にみたとおり、C氏の本件行為は、懲罰基準3−6(1)に違反し、その態様は怒号を交えて執拗に行われており極めて悪質であるといえる。他方で、本件行為は、オーナーであるB氏の第1回ミーティングにおける発言に誘発されたものであり、金銭的な利得を目的とするものではなかったこと、最終的にS仙台戦における意図的な敗退行為はなかったこと、C氏は既に執行役員を辞めチームを離れていること等は酌量すべき事情と認められる。これらの事情を踏まえ、C氏に対しては、懲罰基準3−6(1)に従えば、最低5年間のサッカー関連活動の禁止及び最低1000万円の罰金が科されるところ、懲罰規程第12条第1項に基づいて、上記の酌量すべき事情を考慮して軽減し、当通知の日より2年間のサッカー関連活動の禁止を科すのが相当である。
次に、鈴鹿PGに対しては、懲罰基準3−6(2)に従えば、当該試合の没収、競技会への参加資格の剥奪及びその他の追加的懲罰が科されるところ、「競技会への参加資格の剥奪」は、本件行為に何らの責任も負わない選手にとって著しく不利益を課す結果となることから、本件においては適切ではないことも踏まえ、当該試合の没収処分及び追加的懲罰として500万円の罰金を科すのが相当である。
続いて、B氏は、チームのオーナーという影響力の強い立場にありながら、本件行為を誘発する発言をして本件の発端を作っており、その責任は重いといわざるを得ない。そこで、B氏に対しては、懲罰基準3−7を適用し、当通知の日より3ヶ月間のサッカー関連活動の禁止を科すのが相当である。
最後に、A氏は、チーム運営会社の代表取締役社長として本件行為を止めなければならなかったにもかかわらず、これを放置した責任は重いものの、最終的には、誓約書を作成するなどして試合の操作が起こらないように努めたことは酌量すべき情状と認められる。これらの事情を踏まえ、A氏に対しては、懲罰基準3−7を適用し、当通知の日より1ヶ月間のサッカー関連活動の禁止を科すのが相当である。
8 その他付言
最後に、本件において、チーム幹部からの指示であったにもかかわらず、それを毅然として拒否し、試合のインテグリティを保全し、全力でプレーした選手及び監督の勇気ある行動は称えられるべきであり、当委員会として選手らと監督に対して、敬意を表することを付言する。