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【SPECIAL】熱中症予防の重要性とその対策~福島理文U-23日本代表チームドクターに聞く
2024年06月27日
6月も下旬に差し掛かり、気温が高くなる日が増えてきました。本格的な夏を迎える前に熱中症予防について再確認しておきましょう。今回は、U-23日本代表のチームドクターも務める福島理文先生(日本サッカー協会[JFA]医学委員会スポーツ救命部会員/順天堂大学医学部循環器内科学講座)に熱中症の危険性と予防・対策について聞きました。
重要なのは予防!熱中症にならないために正しい知識と対策を
湿度にも注意、気温が高くなくても熱中症の危険性
Q:熱中症にはどのような症状が見られますか?
福島:熱中症は「熱失神」「熱けいれん」「熱疲労」「熱射病」に分類されますが、別々の病気ではなく、連続したひとつの病気です。それぞれ段階に応じて重症度が分けられています。軽症(Ⅰ度)、中等症(Ⅱ度)、重症(Ⅲ度)に分類するのが一般的です。症状が軽いからといって放置すると悪化する危険性があります。体調の異変に気付いたら、少しでも早く水分を補給し、涼しい場所に移動して休息を取るなど適切な処置をとらなければなりません。熱中症の応急処置についても確認し、熱中症の疑いがあるときにはすぐ対応できるよう準備しておきましょう。
Q:どうして熱中症になってしまうのでしょうか?
福島:通常、暑熱環境下や運動によって体温が上がると、私たちの体は熱を放出して体温を下げようと働きます。この体温調整機能の代表的なものが「発汗」です。皮膚表面の汗が蒸発するときに気化熱として体の熱が奪われ、体温を下げることができます。ところが、汗が蒸発しにくい環境、つまり湿度が高い、風が弱いといった状況下ではこの調整機能がうまく働かず、体内に熱がこもってしまいます。それによって熱中症にかかりやすくなります。
Q:熱中症の環境要因を測るものに「WBGT(湿球黒球温度)」があり、『JFA熱中症対策ガイドライン』でも指標となっています。WBGTについて教えてください。
福島:WBGTは、一般的に「暑さ指数」と呼ばれ、熱中症予防の目安となります。「人体の熱収支=私たちの体と外気との熱のやりとり」に大きな影響を及ぼす「湿度」「日射・輻射など周辺の熱環境」「気温」を総合的に取り入れた値で、これが“汗の蒸発しやすさ”の指標となります。
日本スポーツ協会(JSPO)は、「熱中症予防運動指針」において、WBGTが28℃以上のときは激しい運動を避ける、31℃以上になった場合には運動を原則中止するよう求めています。JFA の熱中症対策ガイドラインもこれに則って策定されたものです。今年5月にガイドラインを改正しましたので『熱中症対策ガイドライン改正について』も確認しておきましょう。
暑さ指標を測るWBGT計。特に31℃以上では、皮膚より外気の温度の
方が高くなることで体から熱を逃がすことができない危険な状況となる
気温が30℃以下でも、湿度が60%を超えると熱中症で亡くなる人が増えるというデータが出ています。WBGTが31℃以上でもやむを得ず試合を行わなくてはならない場合は、熱中症対策ガイドラインに則ってサッカー活動を行うようにしてください。
こまめな水分補給とクーリングで効果的に予防を
Q:水分補給で心掛けることはありますか。
福島:水分補給は、熱中症予防においてとても重要です。暑熱環境で激しい運動をすると、大量の発汗によって、水分のほかにナトリウムやカリウム、マグネシウムといったミネラルも失われます。ミネラルが失われた状態で水だけを摂取すると体内の塩分濃度が低下し、低ナトリウム血症に陥る危険があります。また、ナトリウム不足は意識障害を、筋肉の収縮に関与しているカリウムやマグネシウムが不足すると筋けいれんなどを起こします。運動時はエネルギーも消費していますので、ミネラルや糖分を含むスポーツドリンクや経口補水液で水分補給を行うことが必要です。
