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サッカーの活動における暴力根絶に向けて リスペクト・フェアプレー溢れる試合のために ~暴力・暴言根絶:ゼロ・トレランスで臨む~
2019年12月05日
「サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、人々の心身の健全な発達と社会の発展に貢献する」は、日本サッカー協会(JFA)の理念。これを達成するためには、リスペクトのあるプレーや行動(フェアプレー)が不可欠である。「リスペクト(大切に思うこと)」は、日本サッカーのバリュー(価値)。サッカーを取り巻く人や物、環境、思想、価値観など、関わりのある全てを大切に思うことから、感動や希望、スポーツを通じた交流が生まれる。リスペクトは、スポーツの尊厳を守る意味でも決して失ってはいけないもので、全ての根幹をなすものだ。
2013年6月、JFAはサッカーの活動現場における暴力行為や暴言の根絶を目指し、これらの行為の早期発見と是正および再発を防止するために、暴力等根絶相談窓口を設置した。相談窓口の認知度が高まり、また昨今のスポーツ界における不祥事を反映してか、2018年の相談件数は120件に上った(表1参照)。暴力等の事案がなくなっていないことは、非常に残念である。不退転の決意で撲滅に取り組まなければならない。
相談が増えることで、多くの課題が顕在化できてきている。相談される方々の全てが問題の解決を求めているわけではない。また、詳細を調べてみると、事実とは異なることもある。しかし、火がないところには煙は立たず。相談の内容を分析すると、サッカーの現場で起こっているさまざまな問題が浮き彫りとなる。これらを積極的に解決していかなければならない。
暴力が認められないことの意識が多少なりとも浸透してきたのか、攻撃の方法が暴力から暴言へと変ってきている。しかし、暴言であろうと、“攻撃”であることに変わりはない。「死ね」「ばか」「下手くそ」のようなものから、人格を否定する陰湿な言葉も放たれている。
暴力や暴言の対象は、相変わらず3種と4種が多い(全体の66%/表2参照)。小中学生は弱者で、大人の不当で大きな力に支配されやすい。「指導者と選手の間に信頼関係があるから大丈夫」というのは違う。多感な時期に、理不尽な暴力や暴言で指導された子どもたちは、それらがあたかも正当であるといった価値観を持つ危険性もある。怖いことだ。
サッカーの活動現場が主な対象であるため、120件のうち68件(57%)が指導者に関する相談となっている(表3参照)。そのうち、指導者資格なしが14件(12%)であるが、B級、C級、D級コーチが44件(37%)。B級コーチといっても、そのほとんどが3種や4種のチームの面倒を見ている指導者である。
一方、報復や周囲の目を気にしてか、匿名の通報が多いということも気になる。120件のうち66件が「相談のみ」に終わっているが、詳細に調査し、しっかり対応しなければならないケースもあるはずだ。怖がることなく名前を出し、実態を明らかにし、膿を出し尽くして、根本から解決できるような環境づくりも必要だ。
暴力や暴言の発生要因は、指導者の個人的資質に大きく関係するのではないだろうか。「認知・感受性・判断能力が低い」「受容力が低い」「論理的思考能力が低い」「コミュニケーション能力不足」「分別がつけられない」「多様性への対応能力の不備」「旧態依然の思考(暴力是認)」といった人間力の低さに加え、「怒りを理性で制御できない」ことで暴力や暴言に走ってしまう。そのほか、「勝利へのプレッシャー(勝利、名声のみの追求)」に負け、「短絡的思考(目先のみを見て、選手育成という本来の目的を見失う)」などが考えられる。指導者には、リスペクト・フェアプレーを正しく理解し、それを現場で具現化することに加え、“指導者たる人間性”を確保することが求められる。そのためには、自己研さんのみならず、さまざまな研修プログラムの提供も必要だ。
指導者を取り巻く組織の脆弱さも気になるところだ。スポーツ団体、クラブ、各都道府県サッカー協会(FA)における縦社会の論理、ガバナンスやコンプライアンスの低さに起因する「問題の見て見ぬふり」、あるいは「かばい合い」。また、クラブ経営、学校の名声のための勝利至上主義で、指導者へ「何が何でも勝利」とプレッシャーをかけることもある。
もちろん、選手自身に問題がないわけでもない。集団で規律のある行動をとることは、日本人のすばらしさではあるが、逆に自主性のない判断と行動が悪さをすることもある。指導者への妄信、また手なずけによる旧態依然の思考の是認、あるいは勝利へのプレッシャーから暴力の受け入れなどの問題の解決も考えていかなければならない。
暴力や暴言が減らないのであれば、ゼロ・トレランス(絶対に許さない)のために、厳罰の導入というのも一つの手段である。一方、スポーツに関わる全ての人たちを大切に思い、リスペクト推進による環境整備で、誰もが「正しく行動(フェアプレー)」し、すばらしいスポーツ環境や文化が醸成されることに進みたいものである。簡単ではないが、一歩一歩でも多くの皆さんと協働し、それが成し遂げられるようにしたい。
【報告者】松崎康弘(JFAリスペクト・フェアプレー委員長)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会『テクニカルニュース』2019年3月号より転載しています。
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