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第8回 膝関節靱帯損傷 [ JFAスポーツ医学委員会 松本 秀男 ]

2011年05月01日

はじめに

 サッカーによる膝関節の怪我で、最も問題となるのが靱帯損傷です。膝関節には内側側副靱帯(MCL)、外側側副靱帯(LCL)、前十字靱帯(ACL)、後十字靱帯(PCL)の4本の大切な靱帯があります。これらの靱帯の一つでも損傷すると、最終的に膝関節の緩み(不安定性)が残り、その後のプレーに大きな影響が出ます。サッカーで多い靱帯損傷はMCLとACL損傷で、PCLとLCL損傷は比較的まれです。

a) 急性期の症状

 これらの靱帯損傷は「相手のタックルが入った」「着地時に相手の足と交錯した」など、接触プレーで発生する「コンタクトインジュリー」もありますが、多くは「急にステップをきった」、「着地時に膝をひねった」など相手との接触がない「ノンコンタクトインジュリー」です。

 靱帯を損傷すると、怪我した直後、一時的にはプレーに復帰できることもありますが、普通は疼痛が強く、プレーを継続できなくなります。また、その後、徐々に関節の腫れが進むので、疼痛は更に強くなります。MCLとLCLは関節の外にある靱帯ですので、これらが損傷すると靱帯の周囲(MCL損傷では膝の内側、LCL損傷では外側)に腫れが出ることが多いのですが、ACLとPCLは関節の中にある靱帯ですので、損傷すると関節内に出血して、血液が溜まります。この状態でプレーを続けると、ますます関節の腫れが強くなり、回復にかえって時間がかかってしまうので、無理せず交代することをお勧めします。チームドクターや試合ドクターがいる場合には、その場で診てもらってください。いない場合には、すぐに医療機関を受診した方がいいでしょう。この時点で歩き回ると関節内の出血が増加することが多いので、出来れば松葉杖等で怪我した膝には体重をかけずに歩行してください。

b) 急性期の診断

 医療機関を受診すると、まず怪我したときの状況を聞かれ、診察とレントゲン検査が行われます。まず、関節内に血液が溜まっている場合には、これを注射器で抜きます。抜いた液が血液なのか、黄色い関節液なのかは、診断の上で重要な所見になります。血液であれば骨折やACLやPCLなどの膝関節内の靱帯損傷を疑いますし、関節液であれば炎症や半月板損傷などを疑います。次いで、診察をして関節不安定性を調べます。更に、レントゲンを確認して骨折などの有無を判断します。専門医であれば、ここまでで、どの靱帯が切れているかなど、大体の見当がつきます。最終的には、後日MRIを撮像し、靱帯、半月板、関節軟骨等の状態を詳細に検討します。

c) 急性期の処置

 膝関節の靱帯損傷では、怪我した直後に手術を行うと関節内の癒着が生じやすいため、膝関節が脱臼した場合や、縫合によってある程度の回復が期待できるMCL損傷以外では、あまり手術は行われません。急性期治療のポイントは他の靱帯や半月板に損傷が及ぶのを防ぎながら、炎症症状を鎮めることです。比較的修復され易いMCL損傷ではギプスも巻くことがありますが、通常は関節の運動訓練や筋力訓練ができる支柱付サポーターを装着して、腫れがおさまるのを待ちます。腫れが強い場合は、松葉杖で歩行し、消炎鎮痛剤の服用、アイシングなどを1~2週程度行います。大切なことは、この間に関節の可動域(運動範囲)を徐々に回復させることと、怪我したほうの下肢を含めて、全身の筋力が落ちないように筋力トレーニングを怠らないことです。

d) 保存療法

 MCL損傷は、比較的修復され易く、また多少緩みが残っても大腿四頭筋の筋力である程度その緩みを代償出来るため、通常手術は行いません。受傷直後から2~3週間のギプス固定や外反を予防する装具などで固定し、徐々にトレーニングを開始します。但し、緩みが強い場合には手術を行うこともあります。

 ACLやPCL、LCL損傷も装具を用いて修復を試みることもありますが、関節の緩みのために、プレーを継続できないことが多いようです。従って、この3つの靱帯損傷では筋力強化などで、何とか緩みを代償することを試みることもありますが、活動性の高いサッカー選手では手術が必要になることが多いようです。

e) 手術療法

 「c)急性期の処置」で述べたように、MCL損傷に対しては縫合術が行われることがあります。他の靱帯損傷では縫合しても十分な回復が見込めないことが多いため、手術は再建術、すなわち靱帯を縫合するのではなく、他の組織(通常は膝関節周囲にある腱)を取り、これを使って靱帯を作り直す手術を行います。関節内の靱帯であるACLやPCLの再建術は通常関節鏡を用い、MCL再建術やLCL再建術では、それぞれの靱帯の部分を中心に切開して再建術を行います。

 術後は損傷した靱帯、手術方法などによって違いますが、通常は術直後から装具を用います。また、手術翌日から関節可動域の訓練と筋力訓練を開始して、術後の腫れがおさまる1週ごろから装具をつけたまま歩行訓練を行います。可動域や筋力の回復を見ながら、リハビリテーションを進めますが、サッカーに復帰するのはやはり半年程度はかかってしまいます。このリハビリテーション期間中に大切なことは、「絶対にサッカーに復帰するぞ」という気持ちを忘れないことです。入院中はベッドサイドにスパイクやボールを置いて、常に触っていましょう。退院したら、仲間とのコンタクトを忘れずに、チームの状況を把握しましょう。

終わりに

 膝関節の靱帯損傷はサッカー選手にとっては、選手生命を脅かしかねない重大な怪我です。手術や復帰までの厳しいトレーニングも必要です。「絶対にサッカーに復帰するぞ」という気持ち、これが困難を可能にします。

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