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[特集]指導者の聞く力 ~「観察」と「よく聞くこと」それがコミュニケーションのスタート 西川誠太JFA指導者養成ダイレクターインタビュー
2022年10月27日
サッカーの指導現場に限らず、コミュニケーションを取る上で「聞く力」が大切だと言われる。指導者と選手、あるいはインストラクターと指導者など、意思の疎通を図るためにどのようなマインドで接するべきなのか。日本サッカー協会(JFA)の指導者養成ダイレクターを務める西川誠太氏に、日本の指導者養成における取り組みなどを含めて話を聞いた。
○オンライン取材日:2022年7月28日
※本記事はJFAnews2022年8月に掲載されたものです
指導者は“四位一体”の全てで鍵となる存在
――JFA指導者養成ダイレクターに就任して約半年が経過しました。このお立場をどう捉えられていますか。
西川 今の日本サッカーの素晴らしい指導者養成があるのは、歴代のダイレクターの方々や関わってこられた多くの人々が思いを紡いできたからだと思っています。まだ勉強中の身ですが、その思いを受け止め、より良いものにして次の世代につないでいかなければならないと、日々取り組んでいます。
――日本サッカーの中で、指導者はどのような存在だとお考えですか。
西川 重要な存在だと考えます。まず、サッカーを楽しみたいと思う人がいないと、指導者の出番はないですが、もし楽しみたいと思う人がいたときに、そこに指導者がいれば、よりサッカーを楽しませることができる、上達や成長のサポートもできる。そういう意味でも、サッカーの楽しさを教えられる指導者と誰もが出会える環境をつくらなくてはなりません。また、選手を手助けできる、導ける指導者である必要があります。JFA技術委員会が掲げる「四位一体(代表強化、ユース育成、指導者養成、普及)」において、その全てにまたがる、鍵となる存在であることは間違いないですね。
――そういった指導者を生み出すべく、日々まい進されているかと思いますが、日本の指導者養成の強みはどこにあるのでしょう。
西川 各地域に協力してくれる仲間がたくさんいることは世界に誇れることだと思います。2021年の実績で、C級・D級コーチ養成講習会を担当した地域のインストラクターの数は約600人で、そのほとんどがご自身の本業やチーム活動などと兼任しながら関わってくださっています。
他国の指導者養成を調べたり、海外の方と話をしたりすると、A級コーチU-12やD級、キッズリーダーといったグラスルーツでの指導を大切にしている点も高く評価されています。プロから育成年代、グラスルーツまで、またGKやフットサル、フィジカルと専門性に特化したコースもありますので、多くの人が能力に応じて学びの機会を得られるシステムは出来上がってきているのかなと思います。
「日本サッカーのさまざまなパスウェイの中で、その橋渡し役やけん引
する立場として指導者の担う役割は大きい」と西川ダイレクターは話す
選手の状況によって伝え方は変わる
――指導者として、選手とのコミュニケーションで大切にすべきことは何だとお考えですか。
西川 「観察」と「よく聞くこと」ではないでしょうか。コミュニケーションというと、話し方やその内容に目が行きがちですが、観察こそコミュニケーションのスタートだと思います。指導者自身が話したいことを、指導者の言い方、タイミングで伝えたところで、選手に伝わらないケースはたくさんあります。やはり、選手が何を望んでいるのか、そもそも話を聞ける状態にあるのか、それを観察しないことには始まりません。その上で、普段の何気ない会話やあいさつも含め、選手たちが話してきてくれることをしっかりと聞くこと、それが大事です。
――選手たちが話しやすい空気をつくることも大切ですね。
西川 「この人に話をしても聞いてくれない」と選手が思ってしまったら、その選手はそれ以降、話をしにきてくれないでしょう。まずは選手が言いたいことを聞いてあげること。指導者にその姿勢があるのか、年代に限らず選手は必ず見抜きますし、もしかしたら子どもの方がその点はより敏感かもしれません。選手の話を聞いているふりをして自分が次に何を言うかを考えていたりすることは案外ありがちだと思いますが、そうなると、大事なサインを見逃してしまうこともあるでしょう。
――選手に対してオープンマインドでいることも必要でしょうか。
西川 重要なことです。でも、何でもかんでも気軽に話しかけてバカ話もできるような関係が良いかと言われると、そういうことではないんですよね。それで選手の信頼をつかめるということではないと思います。良い、悪いの基準をぶらさずに、どの選手に対しても公平・公正に接することが大切だと思います。
