ニュース
[特集]ストライカー育成 まずはチャレンジさせてみよう! 影山雅永U-20日本代表監督×森山佳郎U-17日本代表監督 対談 前編
2021年10月04日
年代別の日本代表を率いて世界と戦ってきた二人の指揮官は、ストライカーに必要な素養と、それを育む指導をどのように考えているのか。影山雅永U-20日本代表監督と森山佳郎U-17日本代表監督に話を聞いた。
○オンライン取材日:2021年6月18日
※本記事はJFAnews2021年7月に掲載されたものです
型にはまったFWは相手からしたら怖くない
――優れたストライカーに共通しているものは何だとお考えですか。
影山 シンプルですが、点を取りたいという強い気持ちです。
森山 普段から「俺が点を取って、チームを勝たせるんだ」という意気込みで試合に臨んでいる選手は、ほかの選手とは違います。「エースのお前が点を取れ」と言われてきたタイプは、たくましい点取り屋になることが多い。誰が点を決めてもいいというチームでは、ストライカーらしいストライカーはなかなか育ってこないと思います。点取り屋としての素質を持っていても、連係に難ありと判断されて控えに甘んじる選手もいます。FWは絶好機でシュートを外しても「何かありましたか」とふてぶてしい顔をするくらいでいい。失敗を恐れないメンタリティーを持っていることが重要です。
影山 近年、日本の社会では失敗しないことが良しとされる風潮もありますが、サッカーではリスクを冒してでも果敢にチャレンジしてほしい。私も森山監督も、積極的にトライするように選手たちに言っています。指導者の仕事は、ストライカーの資質を持ったタレントを見いだし、点を取る能力をさらに引き出すことだと思っています。
森山 FWでもいろいろなタイプがいますからね。日本代表で活躍している浅野拓磨選手はスピードで裏に抜け出しますし、U-24日本代表の上田綺世選手(鹿島アントラーズ)は絶妙なオフ・ザ・ボールの動きでマーカーを外して点を取ります。選手一人一人の特長を見極めて指導しなければなりません。
影山 とはいえ、型にはめて教え込んでしまうと、選手は指示通りのプレーしかしなくなります。
森山 そう、指導者が教えられないこともあります。(J1リーグ通算得点ランキング2位の)佐藤寿人さんの話ですが、彼は現役時代に元イタリア代表FWのフィリッポ・インザーギのビデオを擦り切れるまで見て、研究していました。やはり、学びたい、身につけたいという強い意志がないと本当の力にはなりません。指導者から教えられたことをそのままやるだけでは突き抜けて成長していくことはない。型にはまったFWなんて相手からしたら怖くないですから。
――ストライカーの資質はどのようなところに垣間見えるものですか。
影山 トレーニングを見ていれば分かります。例えば、最前線で相手を背負ってくさびのパスを受けたときのファーストタッチ一つをとってもそう。何も考えずにポストプレーをこなして味方に落とす選手もいますが、強引にターンしてゴールに向かってもいいんです。縦パスを受けたとき、ワントラップでシュートが打てる場所にボールを置く選手には素質を感じます。
森山 最初からその可能性が見えなくても、指導者が促すことで伸びる選手もいます。私は「今はできなくても、君なら絶対に成長できる」とチャレンジさせています。やはり結果が伴わないと自信はつきませんので。どん欲にゴールを狙い続ける姿勢を植え付けていくことも必要でしょう。FWがまずゴールを狙う意識を持たなければ、チームのコンビネーションも生きません。状況に応じて判断することも大事ですが、強引にシュートを打ってもいい。自ら局面を打開するプレーをとがめることはありません。
影山 (指導者が選手に)リスクを冒すことを許容してあげれば、選手も少しずつ変化していきます。トレーニングからミスを恐れず、チャレンジしやすい環境をつくることですね。
チャレンジしないことが一番のミス
――ストライカーがミスを恐れない環境をつくるために、年代別代表ではどのような取り組みをしているのでしょうか。
森山 U-17日本代表では、トレーニングキャンプの初日に「みんな光るものを持っているから、ここに呼ばれているんだ。とにかく自分の持ち味を出してくれ。ミスはしてもいい。チャレンジしないことが一番のミスだ」と選手に伝えています。ミーティングでは、海外の指導者や選手たちが、日本の選手について話しているインタビュー映像を見せたこともあります。元名古屋グランパス監督のアーセン・ベンゲルさん、Jリーグのヴィッセル神戸で活躍した元スペイン代表のダビド・ビジャさん、サガン鳥栖でプレーした同代表のフェルナンド・トーレスさんもみんな同じ見方をしていました。「日本の選手たちはミスを極端に恐れている」と。この問題は、私たち日本の指導者が思っている以上に、根深いものと捉えています。選手たちには「悔しくないのか」とハッパをかけました。ミスしてボールを奪われたら、取り返せばいい。「まずはチャレンジしてみろ」と言い続けています。
影山 森山監督がチャレンジ精神をたたき込んでくれたこともあり、U-20日本代表に昇格してくる選手たちはたくましいです。私が率いた2019年のU-20ワールドカップに出場したメンバーの半数近くは、U-17日本代表時代にワールドカップをはじめ、アフリカ、アジアなどで海外遠征を経験していました。彼らは自己表現することが習慣化しています。ヨーロッパ、南米の強豪国と対峙しても、気後れすることが一切ありません。タフになっていると感じます。
影山雅永U-20日本代表監督
関連ニュース
- 指導者 2021/08/06 [特集]夏に負けない 夏場のコンディショニング 大切なのは「意識づくり」 後編
- 指導者 2021/08/05 [特集]夏に負けない 夏場のコンディショニング 大切なのは「意識づくり」 前編
- 審判 2021/06/17 [特集]審判員のマインド 全ての人が試合に夢中になれるレフェリングを ~審判員の素顔~ 山下 良美国際審判員(女子主審)/1級審判員
- 審判 2021/06/15 [特集]審判員のマインド やればやるほど楽しくなっていく ~審判員の素顔~ 荒木 友輔国際審判員(主審)/プロフェッショナルレフェリー
- 審判 2021/06/08 [特集]審判員のマインド サッカーはみんなでつくるもの 黛俊行審判委員長インタビュー 後編