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「3月11日に東北のことを思い出し、自分自身の安全を見直してほしい」東日本大震災から10年~リレーコラム 第6回~
2021年03月22日
東日本大震災から、10年の時がたちました。国内外から多くのサポートが寄せられ復旧が進んだ一方で、復興にはまだ長い道のりが残されています。それぞれの立場で、東日本大震災とこの10年間にどう心を寄せ、歩んできたか。ここではサッカー関係者のエッセイやコラムをお届けします。
第6回は、東北人魂を持つJ選手の会に唯一の女性選手として参加した岩清水梓さんのインタビューをもとに当時を振り返ります。
記憶に残る幼い頃の思い出は、東北を舞台には多くはない。ただ、ルーツは岩手県にある。父の実家である滝沢村(現、滝沢市)に生まれ、母親も隣接する盛岡市の出身。その両親とともに1歳を迎える前に、神奈川県相模原市に移り住んだ。それでも心のどこかに、故郷は滝沢の思いが強い。常に温かく迎えてくれる祖父母がそこに住むからだろう。
2011年3月11日のあの日、なでしこジャパンはアルガルべカップを終えてポルトガルから帰国した。日本代表の一員として参加した岩清水梓の一日は、目まぐるしいものだった。休む間もなく、その足で同じ成田空港の出発ロビーに集合。今度は日テレ・ベレーザ(現、日テレ・東京ヴェルディベレーザ)のメンバーとして韓国での大会に出発した。
日本で大きな地震や津波が起こったことについて知ったのは、韓国に着いてからだった。現地の人が、片言の日本語で伝えてくれた。ただ、にわかには信じられなかった。「何を言っているの。嘘でしょう」というのが正直な思いだった。
神奈川の実家に連絡をし、祖父母との連絡が取れないことを知った。国際電話をかけると幸いにもつながり、安否を確認することができた。日本への帰国は、それから1週間ほど待たなければいけなかった。
何かをしなければならないという思いはあった。ただ、具体的に行動を起こす方法が分からない。そのようなときに、小笠原満男らが立ち上げた東北人魂から「一緒に行かないか」と声がかかった。以後、女性では唯一の協力選手として、被災地で子どもたちとサッカーを通じての交流を行うことになった。
「満男さんに誘ってもらって、本当に良かったです。正直、活動をするにしても当時は私たち女子選手だけではパワーもなかったし、ノウハウもなかった。土台のあるものに乗っからせていただいたことで、すんなりと入り込めた」
当然のことだが、日本の小学生年代のチームでは女の子も男子とともにプレーしている。女性コーチ、岩清水の存在は女の子たちとの距離を縮めるのに大きな役割を果たした。
震災から3カ月後の6月、岩清水はなでしこジャパンの一員として、FIFA女子ワールドカップに参加するためにドイツに旅立った。道中、日本サッカー協会のスタッフから、各国のサッカー協会が日本のために多くの寄付をしてくれたという話を聞かされた。感謝の意を示すために、試合後にチームでメッセージの書かれた横断幕を掲げることが決まった。
なでしこジャパンのメンバーから世界に発せられた感謝のメッセージは、大会の最後まで途切れることはなかった。チームの存在は、決勝の米国戦があまりにも劇的だったことも相まって、瞬く間に世界中に認知された。日本でも国難ともいえる困難な年の、数少ない光明の一つとなった。SNSを通して岩清水には数多くのメッセージが寄せられた。「すごく元気づけられました」。その文面を見て、これまでにない喜びを感じた。
その女の子はどこで会ったかは忘れてしまった。ただ、別れ際に「頑張ってね」と声をかけた記憶はある。以来、7年近くの時を経てうれしい再会があった。その女の子が、ベレーザのアカデミー組織のメニーナのセレクションを、よみうりランドに受けに来たのだ。
「頑張ってサッカーを続けてくれた子が、そうやって高いレベルを目指してくれた。結局、メニーナは受からなかったんですが、ベガルタ仙台(現、マイナビ仙台レディース)のユースに入ったという話を聞きました。自分たちの行ったサッカーの交流が子どもたちにとっては大きな影響力があった。そう思います。一番印象的な出来事ですね」
現在は岩清水も母になり、災害をより意識するようになった。もし災害が起きたときに、どのような準備ができているのか。家族をどのように守るのか。
「3月11日というのは毎年来る。その時に東北のことを思い出し、自分自身の安全を見直してほしい」
災害に対する備え。それだけを意識し続けることは難しい。とはいえ、折に触れて意識することで、未来の結果は変わる可能性がある。(文中敬称略)
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