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メディカル通信

第4回 筋の打撲は初期治療が大事です
― 筋の打撲で、まずアイシングをしていませんか? ―

サッカーの試合や練習時には、さまざまな外傷が生じる可能性があります。その中でも、筋の打撲は比較的に頻度の高い外傷であり、特に大腿四頭筋(モモ前面)を蹴られて損傷することが多くあります。この筋の打撲は、軽度の筋損傷ですと、練習を休むことはありませんが、筋の損傷程度が大きいと、練習復帰まで長期間を必要とする場合があります。この打撲による中~重度の筋損傷は,初期治療の方法により復帰までの期間に大きく影響することがありますので、注意が必要です。

打撲の時の応急処置PRICE

打撲の時は、応急処置で有名なPRICEを行うことが原則です。これは保護、安静、氷冷、圧迫、高挙(図1)を行うことであり、その大きな目的の一つは、損傷部位からの出血を抑えることにあります。それでは、このPRICEの中で、もっとも優先順位の高い処置は、何でしょうか。安静にした後に、最初にどのような処置をしたら良いのでしょうか。

筋の打撲によって生じる出血を
最小限に抑えることがポイント

筋の打撲によって筋に存在する血管が損傷して、出血します。その血液が多量に周囲の筋に触れますと、筋に対して悪い影響を与えることがあり、その悪影響の1つに癒着があります。血液は血管外へ流れ出て、正常な組織に触れると、その正常な組織は血液に触れることにより自分のどこかにキズがついたと判断し、組織内の細胞増殖が生じます。

つまり多量な出血により細胞の増殖が起こり、筋が固くなったり,筋などが癒着という<くっつき>現象を生じたりします。これにより筋が伸びにくくなり(拘縮)、結果的に筋の機能が低下したり、関節の動きが悪くなったりします。筋の打撲後に早期復帰できない症例には、このように出血による影響が大きいのです.したがって,これを予防するには、できるだけ出血量を抑えることが大事であり、それにより、この筋の機能低下や拘縮を起こしにくく、復帰も早くなる訳です。

出血を抑えるためには

効率よく出血を抑えるためには、どのようなことが大事なのでしょうか。切れている血管から出血をできるだけ少なくするために、もっとも大事なことは圧迫です。局所を強く圧迫することで、切れている血管の端に圧がかかり、出血量が減少するとともに、止血され易くなります。

カッターなどで手を切ってしまった時も、その創の上を抑えてあげると止血が容易に可能となりますが、創の上に氷をおいても、なかなか止血されません。したがって、筋の打撲を生じた場合、アイシングをまず行うのではなく、まず圧迫を強く行うことが大切です。とくに受傷後1時間以内が大切で、この処置を十分に行うことで出血を抑えることができ、その後の回復に非常に良い影響を及ぼします。強く圧迫することにより、血流の障害が生じても1時間以内ならば問題ありません。アイシングしながらの中途半端な圧迫ではなく、選手が大変痛がっても、十分な圧迫が必要です。

もちろん、PRICEは重要な処置であり、アイシングも圧迫と同時にできれば、行った方が良いですが、最優先は圧迫であることを理解することが大切です。また、重症の場合には受傷後48時間は出血が続く可能性があるので、その重症度を判断しリハビリを開始する時期を決定しなければなりません。

膝を屈曲させて固定

出血後の筋が硬くなって伸びにくくなること(伸展障害)を予防するためには圧迫して止血を行うとともに、損傷した筋を伸ばした状態で(伸展位)保持することです(図2)。

大腿四頭筋(モモの前の部位)を打撲した時の初期治療は、まず強く圧迫するとともに膝を最大屈曲位に保持することが大切です。痛めた筋を伸ばすことによって、損傷した筋に悪影響が生じてしまうと考えるかもしれませんが、部分的な損傷でしたら損傷部位が収縮により離れてしまうような悪化はないという研究結果が報告されています。

また、早期に損傷した筋を軽度に動かすことが、再生してくる筋に伸展方向の情報を与えるという良い影響があるとされています。打撲の時は出血の可能性が減少し医療スタッフからの指示があったら,安心してストレッチなどのリハビリを始めて大丈夫です。

まとめ

筋の打撲は、適切な処置をしない事により、出血量が多くなってしまうと、復帰までに多くの時間を要してしまいますが、適切な処置をして出血量を最小限にすれば、早期復帰ができる可能性があります。これは受傷後1時間以内が大変大事であり、この1時間をどう処置するかにより、復帰の時間に大きく影響します。
ただPRICEを覚えるのではなくて、しっかり理解して適切に対応しましょう。

参考文献

サッカー医学マニュアル FIFA F-MARC。サッカー協会HPより閲覧可能。
F-MARC Football Medicine Manual 和訳 (5.8MB)

2010年11月
JFAスポーツ医学委員会 加藤 晴康

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