喉が渇いたと感じたときには、すでに体が水分不足に陥っている可能性があります。夏場は運動時にかかわらず、常に水分補給できるようにしておきましょう。
Q:運動前に体を冷やす「プレクーリング」も効果的でしょうか。
福島:プレクーリングは、運動中の過度の体温上昇を抑えるために行います。暑熱によるパフォーマンス低下を抑える効果もあるといわれています。プレクーリングの方法はさまざまありますが、これら全てを同時に取り入れることは難しいと思いますので、冷却効果が高いと考えられる送風や冷房、アイスタオル、手掌冷却などを組み合わせて、短い時間で効果を上げられるように工夫してください。アイスタオルやスポンジで頭や首などを冷やすと頭もスッキリしますので、集中力の向上にもつながると考えられます。積極的に取り入れることで、熱中症予防の効果を高めることができます。
<プレクーリング方法(例)>
●外部冷却:アイスバス(冷水浴)、クーリングベスト・アイスベストの着用、アイスパック、アイスタオル、ミストファン、送風、冷水シャワー、頭部・頸部の冷却、手掌冷却など
●内部冷却:水分補給、アイススラリー(シャーベッド状の氷)など
暑熱環境で運動する際は、いつでも水分補給できるように
しておくほか、体を冷やす環境を整えておくことも重要
U-23日本代表のAFC U23アジアカップでの取り組み
Q:4~5月には高温のカタールでAFC U23アジアカップが開催されました。大会前の暑熱順化や選手への意識付けで取り組まれたことを教えてください。
福島:カタールは暑いので事前の暑熱対策を行いました。大会の2週間ほど前からなるべく発汗する程度の入浴を行い、可能であればサウナも入ってもらうようにしました。その際、脱水にならないよう水分摂取を徐々に多くしてもらうことも必要でしたので、それにも心掛けていただきました。
屋内のジムなどでバイクやランニングを行う際は少し通気性の悪い服(ピステ、重ね着など)を着用し、30分程度、水分摂取をしながらトレーニングを行ってもらうようにしました。リーグのシーズン中でしたので、あくまでもコンディションを落とさないように注意してできる範囲で行ってもらうようにしました。
Q:大会に入ってからどのような暑熱対策(体調管理やクーリングなど)を行われたのでしょうか。
福島:日々の体調管理がとても大切であることは言うまでもありません。疲労や睡眠、体重などのコンディションチェックを行い、選手の状態を確認するようにしました。そして練習、試合の際は、必ずWGBT値を測定して暑熱対策を行いました。暑熱順化のため、カタール到着後の数日は日中の暑い環境で練習を行うことでしっかりと汗をかくようにしました。
水分補給に関しては、ミネラルウォーターのみならずスポーツドリンクや経口補水液も準備し、小まめに摂取できるようにし、クーリングはアイスバス(冷水浴)、クーリングベスト・アイスベストの着用、アイスパック、アイスタオル、ミストファン、送風、冷水シャワー、頭部・頸部の冷却、手掌冷却などを取り入れました。
練習・試合前後には体重測定を行い、運動中に減った体重分の水分を運動後2時間以内に補給するよう促しました。また、脱水にならないようにすることとパフォーマンス低下を来さないためにも、適切な水分の補給量は、体重減少が体重の2%以内に収まることを目安としました。そのほか、起床時の尿比重を定期的に測定して脱水の評価をし、練習までの水分摂取を促すなど日々のコンディション調整を行いました。
Q:そのほか熱中症予防で重要なことは何ですか。
福島:体調が悪かったり、日常生活が乱れたりすると体温調整能力は低下し、熱中症のリスクも高まります。熱中症予防には、食事、睡眠、水分補給など普段からのコンディション管理がとても大切です。規則正しい生活を心掛け、夏場でも楽しく健康にサッカー活動ができるよう、サッカーファミリーみんなで予防に取り組んでいきましょう。
プレクーリングとしても効果的な手掌冷却
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