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「指導者のポジティブな言葉が選手のパフォーマンスを引き出す」川口能活JFAナショナルトレセンコーチが語る暴力根絶
2019年11月29日
JFAでは2013年6月にJFA暴力等根絶相談窓口を設置するなど暴力根絶に向けてさまざまな取り組みを行っています。ここでは日本代表の経歴を持ち、現在はJFAナショナルトレセンコーチやアンダーカテゴリーのGKコーチを務める川口能活コーチにサッカーやスポーツの現場に暴力や暴言、ハラスメントが必要のないこと、そして指導者として心がけていることなどについて聞きました。
※このインタビューは10月29日に実施しました。
――指導を始めた今、どんなことを感じていますか。
川口 第一に思うのは、選手には気持ち良くプレーしてほしいということです。もちろんこうプレーしてほしいというイメージはありますが、一度立ち止まって、前向きな言葉をかけるようにしています。選手時代、一番うまくパフォーマンスを引き出される要因の一つが、指導者のポジティブな言葉だったからです。
スポーツはそもそも楽しむもので、うまくいっている時はすごく楽しいのですが、実際はうまくいかないことの方が多いですよね。だから、選手はピッチでストレスを感じています。ミスをしたり、自分が悪くなくても負けていたら、追い詰められ、劣等感を感じることがあります。練習でも試合に出るための競争があり、選手はしのぎを削っていることを尊重した上で、いかに楽しむ気持ちにさせるかが大事だと思います。プレーするのは、選手なんです。
――選手の思いを感じる必要があるのですね。
川口 最近は、試合以外でのコミュニケーションも大事だと感じます。高校生や東京オリンピック出場を狙う世代の指導では、考え方や好きな音楽など「彼ら」を理解する必要があると考えています。僕らの世代とはバックグラウンドが違うんです。僕らの頃の海外遠征では、リラックスルームにみんなで集まってVHSのビデオテープでドラマなどを見ていました。今は、タブレットで映画をダウンロードできる時代です。
――体罰を伴う昔の指導も、現在では通用しません。
川口 体罰や言葉の暴力が、僕の時代にまったくなかったとは言えません。罰走で奮い立たせられたこともありましたが、けがにつながることもある体罰や、精神的な苦痛が良いわけはありません。怒られて「なにくそ!」と反発力を引き出されることもあるかもしれませんが、確率は低いでしょう。試合中はハーフタイムの喝で発奮することもあるでしょうが、それは本当に最後の手段です。
指導者の言葉の使い方はスキルであり、アプローチの仕方を勉強しなければいけません。僕らは支え、送り出す側です。ピッチで戦う選手のストレスを軽減させて、プレーに集中させることも、指導者の大事な力ではないかなと思います。
――2018年度はJFA暴力等根絶相談窓口に寄せられる相談のうち、種別では第3種(31%)と第4種(42%)で約7割を占めています。
川口 これだけ競技人口が増えると競争はさらに激しくなり、成長につれてどんどん門が狭まる時代です。だからこそ、競技を続けてもらい良い選手が生まれる可能性を広げ、競争力も持続させる必要があります。思春期の中学生は、特に精神的にも難しい時期ですよね。
――小学生年代だと親の応援も「何をしているんだ!」などと、きつくなることがあります。
川口 僕の息子も幼稚園でサッカーをするので、そうなりそうな心情が分からなくはありません。ただ、うまくいかない時は本人が一番悔しいんです。僕もそうでした。だから、応援が子どもの一番の力になるのだと、親御さんにも理解してほしいですね。監督も、選手が一生懸命にボールを追う姿を見たら、追い詰めるような行動はできないはず。子どもたちには未来があるのだし、そういう行為は絶対に自分に跳ね返ってくるものです。サッカーは見てもプレーしても楽しいものです。なぜ自分がサッカーを始めたのか、どうして指導者になったのかを忘れてはいけないと思います。
――一方で、指摘が必要な場面もあると思います。
川口 それは絶対にありますが、大事なのは言葉をかける目的です。強い言葉で選手に伝えるのは、選手を追い詰めるためでしょうか?
僕も今年、選手に強く言ったことがあります。試合の入り方に問題があって試合にも集中できておらず、プレーも普段より消極的だったからです。普段から伝えていることを毎回出させることは難しいですが、プレーの質が落ちて反省の色がないタイミングでは強く言います。さらに、本人が過ちを自覚したらポジティブな声をかけるし、その言葉を選ぶ必要もあります。そのための観察は必要だし、指導者が選手のパフォーマンスや表情を見極めるべきです。
――指導者も努力の継続が欠かせませんね。
川口 指導者は選手からも学ばせてもらっていますし、サッカーを勉強し続けなければいけません。先回りして、選手が知らないことを知らなければいけないからです。時代を築いてきた高校や大学などスポーツ界の重鎮の方々も、子どもたちを見ていろいろと学ばれてきたからこそ、今の姿があるのだと思います。
また、そういう指導者からの一人の人間、選手としてのリスペクトを、僕らはすごく感じていました。だから、そういう先生方の下に選手が集まり、輝きを増して羽ばたいていくということが繰り返されてきたのだと思います。
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