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アジアのピッチから~JFA公認海外派遣指導者通信~第27回 井上卓也 U-17シンガポール代表監督
2017年05月17日
アジアの各国で活躍する指導者達の声を伝える「アジアのピッチから」。第27回は、シンガポールサッカー協会(FAS)でU-17シンガポール代表監督を務める井上卓也氏のレポートです。
シンガポールにおけるサッカー事情
中華系、マレー系、インド系、ユーラシア系からなる複合民族国家でそれぞれの言語・文化・宗教が共存共生するシンガポール。現在私が指導するチームはマレー系(イスラム教徒)が8割近くを占めています。彼らはラマダン(断食)期間中は日の出から日没まで飲食をしないため、練習や試合は日没後に食事を摂ってから行います。これは私にとってはシンガポールに来るまで経験のないことでしたがようやく慣れてきました。
東京23区と同じくらいの国土に人口約550万人、そのうち6割がシンガポール国籍で残りの4割が永住者・外国籍の人々です。少ない人材からタレントを発掘し、育成していく難しさがあります。練習場所は公立のスタジアム。フィールドの周囲をジョギングする人々や大音量でエアロビクスをしている団体のそばでの練習でも集中力を途切れさせず、高い強度での練習を心がけています。
シンガポールではサッカーの人気は高く、特にプレミアリーグ、ブンデスリーガ等の欧州リーグが人気です。週末には様々な所でアマチュアサッカー、フットサルも行われています。ただその人気が残念ながら自国のSリーグには反映されておらず、昨今の東南アジア諸国の隆盛に比べるとその後塵を拝していると言わざるを得ません。
シンガポールにおける活動
FASでは、ナショナルフットボールアカデミー(NFA)にU-14・U-15・U-16・U-17・U-18の各チーム、U-20 ディベロップメントチーム、さらに育成強化を目的とするU-22の「ヤング・ライオンズ」(Sリーグ参戦中)がそれぞれ活動しています。
私は、一昨年・昨年とNFA U-18監督並びにU-18・U-19シンガポール代表監督としてAFC U-19選手権の予選やAFF(アセアンサッカー連盟)U-19選手権を戦いました。2017年は、NFA U-17監督として活動しており、日常のトレーニングと週末の「プライムリーグ」(Sリーグ21歳以下のリーグ)に最も若いチームとして参戦しています。
U-17の選手たちは昨年までU-16としてクラブのU-17リーグに参戦していたため、リーグのレベルが格段に上がった今年は4~5歳年齢が上の選手との対戦に順応するのに少し時間がかかっている状況です。試合ごとの波が大きい、良い内容の試合をしながらチャンスを決められない、またはワンチャンスで失点してしまうなど課題は多いですが、今は個人の技術徹底とグループ戦術の習熟を目標としています。特に、ディシプリンやマインドセットなどメンタル面で働きかけることがまだまだ多いです。
現在FASでは、ベルギー人のテクニカルダイレクターの下、グラスルーツ・指導者養成・選手育成強化の3本柱でサッカーの発展に努力しています。育成強化のヘッドはフランス人、GKとフィィジカルコーチの両アドバイザーにベルギー人、その他育成の現場にオランダ人、フランス人、日本人そして地元のシンガポール人と、まさに多国籍で育成強化に当たっています。
シンガポールは人材開発を目的とする教育に熱心な国なので、スポーツの強化は少し後回しにされています。選手たちは、勉強とスポーツ活動の両立が容易でなく、中には勉強に専念するためにサッカーをやめてしまうケースもあります。また、限られた活動施設・教育システム・徴兵制度など選手育成において難しい面も多いのですが、現場でできることを選手一人一人に対して最大限やっていくことを心がけています。
2017 JリーグU-16チャレンジリーグへの参戦
4月4~6日に静岡県で行われた「2017JリーグU-16チャレンジリーグ」に参戦しました。3日間で5試合を戦うタフな日程ではありましたが、スタイルの異なる各チームとの対戦を通してシンガポールの選手・スタッフたちは、非常に貴重な経験をすることができました。自分たちのやりたいことができた試合もあれば、個人技術・戦術に優れた相手に何もさせてもらえなかった試合もあり、結果は2勝3敗で4位という成績でしたが、それ以上に現時点で自分たちの何が通用し、何が通用しないのかを体感でき、日本チームとの差を再確認できたことが大きな成果でした。審判のジャッジ基準もシンガポールとは異なり、簡単に倒れファウルをアピールしてもとって貰えないなど、よりタフさを求められる中で順応力も鍛えられました。そして、選手たちは自分たちのメンタル面の弱さにも気付いたようです。指導者の私としては、負けた試合後に悔しくて涙する選手の姿を見て、まだ鍛え甲斐があると感じました。今回のピッチ内外での経験を、選手として、人としての成長に活かしてくれることを願っています。
日本滞在中には、書道体験や千鳥ヶ淵の満開の桜の下を散策などの文化交流プログラムもあり、選手たちは大満足で素晴らしい体験が出来たと大喜びでした。この機会を与えて下さったJリーグならびに国際交流基金アジアセンターに心より感謝申し上げます。
今回明らかになった課題、特に個人の技術・戦術の成熟度を真摯に受け止め、レベルアップを図ることがアジア諸国・東南アジア諸国との差を縮めることに繋がります。最近では、東南アジア諸国出身の選手がJリーグでプレーする事例が増えてきました。近い将来、シンガポール出身のJリーグ選手が出てくれば、この国のサッカー発展に繋がると私は信じています。
JFA公認海外派遣指導者
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