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いまこそリスペクトを ~いつも心にリスペクト Vol.86~
2020年07月22日
新型コロナウイルス感染による全国的な緊急事態宣言が5月中旬から順次解除され、日本社会も「新たな日常」に向け急速に動き始めています。第二波、第三波の感染流行も懸念される中、マスクの着用や身体的距離の確保、「三密」の回避など、「コロナ以前」とはまったく違った生活のスタイルが求められています。
そうした中、スポーツ活動も徐々に再開され始めています。「自宅トレーニング」や「自主練習」だったJリーグのクラブもグループに分けての練習からチームを2つに分けての時差練習など、それぞれ工夫を凝らしてグラウンドでの合同練習を始めています。以前のようにサポーターの歌声のなかで試合ができるようになるには、もう少し時間がかかるかもしれません。しかし私たちの生活に、スポーツが、そしてサッカーが、確実に戻り始めています。
今回のコロナウイルス禍で最もやっかいなのは、有効な対策が「他人との接触を極力避ける」ということだけだったことです。こうやって引き離されてみると、私たち一人一人がどれだけ他の人とのつながりの中で生きてきたかがよくわかります。そのつながりを保ったり確認するために、私たちは、笑顔を見せ合ったり、握手をしたり、ハグしたり、冗談を言い合ったり、ときには困っている人に手を差し伸べたりしてきました。今度のコロナウイルスは、そのいくつかを完全にストップさせてしまったのです。
私たちは、サッカーで人と人が直接つながることを、ことに重要視してきました。チームメートと力を合わせたり喜びを分かち合うことだけでなく、試合前や試合後の相手チームとの握手、倒れた相手チームプレーヤーを助け起こす手、そしてまた、負けて悲嘆に暮れている相手プレーヤーの肩を優しく抱いてなぐさめる行為……。
こうした行為を通じて、プレーヤーたちは互いへの「リスペクト」を表現してきたのです。そして少年や少女たちは、自然に「相手チームのプレーヤーはいっしょにサッカーをする仲間」と理解するようになってきたのです。
握手もしない、助け起こすこともない試合の中で、私たちはどう相手プレーヤーへのリスペクトを表現していったらいいのでしょうか。「新しい生活スタイル」の中で、みんなで考えなくてはならないテーマだと思います。
それとともに、「人と接触しない」ことに慣れてしまったこの数カ月間のなかで、「他人に対する不信感」のようなものが生まれつつあることも見逃すことはできません。接触しないのは、「誰が感染しているかわからない」からです。マスクをかけるのは、自分を守るためというより、「周囲に迷惑はかけないようにしている」と示すためです。家の中で家族がマスクをかけていないことには何も感じないのに、街でマスクをかけていない人を見たら意識的に避けてしまわないでしょうか。そして極端に言えば、その人を「敵視」する感情を持たないでしょうか。
サッカーの活動が再開され、練習や試合が始まったとき、私たちはそうした不信感や自分を無害だとアピールする心理とどう付き合っていかなければならないのでしょうか。けっして簡単な問題ではないように思います。
こうしたとき、私たちが思い起こさなければならない言葉、それはやはり「リスペクト」だと思うのです。他人は、「もしかして自分にウイルスをうつすかもしれない人=敵」ではなく、「ともにウイルス禍を乗り越ようとしている人=仲間」だという意識です。
コロナウイルスの脅威から完全に抜け出せていない「新しいライフスタイル」の中で、サッカーの練習や試合も「新しいスタイル」や「新しい習慣」を模索せざるをえません。それが具体的にどうなっていくのか、いま、みんなが手探りしています。
そうした暗中模索の中で、「リスペクト」という言葉、そしてその背景にある「仲間」としての意識を持つことが、小さくない意味を持っていると思うのです。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2020年6月号より転載しています。
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