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「差別、暴力のない世界を」をテーマにパネルディスカッションを実施 vol.1 「JFAリスペクトフェアプレーデイズ2014 差別、暴力のない世界を!」 シンポジウム開催 ~JFA差別、暴力根絶宣言~
2014年09月12日
日本サッカー協会は9月6日(土)、日本サッカーミュージアム ヴァーチャルスタジアムにおいて、JFAに登録する指導者、審判員、チーム代表者、都道府県サッカー協会関係者、日本体育協会、日本オリンピック委員会などの関係者ら約130人を集め、「JFAリスペクトフェアプレーデイズ2014 差別、暴力のない世界を!」シンポジウムを開催しました。
シンポジウムでは、「差別、暴力のない世界を」をテーマにパネルディスカッション。JFAリスペクト・フェアプレー委員会の松崎康弘委員長がモデレーター(司会)を務め、車椅子のサッカー指導者・羽中田昌さん、元バレーボールアメリカ女子代表のヨーコ・ゼッターランドさん、JFA審判委員会の上川徹委員長、同技術委員会(育成担当)の山口隆文委員長がパネリストとして登壇し、今年Jリーグで起こった差別的行為や暴力を用いない指導の在り方、また、子どもたちが楽しく安全にサッカーをできるよう見守る“ウェルフェアオフィサー”の導入などについて、それぞれの体験談を交えながら活発な議論が交わされました。
パネルディスカッションの様子(敬称略)
松崎
日本では日々多くのサッカー、フットサル、ビーチサッカーの試合が行われています。そして、多くの皆さんがサッカーなどをプレーし、見てくださっています。
航空路を始め様々な交通網が発達した結果、気軽に生でサッカー観戦ができるようになりました。また、テレビやインターネットでも各国のサッカーを観ることができます。世界中のニュース、情報がすぐさま身近な生活に飛び込んできます。便利ですね。楽しいことでもあり、世界各国の人と知り合え、その文化に触れるこことはとても素晴らしいことです。
これまでは遠く離れていて気にならなかったことが日常に入ってくると、様々な違いに気付くことになります。異なった文化、多様な人種、多彩な価値観、それがあることで我々の生活が豊かになります。ところが逆に、そういった違いを不快に感じてしまう人もいるようです。そして、それを排除しようと考え、行動してしまうことがあります。それが差別です。
また、自分の意のままにならないと、力をもって服従させようとする行動、パワーハラスメントや、暴力行為も我々の生活の中に存在します。とても残念なことです。
日本サッカー協会は、「JFA2005年宣言」にて、「サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、人々の心身の健全な 発達と社会の発展に貢献する」という理念を掲げています。この理念追求ために、JFAの関係者は、人種、性別、宗教のみならず、社会的弱者に対するものも含め、あらゆる差別を排除し、リスペクト、フェアプレー精神の下、活動するべきだと考えます。
また、我々は、世界で最も愛されているスポーツであるサッカーの、各国、地域の加盟協会を取りまとめるFIFA憲章にある反差別及び反人種差別の姿勢の考え方を遵守し、その精神を日本において普及・伝搬、実行するべきだとも考えます。
これらの考えの下、日本サッカー協会はその基本規程において、人種等の差別はいかなるものでも厳格に禁止されるものと明確に位置づけています。また、差別等があった場合の処罰についても、FIFA懲罰基準に準じて厳格に規定しています。
さらには、役職員行動規範を定め、役職員に正しい行動を求める他、指導者規則に暴力撲滅のための規定を設けるなどして、差別、暴力の根絶に対して断固たる強い姿勢で臨んでいます。
しかしながら、国際化、様々な価値観、生活様式の多様化が進んだことにより、日本の社会のみならず、サッカーを取り巻く環境においても、差別や暴力に対する認識等に対して脆弱な意識、思考、行動が見受けられることも事実です。差別、暴力(暴言、ハラスメントを含む)が我々のスポーツにおいて、我々の暮らす社会において、本当に根絶されるために我々はこれらに対して更なる行動をとって行かなかなければならないと考えます。
