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[特集]中学校部活動の未来 ~誰もが楽しんで サッカーができる環境を整えていく 池田洋二JFA部活動推進委員会委員長×影山雅永JFA部活動推進委員会副委員長(JFAユース育成ダイレクター)対談 後編

2023年04月20日

[特集]中学校部活動の未来 ~誰もが楽しんで サッカーができる環境を整えていく 池田洋二JFA部活動推進委員会委員長×影山雅永JFA部活動推進委員会副委員長(JFAユース育成ダイレクター)対談 後編

中学校部活動の地域移行に対して、日本サッカー協会(JFA)は部活動推進委員会を立ち上げ、対応策を検討してきた。
委員会ではどのようなことを話し合っているのか。
現在の運動部活動の実情や課題、またサッカー界としての取り組みなどについて、池田洋二委員長と影山雅永副委員長に話を聞いた。

○対談日:2023年2月14日
※本記事はJFAnews2023年3月号に掲載されたものです

前編はこちら

地域移行の好事例を共有してサッカー界全体で取り組む

――JFAでは、昨年5月に部活動推進委員会が立ち上がりました。委員会が目指していることなどを教えてください。

池田 サッカーをやりたい子どもがサッカーをできる環境、そして楽しくプレーできる環境をしっかりとつくっていきたい。部活動の地域移行が進んでも、それぞれに合ったものを自由に選べる環境づくりを進めていこうと、委員会を立ち上げ、そのための方法や対応策などを考えています。

――今年度から「休日の運動部活動の段階的な地域移行」がスタートしますが、自治体や学校、クラブ、指導者の体制づくりは進んでいるのでしょうか。また、改革の意図が正しく理解されていないと感じることはありますか。

影山 混乱しているところが多いですね。昨年の段階では、大半の現場で「何をどうやっていいのか分からない」という状況でした。

4月から地域移行が実施されますが、スポーツ庁、文化庁の要求額に対して、政府の2023年度の予算案では、部活動の地域移行を進めるための事業費が半分以下の額になったこともあり、「できるわけがない」と考えている人も多いようです。ただ、既にアクションを起こしている地域もありますので、スピードは落ちても移行は進んでいくと思います。サッカー界こそが他の競技に先んじてスポーツ界の未来をつくっていかなければならないとも思っていますので、勇気を持って推し進めていきたいと考えています。

池田 学校の施設や用具を活用する形での地域移行は、有効な方法の一つだと考えています。他の場所で行うとなると、移動費用の負担も増えますし、用具を運んだり、新たに用意しなければならないものも出てくるでしょう。また、教員が指導を希望した場合、兼職兼業の許可を得れば可能になりますが、時間外労働と休日労働の合計時間が単月100時間未満、複数月平均80時間以内などと規定されています。この点を考えても、勤務地である学校から離れた場所で活動するのは難しい部分があります。まずは学校内でスタートし、徐々に外に持っていくような形も一つの方法かと思います。

――委員会では地域移行の想定パターンを主に三つに分け、分かりやすく活動事例を紹介しています(【図1】参照)。それぞれの特徴や課題もあると思いますが、委員会としてそれらをどのように発信していく方針でしょうか。

池田 いろいろなやり方があり、また地域差もありますので、日本全国で全く同じ方法ではできないと思います。各地域がやりやすい方法を選択できるよう、三つのパターンに当てはまる事例を集めながら発信して、「うちの地域は特徴としてここに似ているから、このパターンでやってみよう」という形で進めてもらえるようにしたいと考えています。もちろんさまざまな事例が出てくるでしょうから、そうした情報収集も並行して進めていければと思います。

――これまでもサッカー界では何か改革を図ろうとするとき、モデルケースをつくったり、さまざまな事例を発信しながら推し進めてきました。

影山 サッカーに携わっている人たちは、もっと良くするためにはどうすればいいかという視点で考えており、次に向けて自らアクションを起こす人が非常に多いです。事例はいろいろありますが、“キーパーソン”がいるかどうかが重要になります。各地の動きを見ていると、元技術委員長だった方が中心になって地域移行に向けて先進的に取り組んでいるところもありますし、自治体と連携しながら人員を配置しているところもあります。47都道府県サッカー協会(FA)の技術委員長が集まる全国技術委員長会議では、サッカー界からアクションを起こしていこうという意見がたくさん出ています。そうした皆さんの思いを追い風に、地域移行をどんどん遂行していきたいと考えています。


【図1】

部活動改革は大きなチャンス サッカーを楽しめる環境を全国へ

――そのほか、地域移行を進めていく上で重要なこととは?

