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「JFA+PUSHコース(簡易救命講習会)」を筑波大学にて開催
2019年10月11日
日本サッカー協会(JFA)は、ピッチ上の選手の安全を守ることを第一とした「スポーツ救命ライセンス講習会」と「JFA+PUSHコース(簡易救命講習会)」を2017年から実施しています。「JFA+PUSHコース」は、特別な医学の知識がなくても小学生から保護者・指導者まで2時間ほどで手軽に学ぶことができます。
9月28日(土)に筑波大学で、大学関係者・SALA FCの19名を対象に「JFA+PUSHコース」を開催しました。上牧 裕先生(茨城県サッカー協会医学委員長)が、熱中症・脳振盪(のうしんとう)などに関する講義を行いました。
実技は「誰かが倒れた時に、声をかける勇気」をできるだけ多くの人に伝えるため、NPO法人大阪ライフサポート協会/PUSHプロジェクトが提唱する「PUSHコース」を行いました。心肺蘇生の中でも最も重要な「胸骨圧迫とAED(自動体外式除細動器)の使い方」を習得するため、CPR(心肺蘇生法)トレーニングキット「あっぱくんライト」を用いて学習しました。講習会終了後、受講者全員に受講証が渡されました。
※開催希望の団体は、以下の問い合わせフォームより必要事項をご記入の上、送信ボタンをクリックしてください。
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講師コメント
上牧裕 さん(茨城県サッカー協会医学委員長)
今回は、急死された筑波大学体育系准教授ガイスラー ギド ヴァルター(GEISLER Guido Walter)先生の追悼サッカー試合の前に、実際に必要性を感じたメンバーを対象に簡易救命講習会を行いました。
筑波大学の陸上競技場、テニスコートなどの、広い屋外施設に面した体育センター内で、約20名の職員、サッカーファミリーを集め、黙祷後に講義を開始しました。講義は小生が担当し、AEDによる心肺蘇生の実技はJFA技術部から派遣の平塚さんが行い、適切に解説を加えたこともあり、全員熱心に参加していました。
講義は、以下のような内容で行いました。
ヘッディングの競り合いや、転倒で受傷し、意識消失するなどの脳振盪の診断は、試合中でも、3分間ルールでドクターがピッチ上でチェックできます。簡便なツールのポケットSCATⅡに従い自覚症状、記憶、バランステストの3点をチェックをします。後から徐々に症状がでる急性硬膜下血腫も念頭にいれ、運動中止を判断します。復帰は慎重にかつ段階的に行います。繰り返すとパンチドランカーとなり認知症、精神症状を起こすので問題です。
熱中症は近年の猛暑日の増加により、屋外スポーツ中の重症例の報告が目立っています。予防として、WBGTの計測で25度以上で注意喚起し、試合中でもまめに飲水タイム、クーリングブレイクをとります。更にキックオフタイム、試合時間の変更も必要です。重症例の治療は、直腸温計測で40度以上では、氷水を入れたバスタブに全身浴を行います。
アナフィラキシーは、食物、ハチに刺され発症し、早期に皮膚、呼吸器症状が出現するので、躊躇なく持参のエピペン投与が望まれます。また窒息の時はハイムリッヒ法による後方からの腹部圧迫法も役に立ちます。
後半のAED使用法の講義では、ビデオ動画で示された“心室細動“の心臓の動きを想像しながら模擬パッドの装着を行い、あっぱくんライトを用いた胸骨圧迫の体験学習を、各自が気持ちを込めて行なっていました。
最後に、参加者は、短時間ではあったが、実践的知識と技術を学べたのではないでしょうか。心肺停止は、日常生活の中で見かけることはまれですが、急を要します。救急車を呼び、同時に胸部圧迫することで救命できる命があります。現場での対応を、実践でイメージをしながら身につけて欲しいものです。
受講者コメント
松原悠 さん
今回の「JFA+PUSHコース」は、2018年10月に筑波大学体育系准教授のギド先生が突然の心不全により亡くなったことを受けて、ギド先生と共にサッカーをプレイしてきた仲間が、心不全を中心としたスポーツに関わる症状への対応法を学ぶことを目的として開催いただきました。
前半は、茨城県サッカー協会医学委員長の上牧 裕先生より、脳振盪、熱中症などサッカーのピッチ上で特に起こりうる症状、および窒息、アナフィラキシーなど日常生活で起こりうる症状について、適切な対応法を学びました。19名の参加者からは、「熱中症順化のメカニズムは?」「打撃から意識レベルが低下するまでの時間は?」といった症状の科学的な理解に関する質問や、「熱中症対策としてプレクーリングを行う適切なタイミングは?」「子どもにはヘディングをさせないという指導は今もあるのか?」といった症状の予防に関する質問がなされ、上牧先生のご知見・ご経験からレクチャーを受けました。
後半では、日本サッカー協会技術部指導者養成グループシニアオフィサーの平塚進氏より、街中で心停止となった人を発見した際の適切な対応法について、教材DVDを視聴し、「あっぱくんライト」を用いたAED操作の実践的な訓練を行いながら学びました。声を出して模擬的な患者を見ながら心臓マッサージの訓練ができたため、実際に街中で心不全患者を発見した際に対応するイメージが定着しました。心臓マッサージは意外と体力を使うことがわかり、周囲の助けを呼ぶことの大切さも身をもって知りました。
講習会の後は、筑波大学教職員サッカーチームと、ギド先生が所属されていたSALA FCによる、ギド先生追悼試合が行われました。ギド先生を愛する方々に出会い、思い出話を交わし、新たな友情を確かめ合いました。
中谷冬樹 さん
大学2年生の夏、いつものようにフットサルのワンデー大会に出場していた時、チームメートがプレー中に心停止によって倒れました。そのチームでは試合の動画を撮影しており、電池が切れた大きい人形のように地面に崩れ落ちるチームメートと、一番近い距離にいた私が倒れたチームメートの表情を見た途端にあとずさりをするシーンがしっかりと記録に残されていました。口角が下がり、白目を剥いたような倒れた瞬間の表情は、今でも鮮明に思い出すことができます。周りのチームメートや相手選手がすぐさま救急車を呼び、施設のAEDを準備し、体育の教師をやっているチームメートの一人が、胸骨圧迫と人工呼吸を繰り返し行いました。その後、救急隊員が到着し、近くの総合病院に搬送されましたがすぐに意識は戻らず、低体温の状態で2日間生死をさまよい、発症から3日後に意識を取り戻しました。
現在、倒れたチームメートはペースメーカーが胸に埋め込まれていますが、障害もなく社会人生活を送っており、再びフットサルができるようになるまで回復しました。救急隊員がくるまで、一人で胸骨圧迫と人工呼吸を続けたチームメートは、事故後に自治体から表彰を受けました。事故当時はふたりとも現在の今の私と同年齢でした。
今回受講した「JFA+PUSHコース」は、倒れた人が発する深いいびきのような音(死戦期呼吸)や、救助活動の手順など、私の目の前で起きた心停止事例と重なる部分が多くあり、そういったシチュエーションで慌てず行動を起こすための自信をあたえてくれるものでした。
今後も定期的に、こういった講習に参加したいと感じています。