ここからのパネルディスカッションでは、基調講演を受けて、サッカー界、スポーツ界での差別、暴力の根絶に向けて、リスペクトの観点から、どのように考え、どのように行動していけるか、皆さんと考えていきたいと思います。
まずはパネリストの皆さん、自己紹介を兼ねておひとりずつ一言いただけますでしょうか。
上川
サッカーに限らずスポーツの原点は、プレーをすることを楽しみたい、あるいはうまくなりたいという気持ちや想いだと思います。その想いを守るために、我々が何を考えてどういう行動をとっていくかがとても大切になると考えています。審判サイドからのコメント中心になるかもしれませんが、このシンポジウム、パネルディスカッションを通じて、スポーツ界、サッカー界、そして社会に、強いメッセージを出していければと思っています。
羽中田
私は見ての通り、車椅子に乗っています。これまで生きてきた中での車椅子からの目線での話や、スペインのバルセロナに3年間住んだその海外経験からも話ができればと思います。そしてS級ライセンスをとらせていただいて、香川、奈良で監督経験もあります。サッカーの主役は選手だと思います。監督として選手を守りたい。選手を守るにはどうしたらいいか。そういった想いからも話ができればと思っています。
正直これまで人権や暴力、暴言、差別等、あまり深く考えたことがなかったのですが、今日この場を良い機会と思い、一生懸命勉強しながら、自分の想いが語れればと思います。よろしくお願いします。
ゼッターランド
他競技からということで、同じチームスポーツ、女子バレーからです。バレー界でもこれまで様々な問題があり、これからどうやって取り組んでいけば、スポーツ界でのバレーボールの位置づけを、敬意をもって皆さんに見ていただけるような競技になれるか、ということを考えています。私自身昨年から大学の指導現場を預かることになりまして、指導する立場からいろいろ考えさせられることが多々あります。そして選手経験の中で、将来もし自分が指導者になったらどういう指導者になりたいかということを考えていた当時の想いについて。また本日は一人だけ女子ですので、女子選手としてどういうことが起こっていたか、あるいは女子の選手を指導する上でどういうことがあるかについて。また、私は外国人ですので、その中で経験してきたこと、感じたことなども、今日いろいろと勉強させていただきながら、お話しさせていただければと思います。よろしくお願いいたします。
山口
去年日本サッカー協会が、サッカー活動においてすべての暴力、暴言を根絶するという宣言をし、一年半さまざまな取り組みをしてまいりました。その結果、今どういう状況になっているか、皆さんにお知らせしながら、今後どうしていくべきか。暴力、差別を根絶するために、魔法のレシピは無いと思いますが、そういった中我々はどう取り組んで行かなくてはならないか。今後さらにどうすればいいかということを今日は考えていきたいと思います。ぜひご意見をうかがいたいと思います。よろしくお願いします。
松崎
本日は、フロアにもいろいろな方にご参加いただいています。コメントがあればぜひいただきたいと思います。
今年の3月14日の浦和レッズの試合でサポーターが“Japanese Only”という差別的な表現の横断幕を掲出しました。それに対しJリーグは迅速に対応し、無観客試合という厳しい処罰を課しました。そこから日本国内でも、スポーツ界における差別について、多くの議論が行われるようになりました。しかし、そんな中で残念ながら、8月23日、横浜マリノスのサポーターがバナナを振りかざして挑発するという行為がまた起きてしまいました。
こういったことに迅速に断固として対応していかなくてはいけない。まずそのことを我々は考えていかなくてはなりません。
上川さんはこの試合の審判アセッサーとして現場にいらっしゃったそうですね。どのような印象でしたか。
