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家本政明さん「とてつもなく大きい1%の喜び」 勇退審判員インタビュー
2021年12月21日
プロフェッショナルレフェリー(PR)でJリーグ担当審判員の家本政明審判員が2021シーズンをもってトップリーグ担当審判員から勇退しました。ここでは家本さんに審判人生を振り返ると共に後に続く審判員へのメッセージを聞きました。
○オンライン取材日:2021年12月6日
――国内トップリーグ担当審判員から勇退されました。現役生活全般を振り返っていただけますか。
家本 端的に言うと、辛さ・苦しさが99パーセント、喜びが1パーセントでした。ただ、「終わりよければすべて良し」ではないですが、そういう世界観を実現するために何を変え、選手やファン・サポーターの方とどのような関係性を作っていくべきかを考え続けてきて、その意味では最後の試合となったJ1第34節・横浜F・マリノス対川崎フロンターレ戦の試合の中身と、多くの方の愛に包まれた終了後の雰囲気を今振り返ってみると、「終わりよければすべて良し」を実現できたと実感しています。喜びの1パーセントは100等分した中の1ではなく、とてつもなく大きな1だったと感じています。
――試合後のセレモニーは、事前には伝えられていなかったのでしょうか。
家本 クラブが家族を招待してくださり、村井満Jリーグチェアマンも家族と一緒に試合を見てくださったこと、ファン・サポーターの方の私に対するメッセージも含め、すべてがサプライズでした。後から聞いた話では、試合の割り当てが発表になったタイミングで両クラブの運営担当がミーティングを重ねて準備をしてくれたようです。主役であってはいけない人間を最後に取り上げてくれたことには感謝しかないですし、審判人生で一番大きなサプライズであり、このうえない喜びでした。
――審判員人生の中で多くの学びや経験を得たと思いますが、それらは他の審判員と共有されているのでしょうか。
家本 僕が審判を始めた頃は、先輩の審判員から「試合の温度や空気感をどう感じていたか」、「あの時、選手はどのような表情だったか覚えているか」といったことを試合後の反省会でよく聞かれていました。ジャッジが正しかったかどうかももちろん大切ですが、それ以上に全体感や選手の心理、内情といった部分との向き合い方を問われました。今はジャッジの細部が正しいかどうか、評価がどうかという部分がフォーカスされがちですけど、それ以外に大切なものがあることを示したいという想いで取り組んできました。周囲の人から質問があれば対応してきましたが、最近は若手や中堅の審判員からいろいろな質問を受けることが増え、そこはすごく変わってきたところですね。
――家本さんにとって審判員とは?
家本 最初は「ルールの門番」的な存在なのかなと漠然と考えていましたが、いろいろ経験し、多くの価値観に触れ合う中で、門番とは少し異なるな、と考えるようになりました。
「感動や喜びの創造者」というイメージですね。スポーツには感動や喜びが不可欠なので、その世界観を創りあげるのも審判に求められている役割の一つなので「感動や喜びの創造者」がレフェリーなのかな、と思っています。
――これから審判を目指す人に伝えたいことはありますか?
家本 評価や競技規則の表面的なことばかりに気を取られるようにはならないでほしい、ということですね。レフェリーは何のために存在し、何を求められているのか。フットボールはどんなスポーツで、どんな歴史があるのか。そういったことが見えてくれば、必然的にレフェリーの望ましい姿が見えてくるはずです。また、人を愛することを忘れないでほしいです。フットボールは人間が関わっている社会なので、社会としてのつながりでは何が大事なのかを実直に見ていけば、見えてくるものはたくさんあります。何を大切にするか、誰を大切にするかという部分にしっかり向き合い続けてほしいですね。