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[特集]「やらなければいけない」から「やりたい」と思えるものに 菅野淳JFAフィジカルフィットネスプロジェクトリーダー インタビュー 後編
2021年03月05日
日本サッカーのフィジカル強化に向けて、さまざまな取り組みを進めているJFAフィジカルフィットネスプロジェクト。同プロジェクトを率いる菅野淳リーダー(JFA技術委員会委員)に、2020年のコロナ禍における活動の振り返りや新たに作成した「10年計画」の概要、新設されるJFAフィジカルフィットネスライセンスの目的や講習会のカリキュラムなどについて聞いた。
○オンライン取材日:2021年1月19日
※本記事はJFAnews2021年2月に掲載されたものです
フィジカルの正しい知識や情報が広がっていくように
フィジカルフィットネスのスタンダードとなるライセンス
――今年からフィジカルフィットネスライセンスが新設されます。どのような経緯でライセンスの創設に至りましたか。
菅野 20年ほど前、われわれはJFA医科学委員会(当時)に紐づきながら活動をさせてもらっていたのですが、その頃から既にフィジカルコーチのライセンスが必要だという話は出ていました。03年にJFAフィジカルフィットネスプロジェクトが発足してからもその声は多かったのですが、なかなか実現できずにいました。というのは、講習会でインストラクターを務められる人材がいなかったからです。
その後、アジアサッカー連盟(AFC)のAFCフィットネスコーチライセンスが創設され、そのライセンスを持つフィジカルコーチも増えていき、インストラクターを務められる人が出てきました。そうした流れから、JFAでもライセンス制度の立ち上げへと動き出すことができたわけです。選手のフィジカルパフォーマンス向上のため、正しい知識を持った指導者やフィジカルコーチの養成を進めていきます。
――どのような変化を期待しますか。
菅野 一つは、フィジカルトレーニングへの理解やフィジカルコーチに対する認知度の向上です。その専門性や役割、必要性をもっと多くの人に知ってもらいたい。加えて、フィジカルに否定的な監督やコーチにも、あるいはこれから指導者になろうという人たちにも、最低限のフィジカルフィットネスの知識を身に付けてほしいですね。
――まずは今年、フィジカルC級の養成講習会が開催されます。C級はどのような位置付けですか。
菅野 これまで日本の課題と言われてきたにもかかわらず、フィジカルについて指導者が具体的に学ぶ機会や、そのライセンスがJFAにはありませんでした。一方でAFCフィットネスコーチライセンスを取得するには、AFCやJFAのサッカーB級ライセンスが必要で、またそのコース開催も数年に1回ということもあり、ハードルが高い。ですので、その前段階の学びの場としてより多くの指導者の皆さんがチャレンジできるように、JFA独自の考えとしてフィジカルC級を設けました。
フィジカルC級は、サッカーC級の付加ライセンスになります。サッカーC級は指導者の基礎を習得するものですから、その知識を得た上で受講していただくこととしました。サッカーC級のカリキュラムにもフィジカルに関する講義が含まれますが、決して十分とは言えず、サッカーC級ライセンスを持っていてもフィジカルに関する知識が不足しているといった課題もあります。サッカーC級に加えてフィジカルC級を持つことで、フィジカルの基礎的な指導知識を得られるのではないかと思っています。
――プログラムは4日間とのことですが、主にどういったことを修得する内容になっていますか。
菅野 フィジカルの基礎知識として、ウォーミングアップやリカバリーなどのけが予防や育成年代で取り組むべきこと、個人に合ったトレーニングの構築方法などの伝達がメインになります。また、入り口として、まずは90分を戦うための有酸素系のトレーニングをベースに、スピード系も取り入れながら進めていきます。
例えば、理論上は理解していても、その日のトレーニングテーマに合わせてウォーミングアップのメニューを考え実践できる人は少ないと思います。それを念頭に置いて、具体的にどのように取り組めばいいのか。理論的な部分と実践的な部分の両方を内容として取り入れていく予定です。
――年代やカテゴリーを問わず、受講してもらいたいですね。
菅野 年齢も性別も問いません。今年3月に開催予定のコースでは、WEリーグクラブの指導者向けコースも考えています。女性のフィジカルコーチの養成も課題の一つですので、どんどん輩出していきたいですね。
――フィジカルB級やA級はより専門的な内容になっていくのでしょうか。
菅野 フィジカルB級およびA級は、AFCフィットネスコーチングコースと互換性を持たせたいと考えているので、その内容をスライドさせつつ、より日本人に特化したところをプラスしていこうと考えています。
フィジカルA級はプロチームの指導を目指すフィジカルコーチを対象としており、サッカーS級ライセンスを持つ監督と共にチームづくりができるフィジカルコーチ養成をイメージしています。最終的には、フィジカルA級を持つ人が増えて、いずれはヨーロッパなどのクラブで活躍する時代がくればいいなと思っています。あるいは、日本人監督が海外チームの指揮を執るというときに、その片腕としてフィジカルA級を持つフィジカルコーチと共に戦うというのが理想です。
「楽しく強く」フィジカルのイメージを変えたい
――フィジカルフィットネスプロジェクトとして、今後の展望をお聞かせください。
菅野 プロジェクトメンバーには、われわれ現場の人間のほかに、多くのエビデンスを出してくれる大学の先生方もいます。現場と研究や科学といった視点を組み合わせながら、いろいろなことを現場に取り入れていきたいと思います。また、男女の各カテゴリー日本代表にフィジカルコーチを配置するようになりましたが、そのサポートもさらに充実させていきたいと考えています。
今年からフィジカルフィットネスライセンスがスタートし、フィジカルの専門家が全国に増えていくことになります。正しいフィジカルの知識や情報が広がっていけばいいなと思っています。
――サッカーファミリーにメッセージをお願いします。
菅野 フィジカルトレーニングというと、きつい、苦しいなどのネガティブなイメージがあると思いますが、私は何とかそのイメージを変えていきたい。「やらなければいけない」から「やりたい」「やってやろう」という、ポジティブで積極的に取り組めるものにしたい。フィジカルは楽しく強く、と思っていますので、ぜひ皆さんにもそういうイメージでフィジカルを捉えていただきたいと思います。
――フィジカルのイメージを変える、非常に重要な言葉ですね。
菅野 ネガティブなイメージを持ちながらトレーニングをしても効果は上がりません。苦しいと思うトレーニングを、どうポジティブに取り組んでもらえるようにするか。矛盾することではあるけれど、楽しくなければ長続きしませんし、効果も半減してしまうと思うんです。私は27年間、プロチームのフィジカルコーチとして選手たちに寄り添いながら取り組んできました。こうした思いを講習会でも伝えていきたいと思いますし、その考え方が全国に広がっていってほしいです。その上で、日本サッカーがさらなる高みに行けるように力を尽くしていきたいと思います。
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