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自分らしい指導者を目指して ~サッカーの活動における暴力根絶に向けてVol.120~

2024年06月18日

自分らしい指導者を目指して ~サッカーの活動における暴力根絶に向けてVol.120~

はじめに

今回、こうして報告できる機会を与えていただき、まずは感謝申し上げます。執筆をしている現在も、「これで正しいのか」「良い判断なのか」と常に葛藤しながら指導に携わっています。この報告を読んでいただき、指導者の皆さんにとって何か一つでも考える機会になれば幸いです。

コロナ禍で得た気付き

指導を始めた2007年から、「勝ちたい」という純粋な気持ちを持つとともに、茨城県北部地区(日立市)のサッカーの発展に貢献するためには、地域に強いチーム(シンボル的な)が必要だと考えて活動してきました。また、関わる選手たちに対しては「将来豊かな人生を送るため、自らの発想で行動できる人になってほしい」との思いを持って指導してきました。しかし、年数を重ねるごとに、学校やサッカー部全体の意識、そして周囲の期待も、「戦績」に比重がかかるようになりました。戦績が積み上がる一方で、選手の人間性の成長に目を向けると、徐々に自分の意識の中に「このままで本当に良いのか」と考える時間が増えるようになりました。

大きな意識の転換機会となったのは、新型コロナウイルス感染症と令和5年度関東高校サッカー大会茨城県予選の2つでした。コロナ禍で各大会が中止となり、戦績以外でどのようにして選手たちの満足度を高めていくかを一緒に考える非常に良い機会になりました。その頃から、「戦績」と同じくらい選手個々の「伸び率(成長)」を大切にするようになりました。

2023年4月には、総部員数(男女合計)が過去最多の150人となりました。遠方からも進学を希望していただけるようになり、高まる周囲の期待を感じる一方、部員の増加とともに、生徒の規範意識や自己成長力の差に課題意識を持つようになりました。「あるべき場所に物がない」「問題意識を持っているが、改善のために行動に移す姿勢が見られない」など、指導の軸に据えてきた「自らの発想で行動すること」が浸透していないことが気に掛かるようになりました。迎えた4月下旬の関東大会の茨城県予選では、2回戦敗退となりました。試合に出場した選手たちの力を十分に発揮させられなかったことや、試合に出ていない選手たちも含めて思いがそろっていないことに対し、監督としての至らなさを感じました。自分自身でもうすうす感じていましたが、その要因は明確で、各場面で気掛かりとなっていた、さまざまなサインを放置していたからだと、すぐに気が付きました。

当事者意識を持って「考えて、行動する」

指導力不足を痛感し、大切な選手を預かる責任が果たせていないことに気が付いた私は、まず自分自身が変わる(指導方法を変化させる)ことから考えました。たどり着いたのは、選手たちにも部活動運営の構成者であることを理解(実感)させるため、現状の問題に当事者意識を持たせ、改善策を練ってもらうということでした。つまり、トレーニングを止め、選手たち自身でチームの問題について考えて、行動を起こすことを求めました。私たちコーチングスタッフは、観察することに徹しました。

これまでの指導を振り返ると、今回のようなケースでは、力強く叱る(高圧的な指導)、もしくは指導者側が最終的な結論(答え)を持ち、選手たちに考えさせても最終的には指導者側が用意していた結論に近づける手法をとっていたと思います。しかし、それではこの課題について、表面上は解決したように見える(感じる)ことはありますが、指導の軸に据えている「自らの発想」を引き出していくことが、本当はできていなかったのではないかと考えました。

この指導の後で、コーチングスタッフから「今回の件は、選手たちだけでなく、コーチングスタッフにとっても重要な機会(新たな挑戦)だった」ということを伝えられました。あらためて、それぞれの立場で「考えて、行動する」こと、大人から見たら未熟であっても、選手たちが成長のために考えて、行動したことを尊重する大切さに、私自身も気付かされました。

ミーティングを重ね、「自分たちの部活動のあり方」について、あらためて大切にしてきた価値観を合わせてから、部活動を再出発させました。私も全体活動の再開から少し遅れて、部活動の技術指導に復帰しましたが、コーチングスタッフや選手たちの姿勢に大きな変化を感じました。「みんなで明秀日立を良くしていこう」という一体感は、以降のトレーニングやトレーニングマッチはもちろん、令和5年度全国高等学校総合体育大会サッカー競技大会の茨城県予選でも強く感じました。結果として、4回目の全国大会出場を果たし、全部員で臨んだ「翔び立て若き翼 北海道総体 2023」では、創部初の日本一を達成することができました。この戦績はもちろんうれしいことですが、私は指導者や選手、保護者の目線がそろい、各活動に取り組めたことが、何よりの喜びでした。この経験を通して、あらためてサッカー界で大切な価値観として示される選手の成長のために、という精神を大切にしていきたいと強く思いました。

おわりに

この報告を作成している今でも、「これが一番良い道だ」と断定できるものはありません。ただし、選手の大切な人生を預かる指導現場において、「問題がない」状態を「良し」とするのか、さらに良くするために「日常に疑問を抱き、何を(どう)考えるか」で、組織や個人の成長曲線は大きく変わると信じています。「これで良い」という考え方ではなく、「これが良い」というさまざまなアプローチに、これからも挑戦していきたいと思います。今後も指導に携わる者として、まず私自身の姿勢を常に見直していきたいと思います。

【報告者】萬場努(明秀学園日立高校サッカー部監督)

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会『テクニカルニュース』2024年3月号より転載しています。

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