――よく観察していれば、そういったコミュニケーションのポイントも分かってくるのでしょうか。
西川 僕はそう思いますね。もちろん、何が正解なのかは簡単に分かるものではありませんが、少なくともこれまで出会った選手たちから多くのことを学ばせてもらいました。同じ言葉でも、スッと入っていく選手もいれば、飲み込みに時間がかかる選手もいます。あるいは同じ選手でも、タイミングによって入っていくとき、入っていかないときがある。それはまさに、選手がどういう状況なのかを観察し、またチームでの役割や立ち位置などもくみ取った上でコミュニケーションを取らないと分からないことです。
オン・ザ・ピッチはもちろん、オフ・ザ・ピッチでの状況も踏まえ
て、それぞれの選手に応じた形で指導者が寄り添っていくべきだ
うそや偽りがない情熱が選手の心を動かす
――「聞く」ためには、選手の言葉を引き出す能力も求められると思います。
西川 オープンクエスチョンで、あまりに大きなくくりで質問をしてしまうと、答えられない選手もいると思います。もし答えられそうにないのなら、的を絞った質問によって選手の頭も整理できるといいですよね。
サッカーでは、常に状況を把握し、分析や予測をし、判断して実行というサイクルがあります。人間の思考はおそらくもっと複雑ですが、指導者養成では「状況把握」「判断」「実行」の3段階で整理しています。その中でどこに修正すべきポイントがあるのか。それをベースに質問や問い掛けをすると効果的だと思います。
――これまでの指導経験の中で、選手に寄り添うことでその関係性が変わっていった、良くなっていった事例などがあれば教えてください。
西川 僕が指導者として活動し始めた頃は、自分よりもサッカーが上手な選手たちに教える立場だったんです。そのため、どうすれば選手が自分の話やアドバイスを聞いてくれるのかを常に考えていました。例えば選手のためになりそうな映像を集めて見せたり、プレー映像を見ながら一緒に話をする中で、徐々に信頼を築けていったという経験があります。
結局は、「選手・チームのために」という思いが大事なのだと思います。その選手のために何ができるのかを常に考える。そこにうそや偽りがなければ、選手は変わっていくし、選手との関係も良くなっていくと思います。若い頃は、「勝ってやろう」という思いが強く、選手に対して偉ぶってしまう時期もありました。情熱が違う方向にいってしまうと、あまりうまくいかなかったですね。
――情熱を持って選手に寄り添うべきであると。
西川 その点で言うと、最初の現場ではプロを目指す選手たちを指導していましたが、次の現場は真逆で、カテゴリーは同じなのですが、夜中にアルバイトをしながら学費を稼いでサッカーをしているような学生が対象でした。そういう選手たちに、サッカーを第一に考えなさいとか、最初の現場で伝えていたようなことを、同じようには言えないわけです。
――状況が変わると手法も変わるということですか。
西川 そうです。彼らには彼らの生活があり、それでもサッカーがやりたいからやっている。彼らも真剣にサッカーに取り組んでいることが段々と分かったのです。だからこそ選手に合ったサポートをしていかなければいけないのだと学びました。
――指導者は常に学び続け、かつ試行錯誤を繰り返していくことが大事なのですね。
西川 この方法で成功したなと思うことがあっても、シーズンが変われば同じように成功できるというわけではありません。逆に失敗した例が、その次の成功を導いてくれることもある。「これが答えだ」「分かった」と思ってしまったら置いていかれます。日々勉強ですね。
指導者養成講習会では、参加者それぞれの経験を基にみんなでレベルアップを目指す場となっている
指導者も選手と同じくクリエイティブでたくましく
――日本の指導者養成についてお聞きします。指導者養成講習会ではどのようなことを大事にされていますか。
西川 参加者を中心に、という考え方で進めています。参加者同士、また参加者とインストラクター(講師)が双方向の関係で学べる場をつくり、そして実際の現場で生かせること、必要な知識を得られるようにすることを重視しています。
――講習会自体、「知識伝達型」から「問題解決型」に移行しているのは大きなトピックだと思います。
西川 その目的を一言で言えば、「新しい景色を見るため」です。前提として、知識伝達型が悪いわけではありません。日本サッカーの歴史の中で、圧倒的に講習会の数を増やさなければならない時期があり、そのときは、一定のクオリティーを備えた指導者を数多く生み出すために知識伝達が必要なスタイルだったのだと思います。それを進められたからこそ、FIFAワールドカップに連続出場できている今の日本があります。