上川
そのバナーが出ていた試合、アセッサーをしていたのですが、試合はフェアに見ごたえのある試合が展開されていて、そういうことがフィールドの外で起きていたとは全く感じていませんでした。クラブの対応があり、選手には影響を及ぼさなかったものと考えています。そして次の試合、先週末の仙台のホームゲームの試合もアセッサーで試合を観させていただいたのですが、試合前にサポーターは、自分達で応援を自粛したいということをクラブ側に申し出たようです。ただ、先週に起きた事件と応援をしないということは別のことであり、普段通りに応援をしてほしいとクラブ側がお願いをした。では、鳴り物を使わずに声と拍手だけで後ろから応援したいということで、応援が行われました。実際に試合を観ていて、自分達が起こしたことに対する真摯な態度でした。また応援だけではなく、普段であればレフェリーの判定に不満を持ちそうな場面、あるいは相手選手に対して気に入らない行為や判断があるとブーイングが出るものと思いますが、その試合では一切ブーイングもなく、そしてそれに応えるような形で、選手もプレーに集中し、どんどんプレーを続けて行く、という試合になりました。選手とサポーターがいつも以上に一体感を持って試合に臨んでいる。そういう風景を見ることができました。何かこういう問題が起きたときに、すぐ自分から考えて行動を起こしていくことは日本人の良さなのかもしれません。これは大切なことであり、継続してほしいと思います。子ども、家族、あるいは女性が試合を観に来る中で、選手に対する野次や、判定に対するブーイングとかは聞かせたくない。でもこういうスタジアムであれば、ぜひ来てもらいたい。こういう風景が日本国内で、サッカーに限らずスポーツの中で、継続されればいいな、という感想を持ちました。
松崎
ありがとうございました。
すばらしい対応をクラブがした。Jリーグがきちんと対応できるようにした。クラブだけではなくサポーターも、いかに差別が、我々のサッカーには不必要なものであって、それから脱却して自分のチームを応援しようというところのすばらしさがあったと思います。
話しは変わって、国際化についてです。今こそ随分国際化している日本ですが、欧米と比べ、日本で起きている差別とはどんなものなのか。私も海外で生活したことがあります。差別を感じることはありましたね。サッカーの試合で行ったヨルダンで、レフェリーの服を着ていたわけではないのですが、夜街を歩いていたら、唾を吐かれた経験もあります。
ヨーロッパ、アメリカでの生活経験のある羽中田さん、ヨーコさん、いかがですか?
羽中田
実は僕は、差別を受けたという記憶はないですね。逆に、日本にいるときよりも、見られていない感じがしました。外国人なのですが、それよりも車椅子に乗っているということがあって、外国人よりも車椅子という目で見られていたと思います。向うの人は違いをあまり意識していないんだなと感じていました。まだ行ったばかりでスペイン語が全然話せない頃だったのですが、スペイン人に平気で道を聞かれあたふたしたりして。アパートから老人が出てきて近づいてきて、何を言うかと思ったら「ビンの蓋をあけてくれ」と言われてあけたりして。そんなこともありました。すごく住みやすかったという想い出ですね。
ゼッターランド
アメリカで生まれて6歳で日本に来ました。その時には、まだ小さかったというのもあるのですが、自分がアメリカ人だとか、母が日本人なのでハーフであるとか、そういった自分の外見的なアイデンティティにまったく認識がなかったんですね。アメリカで自分がバックグラウンドを認識するような物事が起こる年齢でもなかったということもあります。まるっきり環境が変わった中で、日本人しかいないところに姿形が異なる日本語がしゃべれない者が突然入ってきて、おそらく受け入れる側の子どもたちもとても違和感があったのではないかと思います。物珍しいのか、自分が好奇の目にさらされているというのは実感して、それが一体なぜなのだろう、とすごく感じたことがありました。今の日本に住んでいる外人にまだまだ偏見や好奇の目というのはあると思うのですが、昔と比べたらそれは相当少なくなったのではないかと思います。当時はまだまだ子どもたちがおじいちゃんおばあちゃんと一緒に暮らしていたりして、戦争を経験してこられた方達が家で子どもたちに語りついでいくこと、アメリカに対しての印象というものが、敗戦に大きく関わっていました。そのことによって伝わっていたものがあり、戦争をまったく経験していない世代であっても、代々語られてきているものがこの国にはあるということを感じました。アメリカ人として日本に住み始めた私が感じたことでした。
