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【JFAの知っトク!】Jリーグ担当審判員の舞台裏~佐藤隆治JFA審判マネジャー
2024年02月14日
できて当たり前の世界で審判員はみんな戦っている
新シーズンの開幕に向けて、Jリーグの各クラブはキャンプなどで準備をしています。では、Jリーグを担当する審判員はどのような準備をしているのでしょうか。2007年から2022年までJリーグ担当審判員を務め、現在は後進の指導に当たっている佐藤隆治 JFA審判マネジャー(Jリーグ担当統括)に話を聞きました。
※このインタビューは2024年1月19日に実施しました。
審判員に完全オフはなし、“とろ火”で過ごして次の準備を
――この時期、Jリーグ担当審判員はどのように過ごされているのでしょうか。
佐藤 Jリーグの全日程が終わっても、審判員に休みはありません。12月上旬にシーズンが終わり、2週間後くらいから翌シーズンの割り当てを受けるための体力テストが始まります。少なくともこの体力テストをパスしなければ、2024シーズンは割り当てを受けられません。Jリーグ担当審判員にとっては、新シーズンが始まってから翌シーズンに向けた体力テストを終えるまでが一括りという感じです。
――J1、J2、J3の担当カテゴリーが決まるタイミングもその時期ですか。
佐藤 2023シーズンのパフォーマンスによって、2024シーズンの担当カテゴリーは決まります。カテゴリーに応じて体力テストのクリアすべき基準も設定されているので、その前には発表されていますね。
――体力テストはどのような内容なのでしょうか。
佐藤 主審と副審で種目が違います。J1の主審で例を挙げると、一つはスプリントといわれる短距離走。40m走を6本、決められたインターバルを挟んで連続で走ります。6本全てが6秒以内でなければ不合格です。インターバル走という心肺機能をチェックするテストでは、75mを15秒で走って25mを18秒で歩く、これを1本として40本連続でやります。
シーズンが終われば、次のシーズンに向けた体力テストがある。これをパスしなければ割り当てがもらえない
――40ポンッ!?
佐藤 そうです。1周400mのトラックだと10周ですね。40m走もインターバル走も、1本でも時間内に走れなければ不合格。割り当ては受けられません。ただ、これは走れて当然なんです。そもそもこの体力テストをパスしないレフェリーにJリーグの試合を任せることはできません。決して簡単な数字ではないんですよ?(笑)。でも、これをクリアできるからJリーグ担当審判員なんです。全てクリアすることが最低限の条件です。
――審判員の皆さんが普段からどれだけシビアにトレーニングされているかが分かります。その体力テストが終われば、やっとお正月休みですか。
佐藤 いや、そうでもないんです(笑)。オフ期間には入るのですが、完全に体を休ませている審判員はいません。例えると、シーズン中はお湯が沸騰している状態。シーズンが終わって火を止めてしまうと冷水になってしまい、そこからまた温めようと思っても時間がかかってしまいます。沸騰はしていないけど“とろ火”の状態にしておいて、ぬるま湯くらいのところでオフは過ごす。そして休み明けにだんだん火を入れていく、といったイメージです。選手たちもそれは一緒だと思います。
1月と2月にはトレーニングと研修会を積み重ね、判定基準の確認やフィットネスチェックをするなどして準備を進めている
Jリーグは限られた人が立てる、特別な場所
――今年は、Jリーグレフェリングスタンダード(判定基準)について、Jリーグと協働されているとお聞きしています。
佐藤 これまではJFA審判委員会が主導して、競技規則の周知に取り組んできました。シーズン前やシーズン中もJクラブやメディアの皆さんには説明してきましたし、その効果は大きいと思っています。ただ、どちらかというと一方的でもありました。Jリーグの野々村芳和チェアマンは、サッカーは一つの「作品」であると表現されていますよね。良い作品をつくるためには、選手やサポーターだけでなく、審判員の役割も大きいと。そうしたJリーグの意向を確認したときに、審判側とJリーグ側それぞれの「こういうリーグにしたい」というベクトルを合わせた方がより良いリーグにできるのではないかと考え、Jリーグと一緒に準備を進めているところです。
――ご自身も14年間、Jリーグで笛を吹かれていました。審判員としてどんな思いがありましたか。
佐藤 僕はプロの審判員になりたい、Jリーグで笛を吹きたいと思っていました。Jリーグがなければ審判員の世界にも飛び込んでいなかった。僕にとって、Jリーグは本当に特別な場所です。選手にとってもそうですが、審判員にとっても、Jリーグは誰もが立てる場所ではありません。限られた人、そして、限られた時間しか立てない。僕は14年間、特別な場所で、特別な時間を過ごさせてもらいました。引退した今、当たり前ですが、もう二度とあのピッチに立つことはできません。現役の審判員にも、そのことは伝えています。やめたら戻れないと。本当に限られた人が、限られた時間立てる、限られた場所なんだと。
「審判員がプロかプロじゃないかは関係ない。プロリーグを担当する審判員として達していなければならないレベルが求められる。
それは当然のこと」と佐藤マネジャー
――判定に厳しい声が飛んでくることがある一方、審判員は褒められることが少ないです。その中でうれしかった出来事はありますか。
佐藤 試合で一番のご褒美は、負けたチームの監督や選手、場合によってはサポーターの皆さんが温かい言葉をくださったり、拍手を送ってくださったり、そうした雰囲気が感じられるときです。勝ったチームから労っていただくことはよくありますが、負けたチームはいろいろな葛藤があって、負けたという事実は決して幸せなことではないですよね。それでも試合後にわざわざ僕らの元へ来てくれて、「今日の試合良かったよ」とか「おつかれさん」「ありがとう」と声を掛けてくださることがあって、それが最高のご褒美です。
僕たち審判員に100点満点の試合はありません。良い試合だった、良いレフェリングだったと言ってもらっても、自分で振り返るとやはり反省点が出てきます。自分自身の判定に落ち込むこともあります。だからこそ、温かい言葉がとても励みになる。「次はもっとできる」「もっと良い試合をしたい」という原動力になるんですね。
――試合は審判員がいないと成り立ちません。
佐藤 判定に対する厳しいご指摘はあって然るべきだと思います。でも本音をいうと、温かい言葉も、掛けられるときはぜひ掛けてほしい(笑)。審判員って、そんなちょっとしたことも、すごくエネルギーになるんです。シーズン前の今、Jリーグでより多くのより良い作品をつくれるよう、審判員たちは懸命にトレーニングに取り組んでいます。同じサッカーファミリーとして迎えてもらえたら嬉しいです。
プロフェッショナルレフェリー、国際審判員としても活動してきた佐藤マネジャーにとって、Jリーグは「特別な場所」。
今は現役審判員が伸び伸びとパフォーマンスできるよう指導とサポートに当たっている
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