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アジアのピッチから ~JFA公認海外派遣指導者通信~ 第12回鈴木隣 スリランカU-16代表監督

2015年12月08日

アジアのピッチから ~JFA公認海外派遣指導者通信~ 第12回鈴木隣 スリランカU-16代表監督

アジアの各国で活躍する指導者達の声を伝える「アジアのピッチから」。第12回は、スリランカでU-16代表監督を務める鈴木隣氏のレポートです。

「インド洋の風に吹かれて、そして南アジアの真珠になる」

スリランカという国、現在の暮らしについて

スリランカはインド洋に浮かぶ小さな島国で、赤道近くに位置するため1年中温暖な気候です。面積は北海道の約8割で、人口は約2,027万人(2012年統計)です。人種・民族は、シンハラ人(72.9%)とタミル人(18.0%)、ムーア人(8%)が大半を占めており、宗教は、仏教(70%)やヒンズー教、イスラム教、キリスト教が混ざり合った多民族多宗教国家です。

私は昨年の10月にスリランカサッカー協会にU-16の代表監督として派遣されましたが、協会側の依頼により、男女カテゴリーを問わず様々な世代の代表監督及びテクニカルダイレクターも兼任しています。

過去に指導したアジアの国での経験から、スリランカサッカーや協会の組織体制の現状を理解するには、まずは文化に対する理解や人間関係の構築が重要だと考えました。皆と一緒に手でカレーを食べ、幹部との食事会には積極的に参加し、また練習では実際に選手に混じって一緒に汗を流し関係性を深めてきました。このように、同じ目線で触れ合うことでつながりが深まり、今では本音でスリランカサッカー事情と課題点を話し、その解決策を見出すべくお互いに意見をぶつけ合うようになりました。

スリランカのサッカー事情

約25年の内戦による環境悪化の影響もあり、スリランカサッカーは長らく低迷を続けています。1990年代は国内リーグも盛んで南アジアでもトップクラスであり、93年には代表チームが渡日し、三浦知良やラモス瑠偉を擁する日本代表チームとW杯予選を戦いました。しかし、その後は国全体がクリケットとラグビーに力を入れるようになり、多くのグラウンドがクリケット場とラグビー場に変わりサッカーはどんどん衰退してきました。近年では、今年4月に開催された2018FIFAワールドカップロシア アジア1次予選で当時FIFAランキング最下位のブータンに初の敗戦を喫し、それ以外でも男女問わずさまざまなカテゴリーで南アジアの国々に連敗している状況です。このように過去最低のレベルにあるにも関わらず、危機感が薄いのが大きな問題の一つです。先日のアジア予選で敗退した際、選手たちは涙を流し現場のコーチたちも大変悔しがっており、私自信も試合後にテクニカルレポートで今後の課題を挙げて提出しましたが、残念ながら現段階では組織レベルでの対策をまだ打ち出すことができていません。

痛感した組織改革の重要性

このようにスリランカのサッカーは現在危機的な状況です。強化のためには、まず組織自体の意識改革が必要だと考え、協会幹部に組織改革と長期的視点にたったユース年代の育成の重要性を訴えています。会議では、会長や幹部との日頃の会話で出てきた意見を率直に話し、スタッフの意見を吸い上げるように心がけています。そして徐々に、スリランカサッカーの発展と向上のための、新しいユース育成プログラム構築の考えを理解していただけるようになりました。

スリランカ人のサッカーの特徴について

スリランカでは、13歳以上の子供達は学校の体育授業や休み時間、放課後の部活でサッカーをしていますが、それ以下の子供たちがサッカーをしている姿をあまり見かけません。一方、地方では、サッカーシューズを買えない子供たちが、ボロボロのボールを素足で蹴っています。新品のボールを持っていけば、そのボールを宝物のように奪いあい、夢中で蹴っています。

彼らはゴールデンエイジの年代であり、サッカーを楽しみ、ボールに触れ、ボールコントロール、テクニック、スキルを吸収して飛躍的に伸ばせる大切な時期です。スリランカサッカーの発展のためには、サッカー自体を楽しむすそ野を広げることが最も重要な課題です。

この国のキッズからユース年代までの子供たちは、サッカーに飢えています。環境が整った中で正しいトレーニングを行えば、持って生まれた、手足の長い独特の身体能力を活かした素晴らしいタレントが出てくるでしょう。       

今後の取り組み

長期的なユース世代の育成のためにナショナルトレセンの組織を来年度から作ろうという計画により、具体的なプロジェクトが動き出しました。前述のようにスリランカではサッカーを本格的に始めるのが13歳と遅く、早期育成が最重要課題となっています。アカデミーは10歳から15歳の子供を対象に、国内5都市を拠点に幅広く育成強化と人材発掘を目指していますが、経済格差の影響により、主要都市であるコロンボの上流家庭の子供たちのみがトレセンに選ばれている現状です。

また、日本サッカー協会・Jリーグとの協定を締結しているJICA(日本国際協力機構)のスリランカ事務所との連携も積極的に進める予定です。これまでも、JICAの青年海外協力隊のサッカー隊員達と協力してさまざまな活動を行ってきました。彼らはスリランカの各地方都市に配属され、現地の人々と生活を共にしながらサッカーの指導を行っています。彼らには情報収集や通訳として協力してもらったり、彼らも同時に指導について学ぶことで、お互いに非常に良い関係を築いています。

最後に、普段大事にしているマルチン・ルターの言葉を紹介します。これは東日本大震災で亡くなった父が私に残してくれたものです。「明日世界が滅びようともリンゴの苗を植え続ける」、この言葉を糧に諦めずに忍耐力を持って今の活動に取り組み、将来的にスリランカのサッカーが南アジアの真珠と言われるように発展することが私の目標です。

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