もう一つ挙げさせていただくと、アメリカのナショナルチームの一員としていろいろな国を転戦したのですが、どこに行ってもアメリカのチームは嫌われるんですね。勝とうが負けようが関係なく。昨日まで自国と対戦したチームにブーイングを送っていた地元の方が、そうではない対戦カードでは、大体アメリカにブーイングが来る。そこでアメリカという国が世界でどう思われているのか、ということを考えさせられることがありました。選手として、自分達はアメリカの代表として戦っているわけなのですが、スポーツを通じてアメリカという国が見られるのであれば、我々はその国に行ってどういう行動をとらなくてはいけないのか。そういうことを考える中で、その国の文化、いろいろな背景、アメリカとの関わりを知り、そして自分達がどういう扱いを受けようと、その国の皆さんの文化も含めリスペクトするということから始めなければいけないのではないかと感じた経験がありました。
松崎
政治がスポーツに入ってきてはいけないし、それは差別の問題になるのではないかな。それも排除して行かなくてはいけないですね。
なぜ差別というのは起きてしまうのですかね。そのメカニズムが良くわかりません。法務省の杉田さん、なぜなくならないのですか。
杉田
非常に難しいですね。それがわかれば解決策もすぐに導き出せるのではないかと思います。
いじめの問題などを考えてみると、自分が上に立ちたいという感覚があるのかなと思います。そのためには、自分より下のものをつくって安心感を持ちたい。そもそも人はそれぞれ違って当たり前で、いろいろな個性があって、ある場面では一方が尊敬され、またある場面ではもう一方の方が尊敬されるという関係があるにもかかわらず、自分より下のものを作り自分はそれよりも上に立っているという立場を作って、それで安心感をつくろうという、心の問題があるのだと思います。ただそれが社会人になってくると何となく無くなってくるのだと思います。それが絶対的なものかというとそれは難しくて、絶対的な解がみつかれば対策もできると思うのですが、そういうわけにはなかなかいかない。そういう難しさがあると思います。
松崎
いろいろなことで差別は考えられると思うのですが、たとえば言葉が違う、宗教が違う、それがなぜ差別につながるのかわからない。例えば子どもであれば、個人的にケンカをして好きとか嫌いはあるかもしれないけれど、宗教がどうだとか、肌の色がどうだとか。そんなの関係ないじゃないですか。子どものときからそういうことをきちんと理解をし、多様性を受け入れられるようにしていけば、きっと大人になってもなくなるのではないかと思うのですが。
山口
僕は20年間、都立高校で教えた経験があります。今から30年前くらい、日本にもまだそんなに海外のルーツを持つ子どもは多くはいなかったと思います。それがこの10年くらいで爆発的に多くなったと感じています。Jクラブのでジュニアユースを計7年間指導したのですが、ヨーロッパやアジア、アフリカ系の様々な国のルーツを持つお子さんが何人も来られました。30年前に思ってもみなかったような価値観が今の子どもたちの世界には入ってきています。言葉や育った環境が違う、価値観が違う、そういう人達がいるのだということをだんだん気づき始めたのではないかと思います。我々は島国の単一民族ですからなかなかそういう経験はなかったのですが、今はボーダーレス化で、子どもたちは多様な価値観を自分の周りに感じて暮らしています。我々大人がそれに対して、どう接するかによって、価値観は多様であり、その中で互いを認め合うことが重要だということを、逆に教育しやすい環境になってきたのではないかと思っています。
