ケガへの対応と予防

サッカーは、世界中の至る所でプレーされていますが、それは、プレーすること自体が楽しく、健康にも良いと考えられているからです。一方で、「スポーツにケガはつき物」と言うように、サッカーもその例外ではありません。そのため、スポーツ医学はケガの治療を中心に進歩してきましたが、近年では治療よりも予防が重視されています。FIFA(国際サッカー連盟)は「11+」というケガ予防のためのウォーミングアッププログラムを発案して、その効果についても検証しています。今回は、ケガへの対応と予防について、最新の知見も加えて解説します。
スポーツによるケガは、スポーツ外傷(急性損傷)とスポーツ障害(慢性損傷)に分けられます。
スポーツ外傷(急性損傷)
大きな1回の外力が瞬間的に加わることで発生します。他のプレイヤーとの衝突や転倒により発生することが多いため、サッカーなどのコンタクトスポーツで多く発生します。代表的なケガとしては、骨折、脱臼、捻挫などが挙げられます。初期症状は、受傷直後から現れる比較的強い痛みと腫れで、多くの場合はプレーの継続が困難になります。
スポーツ障害(慢性損傷)
小さな外力が同じ部位に繰り返し加わることで発生します。「オーバーユース症候群」とも言われ、トレーニングによる使い過ぎが問題ですが、オーバーユース以外にも、柔軟性の低下、筋力のアンバランスなど様々な要因が関与します。代表的なケガとしては、疲労骨折、野球肩、オスグッド病などが挙げられます。初期症状は、違和感や軽い痛みのため、発症初期はプレーの継続が可能です。
スポーツ外傷とスポーツ障害には発生機序や初期症状に違いがあるため、初期対応や予防法にも異なる点があります。
スポーツ外傷への対応
大きな外力による損傷のため救急処置が重要です。スポーツ現場での基本処置は「RICE」で、Rest、Ice、Compression、Elevationの4つの頭文字からなり、損傷部の悪化を防ぎ、回復を早めることを目的としています。
1) Rest(安静):損傷部位の腫れを防ぐため、運動を中止して患部を安静にします。
2) Ice(冷却):氷や保冷剤を用いて患部を冷却することで痛みを和らげます。また、血管を収縮させることで腫れを抑える効果もあります。
3) Compression(圧迫):最も重要な処置で、パッド、テーピング、弾性包帯などで患部を圧迫して内出血や腫れを最小限に抑えます。
4) Elevation(挙上):患部を心臓より高く挙上することで、血液の貯留などを防ぎます。
「RICE」は長年にわたりスポーツ現場での基本処置とされてきましたが、その後「PRICE」そして「POLICE」という変遷をたどり、近年では「PEACE & LOVE」という概念が提唱されています。
「POLICE」は「RICE」から「R(安静)」を外して「P:Protection(保護)」と「OL:Optimal Loading(最適な負荷)」を加えたもので、安静は筋力低下とともに組織の強度や質を低下させるため、早期からの負荷を推奨しています。
「PEACE & LOVE」の「PEACE」は急性期、「LOVE」はその後の処置法ですが、過度の冷却や消炎鎮痛薬の使用は組織修復を遅らせるため「A:Avoid anti-inflammatories(抗炎症療法の回避)」を推奨し、また、医療従事者に依存した受動的治療は避けるべきとして、患者への「E:Education(教育)」を推奨しています。
スポーツ外傷の予防
原因の多くは衝突や転倒のため、衝突してもケガをしないための身体作りや、転倒しないためのバランス力の向上(体幹の強化)が重要です。
スポーツ障害への対応
スポーツ障害の初期症状は違和感や軽い痛みのため、プレー継続が可能で、結果として慢性化さらには難治化するため、早期診断と早期治療が重要です。軽い痛みであっても痛みを増悪させる動作を制限して、慢性化させないことが重要です。柔軟性の低下が問題であれば、温熱療法が必要になります。
スポーツ障害の予防
スポーツ障害はオーバーユース症候群とも言われ、予防にはトレーニングのコントロールが重要です。一方で、オーバーユース以外にも様々な要因が関与しているため、全ての要因を探し出して予防に繋げることも重要です。スポーツ障害の要因には、柔軟性の低下などの内的(身体的)要因と、オーバートレーニングなどの外的要因があります。
1) 柔軟性の低下:トレーニングによる筋疲労が柔軟性低下の主な原因で、サッカーの場合、ハムストリングと大腿四頭筋が問題になります。ハムストリングはSLR(Straight Leg Raising)テストで、大腿四頭筋は踵殿間距離(Heel-Buttock Distance)を用いて評価します。柔軟性を低下させないためには、オーバートレーニングを回避するとともに、ウォーミングアップ、ストレッチ、クールダウンを時間をかけて行なうことが重要です。
2) オーバートレーニング:トレーニングの強度・時間・頻度などが関係します。オーバートレーニングを防ぐためには、コンディション(体調)を客観的に評価する必要があり、簡易な評価法としては、体重、心拍数、VAS(Visual Analogue Scale)を用いた自己評価があります。トップアスリートの場合は、血液検査、尿検査、唾液検査なども行います。サッカーのようなチームスポーツの場合、コンディションは選手ごとに異なるため、選手一人一人のコンディションを個別に評価して、その結果に基づいて個別に対応を図ることが重要です。
参考
サッカーにおける外傷・障害の予防プログラム「FIFA・11+」(スポーツ安全協会HPから)
https://www.sportsanzen.org/syogai_yobo/soccer/page3.html
スポーツ損傷シリーズ(日本スポーツ整形外科学会HPから)
https://jsoa.or.jp/pamphlet/sports-injury/


