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アジアのピッチから ~JFA公認海外派遣指導者通信~ 第17回 井上和徳 カンボジアアカデミーヘッドコーチ兼U-16代表監督
2016年06月17日
アジアの各国で活躍する指導者達の声を伝える「アジアのピッチから」。第17回は、カンボジアでアカデミーヘッドコーチ及びU-16代表監督を務める井上和徳氏のレポートです。
赴任して4ヶ月が経ちました。首都プノンペンには日系のショッピングモールがあり、日本の食材や生活用品が揃います。病院も日本の医療施設と比べても全く遜色はなく、清潔で安心です。私にとって大きな問題は暑さです。気候的に過ごしやすい仙台に長く住んでいた私には連日40℃の暑さが非常にこたえます。
カンボジアの人々はとても親切で優しく、目が合うととてもいい笑顔を見せてくれます。年長者を敬う文化が浸透しており、子供たちの年長者に対する態度には感心させられます。家族、親戚同士の結びつきも強いです。家族4~5人が一台のバイクにまたがって移動し、全員で食卓を囲んでいる光景は日常的です。また信仰深い一面もあります。日本遠征中に選手達と大宰府天満宮へ行った際には、学問の神様と聞いた全員が一生懸命祈っていました。後から聞いたところによると、祈るだけで頭が良くなると思ったそうです。
カンボジアの選手の特徴と指導方針
育成年代の選手を預かるので各人の基本技術、個人戦術、基礎体力の向上を意識していますが、これはどの国でも普遍的な要素であることを実感しています。カンボジアの選手は個性的で、メンバーの組み合わせ次第でチームの特徴も変わるのでとても面白いです。個々の選手には課題もたくさんありますが、短所の矯正よりも武器になる部分を探して長所を最大限に伸ばす指導を心がけています。
選手たちには公用語のクメール語ではなく英語でコミュニケーションを取るように要求しています。私のリクエストに応じてカンボジアアカデミーでは寮での夕食後、英語学習の時間を大幅に増加してくれました。そのおかげで英語を使って簡単なやりとりができる選手が日を追うごとに増えています。私の英語のレベルも高くないので選手との片言英会話は程よい感じです。
前任者及び日本人指導者達に助けられて
カンボジアアカデミーの前任者である壱岐友輔コーチとはベガルタ仙台育成部在籍時からの長い付き合いです。彼がカンボジアに赴任中も時々連絡を取っており、私自身がカンボジアのサッカーについて予備知識をもって赴任することができたのは大きなアドバンテージです。カンボジアフットボールアカデミー創設時、壱岐コーチには相当な苦労があったようで、カンボジア人スタッフからも様々なエピソードをよく聞きます。彼が作った基盤のおかげで活動が軌道に乗っているのです。壱岐コーチとは今でも時々連絡をとって過去の経緯を確認し、いままでの活動の継続性を意識しながら発展させるよう取り組んでいます。
壱岐コーチが選手、スタッフから絶大な信頼を得ていたため、後任の日本人である私は顔を出したその日から、まだ何もしていないにもかかわらず、無条件で信頼され、とても暖かく迎え入れられました。私からの要求に対し、選手、スタッフともに全力で取り組んでくれています。彼らは問題になりそうなことを予測し、問題が起こらないように行動してくれるのです。この流れを作ってくれた壱岐コーチに心から感謝し、さらなる発展を目指すことが私の任務です。
日本から派遣中の審判ダイレクターの唐木田氏、そして技術委員長の小原氏も心強い存在です。現地の生活情報や人々の特性を日本語で入手できることは大きいです。カンボジア人レフェリーは日本のレフェリングと印象が変わりません。唐木田さんの指導が浸透している成果だと思います。小原さんからはカンボジア全土の選手、コーチの情報、様々な年代の活動状況の情報が入りますし、ブータン代表監督時代の経験談は外国人監督である私にとって、非常に参考になります。各フィールドにおける日本人指導者が日本とカンボジア双方の良い部分を融合出来ればカンボジアは東南アジアの中でも独特な面白い存在になれるでしょう。
Jリーグ U-16チャレンジリーグへの参戦
チームを率いて日本の大会に出場しました。一番の成果は指導にあたる私自身が、カンボジアの選手、チームのレベルを同世代の日本人選手と直接比較することによって把握出来たことです。その後のトレーニング計画立案に大きく影響しています。結果は5戦1勝4敗。6チーム中5位ではありましたが、我々カンボジアの選手にとっては日本での1勝はとても大きな自信につながっています。選手たちは日頃のハードトレーニングがこのような成果として表れたことにより、益々意欲的に取り組むようになりました。その後、ベトナム遠征も実施し3戦1勝1敗1分けでしたが、海外チームと対戦しても勝利できることが増えてきています。
AFF U-16選手権に向けて
来月、わがカンボジアで行われる本大会の目標は優勝です。選手、スタッフの最大限の力を引き出すためにこの目標を掲げています。カンボジアではアンダーカテゴリーの代表チームの試合でも数万人規模のサポーターが応援に来てくれるそうです。U-16代表の活動も時々地元メディアが報道してくれますし、選手を派遣するクラブも非常に協力的です。カンボジアサッカー連盟は大会に向けたチーム強化のため、日本、ベトナム、タイでの強化合宿を準備してくれました。この万全の協力体制は期待の表れでありとても光栄です。同時に、大きなプレッシャーと責任を感じますが、全力で取り組みたいと思います。
世界に誇れる日本の「育成」
日本で指導をしていたときはあまり意識したことはなかったのですが、遠征中に対戦した日本のサッカーはとても強く、上手なうえにフェアプレーに徹する印象の良いチームばかりでした。また大会期間中の完璧な運営やホスピタリティあふれる対応、保護者の観戦マナーは素晴らしく、私を含め選手、スタッフにとって日本サッカーは憧れの存在となっています。日本はよき見本となるアジアのリーダーであり、人間教育も含めた『育成』という観点では世界に誇れるものがあることを海外に出て実感しました。
今後、東南アジアのサッカーは各国の経済発展とともに大いに発展し、子供たちの育成環境も徐々に整っていくでしょう。彼らが日本のライバルになる日は遠くありません。東南アジアには日本が大好きで、日本に憧れ、日本から学びたがっている人々がたくさん存在します。草の根レベルでもサッカーを通じた交流がもっと多く生まれることを期待しています!
JFA公認海外派遣指導者
井上和徳 カンボジアアカデミーヘッドコーチ兼U-16代表監督
小原 一典 カンボジア技術委員長
唐木田 徹 カンボジア審判ダイレクター
壱岐 友輔 氏(ユースアカデミー監督 2015年3月2日~2016年1月31日)
アジアのピッチから ~JFA公認海外派遣指導者通信~ 第2回 壱岐友輔 カンボジアフットボールアカデミー・U-15カンボジア代表監督
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