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正しい握手の仕方 ~いつも心にリスペクト Vol.21~
2015年02月02日
30年近く前のこと、今もアルゼンチンのブエノスアイレス在住で日本サッカー協会(JFA)の国際委員をされている北山朝徳さんからひとつの依頼を受けました。在ブエノスアイレスの日本人の少年少女を応援するためにスポーツ店を開くので、お店のロゴマークをつくってほしいというのです。
お店の名前は「フレンドリースポーツ」でした。私が頼んだデザイナーは、考えに考えて「握手」をモチーフにした素晴らしいロゴをつくってくれました。もちろん、北山さんも大喜びでした。
当時と現在の日本の習俗を比較して著しく変わったことのひとつが、「握手」ではないでしょうか。当時の日本では、日本人同士だと特別な場合にしか握手をしませんでした。しかし現在は日常的に行われています。
サッカー界で握手を広めた功労者はJリーグの初代チェアマン川淵三郎さん(現JFA最高顧問)でした。Jリーグが始まったころ、川淵さんがにこやかに相手に近づいていって握手をする姿は、「新しい時代」を感じさせるものでした。以来、サッカー界ではあいさつといえば握手になっています。
試合の中でも、両チームの選手たちとレフェリーが試合の前後に全員で握手を交わす光景が見慣れたものになりました。
握手は、相手へのリスペクトを表現するものです。試合相手、そしてレフェリーとの握手は、フェアにプレーして互いに力を出し切り、良い試合にしましょうという気持ちを表現するものです。良い試合をするには対戦相手へのリスペクトが不可欠です(リスペクトを欠いて臨めば痛いしっぺ返しを受けます)から、試合前の握手を単なる「儀式」のように思っている人もいるかもしれませんが、とても大切なのです。
さて、日本代表やJリーグはともかく、少年少女の試合を見ると、正しく握手できる人がほとんどいないのに気づきます。
正しい握手とは、半歩近づきながら自ら右手を出し、頭は下げず、相手の目を見てしっかりと握り合うことです(強く握り過ぎてはいけません)。リスペクトし合う関係なのですから年齢や地位を考慮する必要はなく、対等な人間同士として握り合います。
おそらく、日本の義務教育のカリキュラムには「正しい握手の仕方」などという項目はないのでしょう。少年少女の握手に注目すると、ほとんどが相手の目を見ることもなく、握り方も十分ではありません。ただ手を差し出すだけという形が圧倒的に多いのです。
昔ドイツで小学校の登校風景を見たことがあります。その学校では、始業のベルが鳴るまでは生徒たちは教室に入らず、外で遊ぶか待っていました。そして始業時間になると各クラスの先生が教室の入り口の前に立ち、そこで入室する一人一人の生徒と握手し、名前を呼んで短い言葉を交わしていたのです。毎日のこうした習慣で、子どもたちは知らず知らずに「正しい握手」とあいさつの仕方を覚えているようでした。
ギネス記録の公式サイトによると、一人で百人との握手を最も速く達成した記録は1分45.15秒だったそうですが、相手の目を見る間もなかったのは間違いありません。「正しい握手」とは言えないでしょう。
握手の歴史は古く、ギリシャや中国には紀元前から記録があるそうです。国によっては宗教的な理由で男女間の握手はしないというところもあります。韓国では目上の人と握手するときには左手を添えるという習慣があり、日本でもかなり普及しています。日本人の伝統的なあいさつは「おじぎ」ですが、国際化が進む時代、世界で最も普遍的なあいさつの仕方である握手の出番がこれからも増えていくに違いありません。
2015年、新しい年が明けました。オフ明けのチームの最初の練習では、「新年おめでとう」のあいさつとともに、半歩歩み寄ってほほえみながら右手を差し出し、相手の目を見ながらしっかりと握って、「正しい握手」で一年をスタートしましょう。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
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