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SAMURAI BLUEレポート report

2017.7.26

【恩師が語る日本代表選手の少年時代#第3回】:原口元気(ヘルタ・ベルリン)<前編>その本質は「ドリブル」ではなく「判断力」

埼玉県熊谷市で活動する江南南サッカー少年団は、いわゆる地方の街クラブでありながら、全日本少年サッカー大会や全日本少年フットサル大会(バーモントカップ)で優勝を飾るなど、全国レベルの強豪チームとして、少年サッカーシーンで名を馳せている。

今年5月に行われたJA全農杯チビリンピックでも、決勝でサガン鳥栖U-12を下して、見事に日本一に輝いた。そんな強豪クラブを33年に渡って率いているのが、まつもとようすけまつもとようすけ監督だ。

これまでに多くの子どもたちを指導してきた松本さんにとって、もっとも印象に残っているのが原口元気選手である。松本さんはチームに入ったばかりの原口選手の印象を、今でもはっきりと覚えている。

「原口は1年生で入ってきたのですが、しばらくして、同級生と一緒にやりたくない、もっとうまい子たちとやりたいから3年生のチームに入れてくれ、と言ってきたのです」

松本さんは、能力があれば上の学年でやらせることをためらわなかったが、さすがに2学年上でやらせることは、これまでにほとんどなかった。

「でも、やらせてみせたら対等に渡り合えていたので、原口は1年生ながら3年生のチームでプレーさせていましたね」

決して身体が大きかったわけでもなく、スピードも秀でていたわけでもない。ただひとつだけ、原口選手には優れた能力があったという。

「ドリブルですか?いえ、ドリブルは確かにうまかったけれど、原口よりうまい選手はいましたよ。でも、彼は優れた判断力を持っていました。サッカーで一番大切なのは、何をすることが勝つためにベストなのかという判断。その判断力があれば、たとえ1年生であっても、身体能力ではかなわない3年生の中に入ってもサッカーができるのです」

その判断力を身に付けるためには、何が必要なのか。松本さんは「止めて蹴る」という基本技術を真っ先に挙げる。

「判断するためには周りが見えていないといけないですよね。周りを見るというのは、まず止めるという基本技術がしっかりとできないといけません。それは練習だけで身に付くものではない。本当にサッカーが好きかどうか。好きで年中ボールを触っている子が、その技術を習得できるのです」

長年、少年サッカーの指導に携わっている松本さんは、これまでに全国の強豪チームと数多く対戦した経験があり、同時に数多くのJリーガーの少年時代を見てきている。

「ボールを止めた瞬間に分かりますね、この子はプロになる選手だなってことが。小野伸二選手もそうでしたし、清武弘嗣選手もそうでした。彼らに共通していたのは止めて蹴るという技術の高さに支えられた判断力。原口もそうしたものが身に付いていた選手でした」

だから、松本さんは現在の原口選手がドリブラーと認識されていることに、多少の違和感を覚えている。たしかに江南南サッカー少年団ではまず1対1で勝つことをテーマとし、ドリブルを重視する指導を行っており、原口選手もドリブルに自信を持っていたのは事実である。しかし、原口選手の本質は、あくまで判断力。だから、日本代表の試合でボランチとして出場した時には、思わず手を叩いてしまったそうだ。

「ハリルホジッチ監督は凄いなと。原口のそういう能力をあの方は分かったのでしょうね。私しか分かっていないと思っていたのですが(笑)」

また、松本さんは優れた選手のプレーは、ボールと遊んでいる感覚があると言う。そして、原口選手のプレーからも“遊び”を感じとることが多かったそうだ。

「私はストイコビッチ選手が好きで、よく試合を観に行っていたのですが、原口のプレーを見ていると、この子はストイコビッチ選手に似ているなと。考えていることとか、それを実際にやってしまう技術とか、本当にすごいなと思うことが多かったです」

常に上の学年のチームでプレーした原口選手は、3年生になると6年生のチームに抜擢され、県大会の決勝で2ゴールを奪って勝利に貢献した。全国大会でもベスト4に進出したほど強かったチームにおいて、3年生でメンバーに入り、しかも結果を出してしまうところに、当時の原口選手の凄さが表れている。もっとも、全国大会のメンバーに原口選手の名前はなかった。

「埼玉県の大会では20人登録できたのですが、全国大会は16人。4人削る必要があったので、原口を外しました。すると当然原口は、『なんで僕を外すのか。僕のほうが・・・』と言うわけですよ(笑)」

たしかに原口選手は上級生をも上回るだけの技術や得点能力が備わっていた。それでも松本さんは心を鬼にして、こう伝えたそうだ。

「お前が点を取れるのは6年生が相手のボールを取って、お前にパスしてくれるからだ。お前は、点は取れるけど、他のメンバーは、別の優れた能力がたくさんある。攻撃だけが大切じゃないんだよ」

すると、原口選手は意外とすんなりと受け入れてくれたという。

「我が強い子ではあったけれど、説明すると結構分かってくれました。そういう意味でも、賢い子でしたね」

そもそも江南南サッカー少年団は、常日頃から自己主張を求める指導を行っている。

「こちらが、ああしろ、こうしろというのではなく、自分の考えたことをプレーしなさいと。当然、チーム内で意見が食い違うわけですよ。でも、そこでどうするかを話し合える人間にならないといけない。自分の意見を持つことは、サッカーだけでなく、社会に出てからも役に立つもの。だから、うちの子は、中学や高校に行くと、結構わがままだと言われますね(笑)。自己主張とわがままは紙一重ですから。どちらかというと、日本は自己主張を嫌う文化がある。だから、原口は早く海外のチームに行ったほうがいいなとは思っていました」

確かな判断力と、揺るぎない考えを備えながら、周囲の意見にもしっかりと耳を傾け、自分のものとして吸収していく。原口選手は小学生のうちから、サッカー選手として必要な要素を身に付けていたのだ。

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