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第10回 怪我のあとは、復帰のための運動療法(リハビリ) [ JFAスポーツ医学委員会 池田 浩 ]
2011年07月01日
スポーツ外傷に対するprimary careの原則は、RICE(安静、アイシング、圧迫、挙上)処置で、痛みの程度によっては安静(固定)が最優先されますが、安静(固定)によって生ずる筋力の低下や関節の拘縮は、スポーツ復帰の妨げとなることも事実です。したがって、早期のスポーツ復帰を目指すためには受傷直後(急性期)であっても、可能な範囲で運動療法を開始することが大切で、その中心となるものが、筋肉に対する強化訓練と、関節に対する可動域訓練です。また、スポーツによる怪我は、肉離れ、靭帯損傷、疲労骨折、筋腱炎など多岐におよぶため、それぞれの怪我に適した運動療法を選択しなければ、逆に病態を増悪させて、結果としてスポーツ復帰を遅らせることになります。そのため、個々の病態を十分に理解した上で運動療法のメニューを選択する必要があります。
1:筋力強化訓練
訓練方法は、等尺性訓練、等張性訓練と等速性訓練に大別されますが、具体的な方法としては、下肢伸展挙上訓練(SLR訓練: straight leg raising:図1)からノルディックハムストリングまで種類や強度は様々で、病態や病期、また選手のスポーツレベルなどのバックグラウンドに応じてメニューを選択する必要があります。
図1:SLR訓練(等尺性訓練)
A) 等尺性訓練は、関節を一定の角度に固定して筋肉を収縮させる方法で、SLR訓練(図1)が代表的訓練法です。関節がギプスなどで外固定されたケースや関節に運動時痛がみられる場合の訓練法として有用です。また、急性期や術後早期で、患部に明らかな腫脹がみられるケースでは、等尺性訓練を選択すべきです。腫脹が強い時期に患部に対して大きな負荷のかかる訓練を行うと炎症の増悪を招くからです。
B) 等張性訓練は、一定の負荷に抵抗して筋肉を収縮させる方法で、椅子に座り足関節にセラバンドなどで抵抗を加えた状態から膝関節を伸展させるレッグエクステンション(図2-1)や、腹臥位で膝関節を伸展位から屈曲させるレッグカール(図2-2)などが代表的です。腫脹を含めた炎症所見が改善してから導入すべき訓練法で、すべての可動域で筋力強化ができるというメリットもあります。
C) 等速性訓練は、一定の速度で関節を動かしながら筋力訓練を行う方法で、BIODEXなど特別なマシーンが必要となります。
図2-1:レッグエクステンション(等張性訓練)
図2-2:レッグカール(等張性訓練)
2:関節可動域訓練
可動域訓練には、損傷した関節周囲の自家筋力を働かせて行う自動訓練と、器械や理学療法士の介助で行う他動訓練があります。通常は、筋力訓練も兼ねて自動訓練を選択しますが、筋力の作用がマイナスの効果をもたらすようなケースでは、CPM(continuous passive motion)などの器械を用いた他動訓練を選択します。通常、疼痛の自制内で可動域訓練を行うのであれば問題ありませんが、疼痛の許容範囲をこえて可動域訓練を行うと病態の増悪を招くこととなります。
治療において、外固定(ギブスなど)を選択した場合の問題点は、損傷していない組織まで固定せざるを得ないことです。固定された筋肉や骨は萎縮しますので、固定が必要なケースでも固定範囲と固定期間は可能な限り短くして、早期からの訓練を行うことが復帰へ向けての第一歩となります。
詳細は「コーチとプレーヤーのためのサッカー医学テキスト(日本サッカー協会スポーツ医学委員会編)」をご参照下さい。
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