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選手と監督は対等の関係 ~いつも心にリスペクト Vol.73~

2019年06月26日

選手と監督は対等の関係 ~いつも心にリスペクト Vol.73~

4月20日のJリーグ浦和レッズ対ヴィッセル神戸の試合後、埼玉スタジアムの記者会見場で、会見を終えた浦和のオズワルド・オリヴェイラ監督を数人の記者が囲んで話をしていました。その最中に突然、オリヴェイラ監督が目を見開いて喜びの表情を見せました。

記者の輪の外からオリヴェイラ監督に声をかけたのは、神戸の西大伍選手でした。ことし鹿島アントラーズから神戸に移籍してすぐにポジションをつかみ、日本代表にも呼ばれたJリーグ屈指の右サイドバックです。圧倒的に押しながら0-1で敗れたものの、この日の試合でも、西選手の技術と読み、そして機を逃さない攻撃参加は目を引いていました。そして西選手は、鹿島に在籍していた時期にオリヴェイラ監督の下でプレーしたことがあったのです。

黒いチームスーツに身を包んだ西選手が近づくと、オリヴェイラ監督は「おお、マイ・ボーイ!」と両手を広げて彼を迎え、ハグし、固く握手しました。

「もう31歳。ボーイじゃありませんよ」と笑いながら西選手。

「そうだな。あのころは若かったが、きみは最初からすごいプレーをしていたよ」。オリヴェイラ監督は本当にうれしそうでした。

埼玉スタジアムの記者会見室は、試合後に両チームの選手が記者たちと話すために通る「ミックスゾーン」というエリアから少し入ったところにあります。西選手は、その通路を通って記者たちと話し終わった後、わざわざオリヴェイラ監督を探しにきたのです。

二言三言話すと、西選手は記者たちに向かって「おじゃましてすみませんでした」と言って去っていきました。

プロのサッカーは選手も監督もひとつのクラブで長く過ごすわけではありません。ごくたまに、選手生活をひとつのクラブで終える選手、何十年間もひとつのクラブで指揮を執る監督がいますが、基本的には選手には移籍がつきものであり、通常、監督たちは選手より短い期間で代わっていきます。

しかしそうした選手と監督間にも、短期間でも世話になった人、そして自分の下で懸命にプレーしてくれた人への「リスペクト」の気持ちがあることは、外から見ていてもよくわかります。

ピッチに入場した後、キックオフまでの短い時間に相手チームのベンチに行き、監督にあいさつする選手の姿をよく見かけます。言葉などかわす時間はありません。しかし監督もベンチから出てきて走り寄った選手と握手するのは、サッカーの「試合」のなかでも美しいシーンのひとつだと、私は思っています。Jリーグでそうした行為をするのは外国籍の選手に多かったのですが、近年では日本人選手もごく普通にそうした行動が取れるようになってきました。

しかし西選手の行動は格別でした。わざわざ捜しにきたことだけでなく、オリヴェイラ監督に対して「選手と監督」あるいは「師と弟子」というより「いっしょに仕事をした仲間」としてのリスペクトを示しているように見えたからです。

西選手はコンサドーレ札幌のアカデミーで育ち、札幌とアルビレックス新潟で計5シーズンプレーした後、2011年、23歳のときに鹿島に移籍しました。オリヴェイラ監督はこの年を最後に鹿島の監督を退いているので、「いっしょに仕事をした」期間は1シーズンしかありません。ふたりのやりとりを見ていて、「何シーズンいっしょにやったのかな」と思い、調べてみて驚きました。たった1シーズンでも、プロ選手と監督の関係は非常に濃厚なのでしょう。

しかも西選手の態度は「恩師」に対するもののようではありませんでした。へりくだるのではなく、非常に堂々としていて、まったく対等の人間同士としてのリスペクトの表現のように感じられました。

監督だから、先生だから、先輩だからあいさつするのではなく、過去の一時、同じ情熱を傾けてひとつの目標に向かって仕事をした者同士として、対等の立場での「仲間」へのリスペクト。西選手の堂々とした態度に、私は日本のプロサッカーの成熟を感じました。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2019年5月号より転載しています。

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