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相手の好プレーをたたえる ~いつも心にリスペクト Vol.92~
2021年02月16日
Jリーグの最年少出場記録は2004年に森本貴幸がつくった15歳10カ月6日。一方、最年長記録は、もちろん横浜FCの三浦知良(カズ)。今年11月8日のヴィッセル神戸戦に53歳8カ月13日で出場、活躍しました。この記事が読者の目に触れるころには、さらに更新されている可能性大です。
森本は当時まだ中学生でした。一方のカズは、プレーの若々しさは変わらないものの、髪の毛は「ロマンスグレー」。親子以上の年の差の選手たちが「ハンディなし」で競い合っているのが、Jリーグの楽しさでもあります。
さて、長い間、川崎フロンターレのシンボルとして活躍してきた中村憲剛が今季限りでの引退を発表したのは、とても残念でなりません。昨年大けがを負ったものの、今夏に復帰して以来、彼は衰えることのないプレーでチームをけん引しているからです。
その中村が40歳の誕生日を迎えた10月31日のFC東京戦(等々力競技場)で、とてもいいシーンがありました。川崎Fが1-0とリードして迎えた前半のアディショナルタイムのことです。
相手陣でボールを取り戻した川崎Fが左から攻め、三笘薫が突破、戻し気味に中央に送ったボールに、ペナルティーエリアに走り込んできた中村がピタリと合わせました。スライディングしながら右足で合わせたシュートがFC東京ゴールの左上を襲います。しかしわずか10メートルの距離から、しかもボールを止めないワンタッチでの強シュートという難しい状況に、FC東京のGK波多野豪が見事な反応を示しました。ジャンプしながら、右手でボールをゴール上にはじき出したのです。
会心のシュートが決まらず、思わず天を仰ぐ中村。しかし気を取り直すとゆっくりとゴールの方向に歩き、GK波多野に近づいて右手のこぶしを差し出しました。「感染防止」のため、現在のJリーグでは握手や抱擁だけでなく、手のひらを合わせての「ハイタッチ」も禁止されています。中村のこぶしが「ハイタッチ」の意味であることを察した波多野も右手のこぶしを出し、「グーのハイタッチ」が交換されました。
波多野は1998年生まれの22歳。来年の東京オリンピックを目指す期待の若手GKです。FC東京のアカデミーからプロになり、J1デビューは今年8月。10月にベテランGKの林彰洋が故障、前の試合から波多野に出番が回ってきました。
J3での経験は豊富ながら、J1出場は6試合目。「新人」と言っていい22歳のGKの好守を、プロ18シーズン、J1出場463試合目の中村がたたえるシーンは、Jリーグならではの美しさでした。この後、中村はCKを蹴りにコーナーに向かいました。
実はこのシーン、Jリーグの公式放送チャンネル「DAZN」では見ることができませんでした。決定的なチャンスだったため、リプレーが流されていたからです。このシーンをとらえたのは、バックスタンド側2階席、川崎Fが攻めるゴールのコーナーあたりにいたサポーターでした。「JリーグサポChannel」という投稿者名で「YouTube」にアップされた映像に、そのシーンがはっきりと映されています。
普通なら中村のシュートが防がれたシーンで「あ~あ!」とカメラを下げてしまいそうなものですが、その後も中村を追い続けたセンスには脱帽します。「中村憲剛、ナイスセーブを見せた波多野豪へ自ら向かっていきグータッチ、川崎フロンターレのゴール前でのパス回し」と付けられたタイトルも見事です。時間を置かず、試合の当日にアップされたこの動画は、すでに20万回以上も視聴されたと記されています。
サッカー、そしてJリーグの試合には、こうした「リスペクトあふれる行為」がたくさんあるはずです。放送はもちろん、報道にあたる私たちがもっとこういうシーンを感じ取り、川崎サポーターの「ユーチューバー」に負けないよう発信していかなければならないと感じました。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2020年12月号より転載しています。
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