ニュース
CSRリレーコラム2020第2回「サッカーを通して地域の課題解決の担い手を増やす」~社会貢献委員会 宮城委員~
2020年10月09日
私が代表理事を務めるNPO法人ETIC.(エティック)では、2004年から全国のパートナー団体と連携して地域の課題解決の現場に人材を送り込んでいます。特に2011年の東日本大震災以降は、東北をはじめ各地の経営者のもとに人材を右腕として送り込む取り組みを実施し、地域の中に新たな事業が生まれています。地域の中で地域資源を活用した産業を生み出し、新たな雇用を創出している人材も多くいます。そうした課題解決の担い手となる人材が増えることは、地域の持続可能性に直結します。
課題解決の担い手になるためには、地域への愛着や当事者意識が必要です。しかし、出身だからといって必ずしも愛着が生まれるわけではありません。これまでの文脈を踏まえ、新しいコミュニティに入り込めた感覚が生まれてはじめて愛着が生まれます。逆に言えば、出身者でなくともそういった経験をした人物はその地域の課題解決の担い手になる可能性が高いのです。
さらに、地域に愛着をもって動き出した人材をサポートし、応援する関係性があれば、彼らの動きはより持続的なものになっていくでしょう。
こうした地域の課題解決に取り組む人材とそれを支える地域の基盤の重要性は、年々高まっています。
こうした課題解決人材と地域をマッチングさせる取り組みの一つとしてETIC.でも「信州100年企業創出プロジェクト」にサポーター企業として関わっていました。
信州大学が中心となって実施しているこのプロジェクトは、都市部で働く経営人材を地元企業にマッチングし、信州大学でのリカレント教育とともに経営人材の育成と企業の課題解決を目指しています。
このプロジェクトには地元のプロスポーツクラブの運営を行っている株式会社松本山雅が事務局として参画しています。
初年度から100名以上の応募があり、2年間で10名以上の経営人材が参画しています。板金加工メーカーでは、新商品をきっかけに新たな販路が拡大。新卒採用で地域に新たな雇用が創出されるなどの成果が生れています。現在も経営人材は引き続き参画しており、地域企業の中で新たな事業が推進されるなど地域内で大きなインパクトを生んでいます。また人材が企業に入り込むだけでなく、地域との接点が生まれていることもこのプロジェクトの特徴です。
このように、人材を地域で受け入れる際のハブに地域のサッカークラブがなっている事実は、単に競技を行うだけではないサッカーの多面的な価値を表しているのではないでしょうか。
株式会社松本山雅の神田文之社長は、「地域が持続可能であるためには地域企業が元気でなければいけない」という思いから取り組みに参加したといいます。さらに、これまでスポンサーという形で応援してくれていた地元企業に、サッカークラブから応援を返していくという新しい関係性のきっかけになっています。
一方で、地域外からやってくる人材に対しては、これまでの地域の文脈を含めて伝えることで新しくコミュニティに入り込みやすくなりますし、「試合」という場があることは地域の中で応援される関係性を体感するのに最適な機会の一つでしょう。
それは地域の人に応援されてきたサッカークラブだからこその強みであり、大切なアイデンティティーであると思います。サッカーを中心に多様な人たちが関わり合い、応援する場があることは地域への愛着を高め、応援しあう関係性を育むことに大きく貢献しています。
こうしたサッカー以外の形で地域との接点を持つ取り組みは、プロスポーツクラブだけではなく、関西大学北陽高校サッカー部など高校や大学のサッカー部でも取り組まれています。
競技のレベルを上げるための練習だけはなく、地域の方々と多様な接点を持つことで人間性が育まれ、結果的に競技のレベルも上がっているといいます。
このようにサッカーと地域の関係性は強い相乗効果があります。サッカーは一般的に想像される以上に多面的な魅力のある存在であり、今後地域の中でその役割はより大きくなっていくでしょう。
そう遠くない未来、サッカーの力が核となり、地域の課題解決がされていく姿が日本各地で観られるのではないでしょうか。
社会貢献委員会:宮城 治男
編集協力:NPO法人ETIC.瀬沼希望