しかし、ワールドカップベスト16の壁を破ってトロフィーを掲げようという中で、これまでと同じことをやっていてはいけません。講習会で全ての参加者がそれぞれのサッカー観や考えていることをぶつけ合い、化学反応を起こしながらより良いもの、熱を帯びたものにしていきたいと考えました。
――日本サッカーがさらに上に行くために必要なことであると。
西川 当然、サッカー指導の基礎となるC級やD級では、まずは知識を伝達しなければならない部分もあります。ですが、選手に対して「クリエイティブでたくましく」と言うのならば、指導者もそうでなければいけない。指導者が答えを求めるような講習会ではなく、自分でクリエイトして決断したことを思い切って表現して、それに対して他の指導者も「私はこう思う」とアドバイスや意見をガンガン出し合って改善していく。誰かのコピーではなくて、自分の決断に自分で深みをつけていく。そうした講習会にしていかないと、トロフィーを掲げることはできないと思っています。これまでの流れがあったからこそ、次のステージに進めている、ということです。
――インストラクターが担う役割も大きくなっていきます。
西川 インストラクターの方々はそれぞれ本業があったり、自分のチームの活動があったりする中で協力してくださっている。感謝しかありません。各地域のインストラクターが「私たちの責任は重大だね」と言ってくださって、本当にうれしかったです。問題解決型では、講習会で何が起きるかが分からない。その中で参加者を導いていかないといけないわけですから、インストラクターの力量が前面に出てくると思っています。その重大さを感じ取ってくださる方々がたくさんいるのは喜ばしいことですし、一緒に高い志を持って取り組んでいきたいと思います。
――スタイルを変えてからの参加者の反応はいかがですか。
西川 うれしい反響が多いですよ。先日、中村憲剛さんと話したら、彼は昨年B級を取得したのですが、受講する前は「講習会では答えみたいなものがあり、それを教えられる場」と聞いていたようで、申し訳ないがそれならつまらないだろうなと思っていたそうです。
でも実際の講習会はまったくそうではなかったと。自分のアイデアが尊重され、グループで意見を出し合いながらつくり上げ、それに対してアドバイスをもらえたりする。講習会を受けて、純粋に楽しかったと言ってくれたんです。現役の選手はみんなここに来るべきだとも言っていました。今年はA級を受講されていて、さらに楽しんでいますよ。
――講習会は「楽しい学びの場である」ということですね。
西川 そうです。特に近年は、各都道府県サッカー協会(FA)に技術担当専任者であるFAコーチが配置されてきていますので、講習会の質をグッと高めるチャンスだと思っています。JFAから最低限のものは提供しつつ、参加者の実力や習熟度、地域の実情に応じてカスタマイズしながらプラスアルファを積み上げていくことも可能になります。加えて、日本のどこでも、自分の生活圏に近いところでB級まで受講できる環境を整えること、それを今進めているところです。
――多くの人々に門戸は開かれていると。
西川 D級やC級では自分の子どもがサッカーを始めたからライセンスを取りに来たという方も多く、2020年に内容を改訂した際、「これはお父さん、お母さんでも本当にできるの?」といった議論もありました。サッカーの経験がなくても、子育てや、職場で部下に何かを教える、上司や得意先との関係性を築くなど、コーチングする機会は誰にでもありますし、根本は同じだと思います。講習会ではそうした経験も必ず生きますし、それを生かしながらサッカーを学ぶことができます。サッカー経験者と未経験者が一緒に学ぶことは、新たな価値観やアイデアの創造にもつながると思います。
――最後に、全国の指導者や読者へメッセージをお願いします。
西川 指導者養成に協力してくださる方が多いのは、胸を張ってわれわれの誇りと言えることです。「日本はすごいことをやっている」と、皆さんと共に世界に誇れる指導者養成の体制にしていくことで、関係者の笑顔を増やすことになり、その先の目標であるワールドカップを掲げることにつながっていくはずです。ぜひ一緒に、日本サッカーの環境をより良くしていければと思います。
われわれJFAや地域のインストラクターの皆さんで、指導者養成講習会に行って良かった、楽しく学べたと思ってもらえるようにしていきたいと思いますので、まだ足を踏み入れていない方はぜひご参加ください。お待ちしています。
リフレッシュ研修会や、指導実践型のスキルアップ研修会など、ライセ
ンスを取得した指導者が継続して学び続けられる環境も整備している
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