松崎
今日本のサッカー界でも国際化ということがユース年代でも起きているということですね。8月30日に大阪府サッカー協会と大阪人権博物館の共催で、「”Say No To Racism”人種差別にレッドカード」というシンポジウムが開催されました。そこにJリーグのチェアマンが講演をされたのですが、その中で、スポーツの中に内在する強い仲間意識(同質性の絆)と差別意識は裏表の関係にあるということだろうか。サッカーをやるという同質性の絆だけではなく、「一人ひとりは違うものなんだ」という多様性を前提とした強い絆を築いていくのはどうしたらいいのだろう。という問題提起をしています。
スポーツが仲間意識、同質性を持つことが、差別に向かう両面があるのではないか。でもだからこそ、こういうことを解決していけば、いろいろなことが解決されていくと考えています。
ではまた少し話を変えて、障がいについて考えて行きたいと思います。羽中田さん、日頃不便に感じることがありますか。先ほどバルセロナでは感じなかったというお話しでしたが、日本ではどうでしょうか。
羽中田
日本でも、障がい者に対する接し方は結構発展していると感じています。その中でも私は、障がい者と思ったことはないですね。障がいがあるとしたら、それは自分の周りにあるのではないかと感じています。たとえば目の前に階段があって、それが登れなかったら、その階段が障がいだ、と。だから手を貸してもらって持ち上げてもらったら、それも障がいではなくなって、まったく自分は障がい者ではないし、障がいなんてないのだ、と思うんですね。
スペインのバルセロナに住んでいるときには、自動ドアが多い街だなと感じました。どういう自動ドアかというと、手動式なんです。あちらの建物のドアはすごく大きくて重たいんです。車椅子で開けたり閉めたりはすごく困難で、到底一人ではできない状況が多いです。そういうドアの前に行くと、どこからともなく誰かが現れて、手動式の自動ドアを作動させてくれるんですね。開けてくれて、自然に入る。その流れがすごく自然だったな、と感じました。日本も進歩があるのですが、バルセロナでの生活を感じた中で、向うの方が慣れている人が多いな、日常生活に深く入り込んでいるな、と。街に障がい者もいたり、老人もいたり、子どももいたり、健常者の大人もいたり。いろいろな人がいて、そういう風景をすごく自然だと感じました。まだ日本はそこまでは感じられないかな。もっともっと障がい者や老人が、街に出ていてもいいのかな、と思います。
松崎
ありがとうございます。
羽中田さん、車椅子なのですが、S級指導者ですよね。監督をされていましたよね。すごいですよね。
山口さん、その講習でのインストラクターをされたそうですね。
山口
羽中田さんと会ったのは、彼がC級を初めて取得しに来た時で、東京都のC級でした。障がいのある方に初めてライセンス講習会を受講してもらうということで、東京都の技術委員会で考えて、ここはぜひやってもらおうということを決意した、その時に私は責任者でした。そして彼がC級を受けた時、S級でもそうでしたが、車椅子でしたが彼の取り組みが、他の人を変えていくんですね。「ああ、我々はもっと頑張らなくてはいけないんだ」そういうことを感じさせる取組をしてくれました。例えば、S級は、11対11の中で指導ができなくてはいけない。そうすると、たとえば逆サイドにいるサイドバックに声が届かなくてはならない。ただ、車椅子に乗っているので、なかなかそこまで声が届かない。しかしこれは、選手のプレーが改善しなかったら健常者であろうとなかろうと監督にはなれない。ということを言ったところ、彼は、次の週から、メガホンを工夫してつけてきて、声が隅々まで届くようにしてきました。結論的にチーム全体のプレーを改善できなければいけない。そのために自分に何ができるか、足りないところは自分で補う、無い物は持ってきてやる。そういう工夫をしながらやる彼の姿を見て、周りの受講生も変わっていく。彼がやることによって、他の障がい者の皆さんに勇気と希望を与えるし、健常者の皆さんにももっと自分はやらなくてはいけないという想いを与えることをあらためて感じました。そういった意味で、日本のサッカー界、スポーツ界において、社会の中でロールモデルとして、今後も活躍していただきたいと思っています。
