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リスペクトの心の育て方 ~いつも心にリスペクト Vol.18~
2014年10月31日
国際サッカー連盟(FIFA)のFIFAフェアプレーデイズ(9月1日〜9日)に合わせて、日本サッカー協会(JFA)も9月5日から14日にかけて「JFAリスペクトフェアプレーデイズ2014 差別、暴力のない世界を!」を実施しました。
この期間に行われたJリーグでは、それぞれの試合前に選手による「差別/暴力根絶宣言」が実施されました。両チームのキャプテンが宣言文を読み上げ、スタジアムを訪れた人だけでなく、テレビ観戦の人びともその言葉を耳にしたはずです。
9月5日に札幌で、そして9日に横浜で行われたサムライブルーのウルグアイ戦、ベネズエラ戦、さらには13日に山形で開催されたなでしこジャパン対ガーナ女子代表戦でも、同様の宣言が行われました。
9月6日にはJFA主催のシンポジウムも開催され、熱心な討論が展開されました。
さらに、特に子どもたちを対象にした「選手のためのハンドブック〜スポーツはみんなのもの 誰もが安心・安全に楽しむ権利」も発行されました。
こうした活動を広範に、そして持続的に行っていくことの大切さを、あらためて感じます。
何よりも、サッカーを好きになり、これから一生懸命に取り組もうとしている子どもたちにフェアプレーやリスペクトの「心」を植え付けることは、日本のサッカーが健全に発展していく上で欠かすことのできない要素です。仲間だけでなく、対戦相手、指導者、審判、運営の役員、家族、応援してくれる人、施設、そして道具などを大切に思うこと—「リスペクトの心」を養うことは、サッカーを通じて人生を豊かにすることに計り知れない意味があります。
しかし言葉で知っていることが、すなわち「リスペクトの心」を身につけることではありません。どうしたら子どもたちが「リスペクトの心」を持てるようになるのでしょうか。難しそうですが、そのプロセスは実際には非常にシンプルではないかと私は思っています。
子どもたちに対して、周囲のすべての大人が「リスペクトの心」を持って接することです。
私の友人に、誰に対しても驚くほど親切な人がいます。どんなときにも、彼は自分のためでなく、相手のためにどうしたらいいかを考えて行動します。まるで聖人のような人なのですが、長い間、彼の人格がどうやって形成されたのか、不思議でなりませんでした。そしてあるとき、彼の両親に会って、その謎は簡単に解けました。
彼は、両親から、そしておそらくすべての家族から、無条件の愛情を注がれて育ったのです。甘やかされたという意味ではありません。ほめるときだけでなく叱るときもあったでしょう。しかしそのすべての背景に無償の愛があることを、彼は感じながら育ったのです。だからこそ、他人に対したとき、彼自身が無私の親切ができる人間になったのです。
リスペクトの心もまったく同じではないでしょうか。
親から子どもへ。指導者から選手へ。審判員から選手へ。運営役員から選手へ。とくに重要なのは、学校の先生から生徒へ…。
子どもたちに対し、周囲の大人が、その人格と人権を認め、リスペクトの心を持って接すれば、子どもは自然にリスペクトの心を持つようになるに違いありません。
今年4月号のこのコラムで、「リスペクトは鏡」と書いたことがあります。自分自身が相手をリスペクトし、それだけでなくリスペクトしていることを示すことにより、相手からリスペクトのある態度を引き出すことができるという内容のコラムでした。
相手が子どもであればなおさらです。子どもの人格と人権を尊重していることを示し続けるのは、リスペクトの心を持った人間を育てる唯一の道だと思います。
あらゆる面で未熟な(それこそ「子ども」の定義です)子どもたち。彼らは懸命に成熟しようとしています。成熟への「近道」や「早道」を教えることではなく、自ら成熟しようという姿勢を応援することが、大人に課せられた役割なのではないでしょうか。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
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