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誰もが続けられる環境ができたときサッカーが文化になる~特別企画 グラスルーツ座談会~(JFAnews2018年2月情報号より転載)

2018年02月20日

誰もが続けられる環境ができたときサッカーが文化になる~特別企画 グラスルーツ座談会~(JFAnews2018年2月情報号より転載)

日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2018年2月情報号(No.406)では、特別企画としてグラスルーツ座談会が紹介されました。

■JFAnews2018年2月情報号(No.406)より転載 ■情報提供:サカイク

昨年8月、神奈川県横浜市で「U-17横浜サッカーフェスティバル」が行われた。大会には健常者のチームに加えて障がい者のチームも参加。両者が試合をするだけでなく、一般の高校サッカー部を指導しているコーチが障がい者チームを指導するなどしてそれぞれが交流を深めた。ここでは同フェスティバルの参加者を招き、さまざまな意見を交わした。

[進行]
松田薫二…日本サッカー協会グラスルーツ推進部部長

[参加者]
(五十音順)
荒瀬陽介…新潟県北越高校サッカー部監督
重田征紀…横浜FCアカデミーダイレクター
武井基……神奈川デフフットボールクラブ監督
竹澤静江…知的障がい者サッカー推進連盟理事長
箕輪義信…神奈川県立菅高校/元日本代表
森正明……神奈川県サッカー協会副会長/元日本代表
山道栄次…知的障がい者サッカー推進連盟理事兼事務局長

写真左から神奈川県デフフットボールクラブマネージャーの鈴木栄梨さん(通訳)、荒瀬氏、重田氏、武井氏、山道氏、松田氏、森氏、竹澤氏、箕輪氏

全員が同じ扱いを受ける新しい時代になってきた

松田 U-17横浜サッカーフェスティバルでは、健常者のチームと障がい者のチームが試合を行いました。今回は、どのような形でフェスティバルが行われたのか、そして参加した団体の皆さんは障がい者の方とそうでない方が一緒にサッカーをすることについてどんな考えを持っているかを聞かせていただければと思います。

山道 フェスティバルでは二日間にわたって高校サッカー部と親善試合をしました。また、星槎学園湘南のコーチにお願いして障がい者サッカー連盟の選手たちを練習に参加させてもらいました。チームには知的障がいの選手だけでなく、デフサッカー(聴覚障がい)の選手も入って混合で行いました。

竹澤 前回のフェスティバルの懇親会で「どんな障がいであろうと、サッカーでは誰もが支障なく活動できるといいな」と話をしたところ、健常者のサッカー団体の方たちが「そんなの気にしないでおいでよ」と言ってくれました。そこで、障がいによって選手たちを分けるのではなく、障がいのある人たちが輪になっていければという考えで、聴覚障がい、知的障がい、発達障がいという異なる障がいを持った人たちと一緒に参加しました。

武井 私は今回、コーチとして合同チームを率いました。5年前からデフサッカーの監督をしていますが、このようなイベント、大会はほとんどありません。障がいの有無に関係なくサッカーを楽しむ中でコミュニケーションをとりながら障がいについて学ぶことができる、有意義な場だったと思います。

重田 U-17横浜サッカーフェスティバルは、昨年で5回目を迎えました。創設した目的は、サッカーどころ横浜として、育成年代の選手たちを強化することです。全国からチームを招き、横浜という街の魅力を知ってもらいたい気持ちもあります。今後も障がい者チームとどのように関わり、大会としてどのような活動ができるのかを考えていきたいと思います。

 われわれ神奈川県サッカー協会も、障がい者サッカーの普及・育成・強化に力を入れる構えです。これらを進めるには「三つの間」が必要です。環境整備として、空間という意味での「間」。そして、その時間を共有するという時間の「間」。最後に、そこに携わる仲間の「間」。神奈川県には「かもめパーク」というグラウンドがあります。そこを利用しながら、あるいは学校の先生にも協力していただきながら、障がい者もそうでない者も同じ思いでサッカーという素晴らしいスポーツを共有することができればと思います。

荒瀬 新潟県北越高校サッカー部として今回のフェスティバルに参加し、たくさんのことに気づきました。新潟に戻ってからも、県内で活動している「ハットトリック」という知的障がい者のサッカーチームとふれあうことになりました。

箕輪 私は神奈川選抜U-17のコーチとしてフェスティバルに参加させてもらいました。健常者の大会に障がい者のチームが参加することで、サッカーにおいては障がい者と健常者の線引きが取り除かれつつあると感じます。私は教育現場に立っていますが、インクルーシブ教育といって、全ての人間が同じ扱いを受けられる、新しい社会をつくる時代になってきていると思います。

松田 障がい者のチームが健常者の大会に参加する。U-17横浜サッカーフェスティバルは新しい取り組みをしています。高校生年代の選手が障がい者の人たちとサッカーを通じて触れ合うことで、いろいろな気づきが生まれているのではないかと思います。これからも、より深い関係を築き上げていけるといいですね。一緒にサッカーをプレーすることで、互いの間にある壁のようなものが消えていく。それはサッカーが持つ力だと思います。そのような場をつくることが、スポーツの価値を高めることにもつながると思います。

障がい者サッカーチームは8月21日に横浜商科大学付属高校、22日には星槎学園湘南と親善試合を行った(試合は30分ハーフで実施)

