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選手の安全を守る ~いつも心にリスペクト Vol.52~
2017年09月20日
日本の夏はだんだん過激になるようです。
今年7月には、40人近い犠牲者を出した九州北部の豪雨だけでなく日本各地で記録破りの集中豪雨が発生し、たくさんの被害を出しました。暑さも年ごとに厳しくなっているようです。7月から連日30度、35度という暑さが続き、熱中症で病院に救急搬送される人が連日何百人も出ています。
日本サッカー協会(JFA)は昨年3月に熱中症対策のガイドラインを発表、黒球式熱中症指数計(WBGT計)が31度以上になる時刻に試合を始めない、31度以上になった場合には試合を中止または延期するなどの原則を定めました。また、31度以上の日にやむをえず試合を行う場合には、前日と翌日には試合を行わないことも定められました。
にもかかわらず、今年も全国高校総体や全国中学校大会といったJFAが主催する大会が、8月に3日連続のようなスケジュールで開催されています。真夏には大会を開催しないという原則を早く確立しないと、日本のサッカー選手たちは生命の危険と隣り合わせで試合に取り組むことになります。 さて、ガイドラインは「試合」に限定されていますが、毎日の練習もまったく同じです。ニュースを見ていると、サッカーで熱中症は練習時が多いように感じます。指導に当たっている人たちはどう考えているのでしょうか。
それぞれのチームにWBGT計が用意されているでしょうか。きちんと設置して計測し、練習はその指針に従って進められているでしょうか。
WBGTとは、気温だけでなく、湿度、そして地面などからの輻射熱を総合して出した「暑さ指数」です。同じ状況でも、地面から近いところにいる子どもは大人以上に地面からの輻射熱の影響を受けますから、小学校4年生の場合、平均身長140センチとしてWBGT計はその3分の2の高さ、地面から93 センチのところに設置することになっています。実際にプレーするピッチ上で測らなければならないのはもちろんです。
天気予報や地域の警報などはあまり頼りになりません。WBGTは、地面の状況や周囲に木立があるか、風は吹いているかなど、局地的なものに大きく影響を受けるからです。「警報が出ていないから大丈夫」ではいけないのです。それぞれのチームの活動の場のピンポイントの情報が必要です。だからチームにひとつWBGT計がなくてはならないのです。
「指導者」の役割とは何でしょう。勝てるチームをつくるためにチームを鍛えることでしょうか。私自身は、勝利に優先するものがあると考えています。それは、選手たちが楽しく、そして何より安全にそして健康的に活動するようリードすることです。
イングランドサッカー協会は各種のサッカー関係者が守るべき「リスペクトの行動指針」を定めていますが、「コーチ、監督、クラブ役員」が選手たちに対するときの最優先指針は、個々の選手の「健康」「安全」そして「喜び」としています。「勝利」は「喜び」のひとつの要素にすぎません。
日本のサッカーでは、まだまだ「勝つ」ことばかりにこだわる指導者が多いように感じます。その結果、選手の健康や安全が、「無視」とは言わないまでも「軽視」されているのではないでしょうか。
そうした状況をイングランド協会は「リスペクトの欠如」であると断じ、こうした指導者は罰金や出場停止の対象となり、クラブから解任され、指導者ライセンスを没収されるとしています。
スポーツは、プレーヤーそれぞれの人生を豊かにするために行うものです。そうした本来の目的を達成するのを助けるのが、コーチや監督の役割です。
私自身、ある東京の女子チームの監督として、練習の前後に、同じグラウンドでいろいろなチームが練習しているのを見ます。しかしどんな暑い日でも、WBGT計を設置して練習しているチームなど見たことがありません。日本の夏、サッカーが「危険」なものであっていいのでしょうか。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
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