池田 民間の組織が立ち上がり、クラブとして子どもたちを受け入れ、活動できる環境をつくっているところがあるのは非常に素晴らしいと思います。一方で、保護者やPTAは部活動が学校から完全に切り離されるものと捉えている可能性があり、子どもたちが望ましい環境で活動できるかという不安を抱えていらっしゃる人も多いと思います。また、今まで支払っていた活動費以外に、保険や会費などがかかってくると、余分なお金を出してまでサッカーをさせられないというケースも出てくるでしょう。JFAとしては、保護者やPTAが不安や不満を感じないような指針を示さなければなりませんし、子どもたちに不平等が起こらないように環境を整備していかなければなりません。

影山 昨年6月のスポーツ庁の提言では、2023年度から3年後をめどに地域移行を進めようということだったのですが、3年間での移行達成は非現実的だとの意見が多く、予算が縮小されたことも合わせて3年という期間は撤廃されました。ただ、できるところからやっていこうという姿勢は変わっていませんし、動き始めている地域もあります。個人的には2年後には多くの地域で移行の動きが進んでいるのではないかと考えています。部活動の地域移行は、スポーツ庁や文化庁以外の省庁も絡んでいる事業ですので、そういったところを相談窓口としながらアクションを起こし、自治体や企業が連携し、工夫して改善を図っていく地域が増えるのではないでしょうか。そこでの事例やノウハウをどんどん拾い、他の競技とも共有することで、地域移行の動きが広がっていくのではないかと期待しています。

「学校スポーツとヨーロッパで行われている地域スポーツを、いわゆる日本型に
変えて、日本に合ったスポーツの形をつくっていければ」と影山雅永副委員長

――JFAとしては、指導者である教員のやる気や情熱をそがないということも大事ですよね。

池田 休養を取りたい人が休めない状況は改善する必要がありますが、部活動で指導したくて教員になった人が指導できなくなったり、労働意欲が減退したりしてしまうことがないようにしなければなりません。以前、教員の働き方改革で時間外労働を減らそうとしたことで指導者の数が不足してしまい、その数を確保するために教員の兼職兼業が認められることになった経緯があります。サッカーの場合、指導者ライセンスを保有している教員は大勢いますので、地域移行後も指導に従事するケースは多くなるでしょうし、教育現場に根差した形での地域移行もできるのではないかと思っています。指導者の数をしっかり確保し、子どもたち一人一人に目が行き届くような形を整備したいと思っています。

――地域移行では、指導者の確保と指導の質の担保ということも求められています。

影山 サッカーに出合った子どもたちに対し、「サッカーって楽しい」「もっとうまくなりたい」と思わせられる指導者の数を増やさなければなりません。サッカーを始める全ての子どもたちがライセンスを所有している指導者に教えてもらうことができることが理想ですね。ただ、指導者の質も高めなければなりません。サッカー界でも、いまだに指導現場での暴力や暴言が毎年のように問題となっています。スポーツ界、教育界にもまだはびこっています。それについてはJFAの指導者養成でももっと取り組み、子どもたちは命令の対象ではなく、一緒にサッカーを楽しむ仲間なんだという認識を広めていかなければなりません。

今後、部活動が地域に移行していった場合、クラブチームが増えると同時に指導者の需要も増していくことが考えられます。いくつかハードルはありますが、指導者ライセンスの受講資格を16歳から認められないかということも、西川誠太JFA指導者養成ダイレクターを中心に検討しています。高校生やシニアの指導者の活用、また女性指導者にもスポットを当てて、この機会に改革を進めていければと思います。

――サッカーを楽しむ上では、試合をする場や目標となる大会をつくることも大切だと思います。

池田 サッカーに限らず、勝ちたいという気持ちが、練習に一生懸命励んだり、失敗を克服して次に生かしたりすることへの意欲につながります。また、練習だけで終わるというのは、全てのスポーツにとってあまり良いことではない。練習の成果を試合で発揮できることはやりがいになります。それはトップレベルでも、サッカーを楽しくやっているグラスルーツレベルでも同じ。頑張ろうとする気持ちは誰もが持っているものですので、成果を発揮できる環境をつくっていくことが大切です。もちろん勝利ばかりに固執するのは望ましくありません。子どもたちに夢を持たせながら、成長する喜びを感じさせながら、刺激を与えられる環境をつくっていくことが大切です。


【図2】

――部活動推進委員会として、今後の計画があれば教えてください。

池田 来年3月までをめどに地域移行のいろいろな事例を集め、それぞれどのような方向性で実現に至ったのか、子どもたちのサッカー環境や大会運営はどのように整備しているのかといった部分を整理し、広く発信していきたいと考えています。

――部活動の地域移行を契機として明るい未来をつくっていくために、最後に伝えたいことがあればお願いします。

影山 われわれは全ての子どもたちがサッカーを楽しみ、試合で日頃の成果を発揮して課題を見いだし、もう一度トレーニングをして試合に臨んでいけるような環境づくりを目指しています。それこそが健全なスポーツとの関わりだと考えています。そうした未来にしていくためには、大人が知恵を絞らなければなりません。今回の部活動改革は大きなチャンスです。否定的な声ももちろんあると思いますし、地域移行のスタイルも何百通り、何千通りあるでしょう。それでもできることから進めていけるパワーが、サッカー界にはあると思います。多くの方の理解を得られるよう、できるだけ丁寧に説明して、より良い未来のためにみんなで話し合っていきたいと考えています。

池田 サッカー界は率先して地域移行に向けて検討しています。指導者も増えますし、地域との連携も生まれるといったポジティブな部分も含め、他の競技にも好事例を発信し、良い形で進めていきたいと思っています。

池田洋二委員長は「地域移行が、いろいろな面でポジティブな要素が多いということを発信したい」と語る

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