羽中田
最初、日本でライセンスをとるときに、車椅子に乗っていますし、やらせてもらえるのかな、受講させてもらえるのかな、と正直不安でした。日本サッカー協会のどなたかが「車椅子に乗ろうとなんだろうと、目の前の選手のプレーが改善されればいいのだ。だからやり方はいろいろ、その人に合ったやり方でやればいいんだよ」ということを言って下さったようです。日本サッカー協会がそういう考え方を持ってくれたことで、僕の道は開けました。
スペインにいたときに、バルセロナの街で、障がいを持った友達に「バルセロナはいいね、住みやすいね。あまり段差もないし、あっても手を貸してもらえるし」と言ったんです。そうしたら、「マサシ、何を言っているんだ。それは俺達が今まで戦ってきたから、要求してきたから、今バルセロナの街はこういうふうになっているんだよ」ということをその友達は言ったんですね。なるほどな、と思いました。もしかしたらその友達の言葉の響きが私の体の中にあって、ライセンスを取る挑戦にもつながっていったのかな、と、今聞いていて思いました。
松崎
自ら行動しなければ取り除けない。障がいは、取り除くものなのですね。車椅子だけではなく我々にもたくさんの障がいがありますよね。取り除けばいいので、がんばっていければと思いますね。
障がい者についての関連で、本日、キッズプロジェクトで小学校教員である北野さんにフロアに来ていただいています。コメントをよろしくお願いします。
北野(フロアより)
キッズプロジェクトの北野と申します。金沢で小学校の教員をやっている体験からお話をさせていただければと思います。
今羽中田さんが、周りが障がいなのだというお話をされましたが、まさしく自分の体験の中にもそういうことがあり、自分が障がいなのではないかと思ったことがあります。勉強をし研修を受け、障がいのある子どもに接することがあります。そういうときに、「こうしなければいけない、このように対応しなければいけない」等、すごく緊張感があったり、不自然な形で接してしまうことが出てしまっていた自分に気づかされた体験です。今から10年ほど前に、5年生、6年生の担任をしました。そのときに、特別支援学級の子と完全全面交流で、すべての時間一緒に交流するということがありました。事前に情報をいただいていて、どのように対応すればいい、ということにすごく気をとられていました。ところが子どもたちは、小さい学校だったので保育園の頃からずっと一緒で、脳性麻痺のとも君というその子のことを良く知っていました。給食を食べさせるときに、スプーンであげていたのですが、周りの子どもたちが、「先生だめだよ、ともは猫舌なんだよ」というようなことを言ってくれます。階段の前で、とも君は60キロあるから「どうしよう」と思案していると、子どもたちが、「先生、ともはね、下ろしてあげれば自分で階段降りるんだよ。ちょっと待ってあげればいいんだよ。」と教えてくれます。本当に、自分が「何かしてあげなければいけない」と思う心が障がいを生んでいる、こちらに問題があるんだな、と感じさせられたと思っています。長い時間つきあってきた子どもたちは本当に自然にとも君を支えています。ある時登山があり、6キロくらい山を登る。そういうときは「どうする?」という話になるのですが、「先生、何とか僕らも手伝うから、一緒に行こうよ、ともも一緒に登ろうよ」と子どもたちが言ってくれます。仲間なんです。知ることで、理解することでできることだ、と私は勉強させられました。では一方的に助ければいいかというとそうではなくて、子どもたちがケンカをして、一人が浮いてしまった、そのときにとも君のところに行ってそばで話しかけたりしているんです。とも君は、話しかけらえるとニコニコっとするだけ、面倒くさくなると「嫌だ」とやるだけなのですが、悩みを打ち明け、受け止めてくれるとも君がいることで、その子も助けられている部分があった。お互いを知ることが大切なのだと知りました。
