チーム紹介
ヴィッセル神戸U-18
WEST前年王者のヴィッセル神戸U-18が苦戦している。開幕直後こそ2連勝と好発進したが、第3節の名古屋グランパスU18戦は自慢のボール回しが発揮できずに引き分け。この試合を機に自分たちのサッカーを見失ったチームには焦りが生まれ、順位も下向していった。
その苦悩は6月後半に訪れた練習の際にも見て取れた。「うまくいってないときは悩みながらやっているのがすぐ分かる。いまがまさにそう」と野田知監督が話すように、練習開始直後は口数が少なく重苦しい空気が漂っていた。流れを変えるために指揮官が採った選択は「ブレずにやること」だった。これまでと同様にボール回し主体の練習を徹底。ウォーミングアップを終えると、広さを変えた2種類のボール回しやミニゲームを、テンポ良く1時間ほどでこなしていく。集中力が要求される練習の中心にいるのは野田監督。指揮官自らプレーしながら与えるヒントをモノにしようと、選手たちの真剣さが増していく。
グラウンドに広がるのは以前と変わらぬ風景だが、変化が生まれつつある。「皆、結果が出ないことでネガティブになり、コーチングが減っていた。でも、しんどいときこそ僕たち3年生がポジティブなコーチングをしたり、後輩たちを盛り上げなければダメだと気付いた」(FW米澤令衣選手)と声でチームを変えようとする熱意が感じられた。アカデミーとはいえ、サッカーに懸ける思いはプロさながら。真剣な表情には情熱があふれていた。
だが、ひとたびサッカーから離れれば彼らも普通の高校生だ。練習を終えると、さっきまでとはうって変わり、賑やかな光景が広がる。半数以上の選手が暮らす寮に戻ると、学校生活などで起きた他愛もない話をしながら、寮母さんが作った夕食を平らげていく。食事の後はミニゲーム大会。「いっせーのーせ!」という掛け声をきっかけに、全員で何本の指が上がるかを予想し、当てた者から抜けていくのだが、最後まで残った選手が皆の食器を片付けなければならないとあって、ゲームは白熱していく。食事を終えると今度はテレビ鑑賞が始まる。取材日はちょうどワールドカップの真っ只中。DF山口真司選手が未明に行われた試合を見始めると、ある選手が「バラエティー見ようや」と主張。同意見の選手が、隙を見てチャンネルを替えるなど、無邪気な時間が流れていく。
「寮は自由ですね。家みたいもの」と選手たちが口をそろえたように、彼らにとっては憩いの場となっている。短いながらも濃厚かつ真剣な練習を毎日こなせるのも、こうした高校生らしいオフの場があるからなのかもしれない。
真剣な様子で、コーチの指示に聞き入る選手たち。練習が終わるころにはすっかり陽も落ち、あたりは暗闇に包まれていた
ボールを取られたら鬼役が交代というルールの下、行うボール回し。「取られてない!」と主張するDF加古晴也選手(写真左)に容赦なく鬼役のビブスが渡される
選手とともに機敏な動きを見せる野田知監督。Jリーグ創生期の横浜マリノスを支えたテクニックは現役引退から10年経ったいまも衰えず
真剣な表情で練習を見つめるFW米澤令衣選手。味方への厳しい要求や周囲を褒める声が響き渡っていた
過去に料理本も出版しているヴィッセル神戸のカリスマ寮母、村野明子さん。毎日、40〜50人分もの料理を作り、手際良く提供していく
この日のメニューは、ヒジキ入りハンバーグにサラダ、味噌汁、オレンジ玄米ごはん。勢いよくかき込む者、じっくり味わって食べる者など、食べ方一つにも個性が表れていた
食事の後に、皆で談笑する選手たち。各テーブルでは笑みがこぼれていた
食事の片付けをかけた「いっせーのせ」(地域や世代によって、指スマ、いっせっせなどの呼び方もある)。負けた者が他のテーブルに勝負を持ち掛ける光景も
ソファーに横たわりながら、ワールドカップを鑑賞していたDF加古晴也選手。突然、テレビが変わり、思わず起き上がる
監督・選手コメント
野田知 監督
今年の3年生はすごくいろいろなモノを背負ってしまっている。プレミアリーグWESTとJユースカップを獲った昨年の中心選手がごっそり残り、『今年もやらなければいけない』と彼らなりにプレッシャーを感じているように見えます。ここまではそうした気負いが裏目に出てしまったので、空気を打破するために僕がイジッたり、ネタを振ったりしています。
DF 15 東隼也 選手
基本的に寮では自由にノビノビと過ごさせてもらっているのですが、ハメを外し過ぎると注意されます。この間も寮の2階で筋力トレーニングをしていたら、なぜか皆で逆立ちが始まった。でも、うまくできずに倒れる人が多くて、『ドンドンしすぎ!』と下の階の寮長さんに怒られてしまいました…。寮は家にいるような感じで自分を出せますが、練習は集中しないとダメなのでコーチ陣が見えるとスイッチが入りますね。
MF 8 中井英人 選手
昨年みたいにチームの雰囲気を変えられる存在はいないので、誰かがカバーしなければいけません。淡々と黙々と練習をやっている感じが続いていたので、良い雰囲気を作ることも大事だと思いました。以前は強く要求することもあったけれど、入ってきたばかりの新入生に強く言い過ぎても、彼らの良さを消してしまうかもしれない。いまはできるだけ前向きな言葉を掛けるように意識しています。
FW 9 藤本裕豪 選手
野田監督は普段、感情を表に出さないけれど実は熱い人。勝てなかったときは落ち込んでいますし、勝ったときは本当にうれしそうにしている。監督は相手の逆を突くプレーがめちゃくちゃうまい。僕も同じように逆を突くプレーが得意なので、監督のプレーから学ばせてもらっています。あれだけうまいと何かを教わるときも説得力があるので、自分もやらなければと思います。
チームWebサイト
http://www.vissel-kobe.co.jp/academy/u-18/