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[特集・スポーツの楽しさを守る]自分にないものを探し、認める ブラボーナチャレンジサッカースクール(鳥取県)|サッカーファミリーの取り組み~リスペクトアウォーズ2022より
2023年09月05日
選手のパスウェイを含め 新しいフェーズに
鳥取県のブラボーナチャレンジサッカースクールでは、2021年から興味深い取り組みが行われている。月に一度、誰でも参加できるコーチング研修会を開催し、研修会の後やその合間に参加者たちがソーシャルフットボールのコーチとして、精神障がいのある選手たちと触れ合っているのだ。
このコーチング研修会の旗振り役を務める小林勝年さんは、長年、地域の福祉センターに勤務し、現在は大学の教授として発達心理学を教えている。学生時代、サッカーをした経験がある小林さんは、研修会が発足した背景を次のように語る。
「ディスカッションをしたり、自分たち主体で体を動かしたりしながら何かを学ぶ。そういう学びの場が必要だと常々感じていました。ソーシャルフットボールの選手にとっては、治療の効果もあります。普段は対人関係を築くことにあまり積極的でなくても、サッカーを通じてみんなが協力し合うようになります」
少人数でスタートした研修会だが、今では医師、建築士、保育士、会社の営業、教師など多種多様なバックグラウンドを持つ人々が参加している。研修会では「対等な関係とは何か」「個性とは何か」「大人から言われてうれしい言葉」など、毎月議題を設けて徹底的に意見を交わす。
「大人から言われてうれしい言葉」についてディスカッションしたときは、言葉そのものよりも選手をしっかり観察し、それを言葉にした方が選手に伝わるのではないかという意見が出た。言葉探しより、選手をよく見ることの方が大事だという結論に至った。
もう一つ、参加者の多くが重要だと感じたのが、選手の存在を認める、ということだった。一般的なサッカーの試合では選手のパフォーマンスに目が行きがちだが、小林さんは「そうではなく、その選手がいることで何かを分からせてくれるということに気づくのが大事」と指摘する。「われわれの研修会には経営者も参加します。社員を選手に置き換え、『そこにいること』を肯定すれば社員の心理的安定につながるという気づきを得ているようです」と小林さん。
選手たちは若く、可能性がある。だからこそ結果だけで判断したり、評価したりしないよう心がけているそうだ。一見すると「ダメなこと」でもダメではないというのがブラボーナの考え方。試合中、積極的にボールを追いかけない選手がいても注意しない。「そこに立っていたことでいろいろな選手が見えたよね」と選手たちに前向きな声かけをしている。
小林さんは、発達障がいのある人たちの研究を続ける中で、一つの側面から見るとハンディキャップを抱えていると思われがちな障がい者も、ある特定な領域において並外れた能力や研ぎ澄まされた感覚を持っていることに気が付いた。だからこそ、小林さんをはじめとするブラボーナの指導者は、選手たちに「自分にないものを探し、それを認めよう。そうすれば自分にないものを学ぶことができる。それがリスペクトだよ」と伝えている。
現在は精神障がいのあるチームと活動の輪を広げているブラボーナだが、この先は「知的障がい者のチームもつくって盛り上げていきたいと思います。オープンな場で活動することによって周知を図り、この活動をうねりにしたい」と小林さんは期待する。
研修会の後、またはその合間にソーシャルフットボールでコーチングを行っている
※本記事はJFAnews2023年8月号に掲載されたものです。