とはいえ周りの子がすべて差別のない世界で生きているかというとそんなことはなくて、実は学力などで測られる中で、お互い序列をつけ合うようなことがあり、いじめのようなことが起こったり差別的な言動があったり、といったことがその教室の中でもあります。その子を知れば、理解すればそのようなことは起こらないと思うのですが、とも君にできることが他の子にはできないという事実がありました。だから我々は、知り合わなければいけないということを、知る、知り合う、お互いを知ろうとするということが大事だなと思います。
サッカーのところでは、他の所とは違う見方、付き合い方があると思います。そういう意味で、サッカーができること、スポーツができること、いろいろな発信、このリスペクトのことももっともっと広めていければ良いと思っています。
サッカーのところでうれしいことがあったのですが、学校の同僚の若い女性の先生に「サッカーの人はなんであんなに握手をするのですか?と言われました。サッカーの人がきて、皆自然に握手をするのでとてもびっくりしていました。普段そんなことはありませんから。サッカーの皆が握手する。それは知り合う一歩かな、誇れることかなと思い、そういうこと一つ一つを大切にして我々はがんばっていけばいいのかな、と思いました。以上です。
松崎
ありがとうございます。
握手は我々の習慣です。広めていきたいですね。ただ、握手は形だけではなく本当の握手だということが大事だと思います。
今度は女性について、話していきたいと思います。
本日、ヨーコさん、唯一女性の参加者なのですが、どうですか。スポーツ界における女性という立場、何かありますか。
ゼッターランド
私自身は競技者である、バレーボール、スポーツが好きでそこに取り組んでいる。自分自身の技術力向上、あるいはスポーツをしていることによって人としての成長を望みたい、そのために日々取り組んでいる中で、それが女子だから男子だから何が違うのだろう、というのが私の根本的な考え方です。ですが、言われたことによって自分が女性であるということを意識するということはやはりありました。今はいろいろな競技の中で女性の指導者が増えてきましたが、まだまだ女子選手が男性の指導者から指導を受けるが多いと思います。もちろんすばらしい男性の指導者のもとでプレーをさせてもらったこともありますし、一つ誤解のないように申し上げたいのは、男性の指導者だから良い悪いではなくて、指導者としてのその人の資質の部分がどうなのかということを、受けた発言によって考えさせられることがありました。経験したチームは何チームかあるのですが、監督の特徴、考え方が言葉の端々に表れることがあります。例えば、「女は扱いにくいよな」とか、もっと私が驚いた言葉は、私が直接かけられた言葉ではないのですが、チームメイトは「このメスが」とか、そういう言葉を浴びせられた同僚がいました。それがいったい何の関係があるのであろうか。たしかに日本の中では子弟関係や主従関係などがスポーツの世界でも古くからあったと思うのですが、特に、チームスポーツをやっている者としては、指導者も選手も何か一つの目標を達成するために何かを作り上げていくために一緒に作業をしている、それがたまたま指導者という役割、トレーナーという役割、そして選手という役割があって、それぞれが全体の目標達成のために果たすべき責任と役割をきちんとするというだけのことだと思っていたのですが、なかなかそれだけではすまないということがあり、とても残念だと思いました。今度は自分が指導者になったときに、女子が女子を指導している形なのですが、それでもやはり言葉、どんな言葉を発するか、何を選手に向けるか、何を伝えたいかという言葉の精査に関しては、自分自身が聞いたり見たりした、あるいはかけられた現場を見て、すごく深く考えさせられる部分がありますね。
松崎
ありがとうございます。日本の方がやはり厳しいですか?