壁を越えるには情報共有が必要

箕輪 一般のチームが障がい者のチームと試合をするときに、例えば、どれくらいの強さでフィジカルコンタクトをしていいのかなどの加減が分かりません。そのあたりの怖さは、障がい者もそうでない人も抱いているので、互いに交流することで理解を深めていければと思います。神奈川県は、障がい者サッカーへの取り組みに熱心です。先駆者となって、多くの情報を発信していければいいですし、子どもたちの心身を育む上でもとても良い経験になるのではないかと思います。

松田 障がいがある人とない人が親善を深める中でのポイントは何だと思いますか。

武井 人との出会いの先に交流があるのではないかと思っています。私が指導するクラブは神奈川県の川和高校と親善試合を4年連続でやっていて、聴覚障がいの選手と、健聴者の高校生が手話を交えて会話しています。午前中はグループワーク、午後は試合形式という形で取り組んでいます。聴覚障がい者は、補聴器を外すと音のない世界になります。そこで、障がいのない選手に耳栓をつけて試合に臨んでもらい、感想を聞くと、怖いけど視野が広がるとのことでした。このように、障がい者と健聴者がサッカーを通じて理解できる場があればいいと思います。そのためには情報の共有が不可欠で、さまざまな人と接する場がほしいです。

松田 JFAで情報を集約して、みんなで共有できるようにしていきたいですね。こういう場があると分かれば、さらにやりとりが増え、障がい者の皆さんがプレーする場も増えると思います。

山道 川和高校との交流で驚いたのは、サッカー部の2年生、60人全員が手話を駆使していること。それも一夜漬けのレベルではないんです。「何で手話ができるの?」と聞いたら「大学に行って、特別養護学校の教員になりたいから」と言っていました。先生に話をうかがうと、「川和高校では週に2時間、手話や介助の勉強をする時間があります」と。そのような学校現場での取り組みが共生社会につながるのだと感じました。

竹澤 近年、知的障がいの選手たちも手話を使い始めています。彼らは物事を記憶することが苦手なので、手話を覚えるのはとても難しいはずなんです。でも「デフ(聴覚障がい)の選手と会ったときに話がしたいから」と、本を買って覚えたそうです。障がいの有無にかかわらず、互いのことを知りたい、多くのことを学びたいという気持ちは誰しも持っていると思います。障がいのない選手たちとも交わることで一緒にサッカーをする仲間として垣根がなくなればいいですし、実際に良い取り組みが行われているので、これからも発信していきたいと思っています。


参加者は活発に意見すると同時に、他参加者の話に熱心に耳を傾けていた。なお、座談会は音声認識アプリ「UDトーク」を駆使して進行された。

Jクラブが進める人と人の橋渡し 

松田 障がい者と一般の選手がサッカーを通じて交流するためには、グラウンドをはじめとする環境が必要です。横浜FCは積極的に障がい者サッカーの大会を開催していますね。

重田 Jクラブができることは、施設を用意すること。大会を主催して障がい者とそうでない人の橋渡しをすれば、そこから関係が始まり、互いを知る機会にもなると思います。今後も自分たちに何ができるか考えながら、少しでもサポートができればと思います。

荒瀬 新潟には障がい者のサッカーチームが一つしかありません。人口が少なく、活動範囲が広域ということもあって、普及という面では手が回り切らない現状があります。そのため、障がいのある子どもがサッカーをする場所があることを知らない場合も多いと思います。その中には、サッカーに向いている子がいるかもしれません。われわれは高校のサッカー部としてできる取り組みを探していきたいですし、神奈川県の取り組みを参考にしたいです。

松田 サッカーに限らず、最初は誰かが小さな種をまき、それが芽吹き成長して、大きなムーブメントになっていきます。神奈川県も同じで、神奈川県サッカー協会副会長であり、県議会議員の森さんがその礎を築きました。

森 20年ほど前、障がい者サッカーのチームを指導していたときに、視覚障がいの人たちが使うボールをつくるため、(スポーツ用品メーカーの)モルテンにお願いしてボールの中に鈴とオルゴールを入れてもらったことがありました。昨年、盲学校の子どもたちのために桜の木の苗を植えに学校に行ったときのことです。校長先生に呼ばれて教室に入ると、20年ほど前に私が子どもたちにサインしたそのボールが出てきました。ずっと大事にとっておいてくれたんです。感動で胸が熱くなりました。今の自分に何ができるか、できることがあればしてあげたいと強く思いました。

松田 日本には育成年代から勝利至上主義が蔓延している側面があり、サッカーが上手でない選手はチームから冷遇されるとも聞きます。しかし、基本的にスポーツは楽しむものであり、自発的であるべきです。サッカーをやりたいと思ったら、どんな人もサッカーを楽しめて継続できる環境があることが大事だと思うんです。育成年代では、高いレベルを目指す人しか大人になるまで続けられないような現状がありますが、そうではなく、誰でもサッカーを続けていける環境ができたときに、サッカーが名実ともに「文化」になるのだと思います。座談会にお集まりいただいた皆さんは、その環境につながる素晴らしい取り組みをされています。皆さんが活動されるときにはぜひお知らせいただき、こちらからも情報を発信して、多くの人に知ってもらえるようにしたいと思います。

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