ゼッターランド
アメリカの場合ですと、ナショナルチームクラスになりますと相当気の強い選手ばかりがそろっていますので…。これは発言としては性差別的なものではありませんが、監督が、「さあ、チーム、いくぞ」というようなかけ声をするときに、「Let’s go, guys!」とか「Let’s go, girls!」とか、そういう言い方をするときに、私達もそんな細かいことを気にするのではないのですが、Guysでもgirlsでもなく「Ladiesでしょ、Say “ladies”」と監督に言ったりして、それはお互いに、ジョークのような感じで、そういった、可能な限り、ユーモアセンスも含めてさらっと流せるようなものであればいいのかなと感じました。ただ外国の指導者は、特に女性、男性というところでは、使う言葉にはかなり注意をして選手達に接している、そういう違いは当時感じました。
松崎
そういう土壌があるのでしょうね。
サッカーにしてみると、女性のサッカーはまだまだ男性に比べ盛んではありません。イスラム教の女性でもサッカーができる環境になりました。そのことについて、上川さん、簡単にご説明いただけますか。
上川
今年の6月、FIFAからの通達で競技規則の改正で、2年間試行期間を経て、正式に選手が、競技規則上はヘッドカバーという言い方をしていますが、ムスリムの女性も、サッカーのプレーができるようにということで、着用してのプレーが正式に認められました。
松崎
当初は競技規則で許可されなかったので、その結果、プレーができなかった女性がいました。そういうことを無くしましょう、誰でもサッカーを楽しみましょうということで、FIFAが判断しました。とてもいいことだと思います。
すべての人がサッカーを、という観点ですが、日本サッカー協会では、5月にグラスルーツ宣言を行いました。そのことについて、山口さん、簡単にご説明いただけますでしょうか。
山口
お手元のFootball for all という資料をご覧ください。エリートのサッカー以外のサッカーの環境をもっと整えて行こうということです。年齢、性別、障がい、人種などに関係なく、誰もが、いつでもどこでもサッカーの楽しさに触れられるように、自分のニーズや希望に合った選択肢を次々を増やして行こう、そういう環境を我々日本サッカー協会は整えていきますということです。安心・安全にサッカーを楽しむ環境を我々はしっかり整えていかなくてはならない。今までグラスルーツというと、ややもすると、キッズのところに特化したようなイメージがあったかと思うのですが、そうではなくて、この宣言は、プロ、エリートサッカー以外のすべて、女性も、シニアの方も障がいのある方も、そういったすべてのサッカー環境を整えて、日本のサッカーを愛する仲間にサッカーをもっと身近に楽しんでもらいましょう、そういう宣言です。
松崎
ありがとうございます。
差別に関してまとめに入りたいと思います。
差別は社会的に、非常に難しい問題だと思います。表現の自由もあり、なかなか対応ができないということもあります。それを我々は、サッカー、スポーツを通じて、解決のためのアプローチをしていきたい。スポーツは先ほども言いましたように、同質性と多様性の二つを持ち合わせている。できれば我々がチャレンジしていかなくてはいけないし、解決の糸口も持っているのだと思います。スポーツは健全に違いを意識し合える場であり、いろいろな違いを包み込める場でもあります。違いの認識が悪い形で現れると差別となるのですが、良い形で多様性を認識し、すばらしい力にしていくということが大切だと思います。特にチームスポーツですので、それが大切かなと思います。同質性のすばらしさと多様性のすばらしさをもって、差別という概念を持たない感覚を、低年齢のうちから身につけるようにしていくことが大切ですね。そのためには指導者の存在というのが非常に大きいと思います。
全然違う話なのですが、敵地に行くであるとか、敵と戦う、言われますね。ぜひ、ここにいる皆さん、やめてください。「敵」ではなく「相手」です。相手がいなければスポーツはできない。サッカーの競技規則の中には「敵」という言葉は一つもありません。Opponent、相手といいます。相手があるから我々はサッカーができるんですね。ヨーコさんも先ほどおっしゃっていたのですが、言葉はすごく大切です。我々は相手とやるサッカーをやりましょうということで、これはまとめというよりも私の希望です。
それでは、暴力と暴言についてに話を移していきたいと思います。
スポーツにおける暴力と暴言の根絶については、昨年のこのシンポジウムでも主題として扱い、「しない、させない、許さない」ということで、ディスカッションを行いました。この場に参加されている皆さんの周辺ではあまり起きていないと思いますが、残念ながら、暴力・暴言の問題はなかなか減っていないのが現状です。先ほども差別のところでも言いましたが、低年齢のところから良い考えを身につけることが大切です。そこには指導者の存在が大きいですし、その指導者が暴力を使うというのは言語道断ですね。JFAとしては暴力問題への対応の一つとして、昨年6月から暴力根絶相談窓口を開設しています。山口さん、経過について、ご報告お願いします。
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