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[特集]夏に負けない 夏場のコンディショニング 大切なのは「意識づくり」 前編
2021年08月05日
育成年代のトップにあたるアンダーカテゴリー日本代表の選手たちは、夏場の代表キャンプや遠征を通じて、どのように体調を管理しているのか。日本サッカー協会(JFA)のフィジカルフィットネスプロジェクトの菅野淳リーダーと、U-17日本代表とU-15日本代表の小粥智浩フィジカルコーチに話を聞いた。
○オンライン取材日:2021年5月17日
※本記事はJFAnews2021年6月に掲載されたものです
低年齢のときから食事の取り方を考えさせる
――年代別の日本代表が夏場に合宿を行う際、選手たちの体調管理でどのような点に気をつけていらっしゃるのでしょうか。
菅野 代表チームに招集する前に、各クラブのフィジカルコーチ、監督に選手各々のコンディションを細かく聞くようにしています。所属チームで練習があまりできていない状況であれば、代表でもそれに見合った対応をしなければなりません。暑さ対策を施す前に、招集前に各人がしっかり体づくりをしているのかどうかをチェックします。
小粥 どのカテゴリーでも事前にコンディションを把握しておくことが重要になります。私が担当しているU-15年代で言えば、代表招集の直前までテスト勉強で体を動かしていなかったり、修学旅行から帰ってきたばかりなど、学校の事情によって選手のコンディションにばらつきがあります。特に代表活動の初日は各々の事情を考慮した上で、練習量をコントロールするように意識しています。
菅野 選手のコンディションがそろわない中、一律に負荷の高いトレーニングを課すことはまずないですね。
――では、招集した後、選手たちに最初に伝えることは何ですか。
小粥 集合した日の夜に、セルフコンディショニング(自分自身で体の調子を整えること)のレクチャーを行います。内容は、基本的な食事の取り方と水分補給についてです。食事は5大栄養素のバランスを考えて、主食(炭水化物)、おかず(たんぱく質、ミネラル・糖質)、野菜(ビタミン、ミネラル)、果物(ビタミン、炭水化物、糖質)、乳製品(ミネラル、たんぱく質、糖質)を取るように促します。口頭だけの説明ではなく、より分かりやすいように良い食事の取り分け方の例を写真で見せます。
食事の「量」も意識してもらうようにします。気温が高くなると、どうしても体重が増減しやすくなるからです。70kgの選手は 1.4kg以上、60kgの選手は1.2kg以上といった具合に、練習後に体重が2%以上減少すると、ほとんどの場合はパフォーマンスも低下します。体重が減りがちな選手には、練習中から積極的に水分を補給するように伝えますし、食事のときにスープをはじめ消化のよい食べ物を増やすなど、翌朝までに体重を戻せるようにさまざまな働きかけをしています。
菅野 食事とコンディションの回復は密接な関係にあります。コンディションの優れない選手に話を聞いたとき、栄養のバランスが崩れ、食事量もしっかり取れていないことが分かりました。最近は感染予防対策のため、コーチングスタッフと選手の食事会場が離れていて、彼らの食事の様子を見られないこともあるので、そこは気をつけて指導していきたい。特に重要なのが、子どもの頃から食事の取り方に気をつけるように促すことです。選手たちは言われ続けることで、徐々に習慣になっていきますから。
小粥 その通りですね。食育は本当に大事。実際、育成年代で体重が増えない選手は、食事の量が足りないケースがほとんどです。練習の前と後にしっかりと摂取しようという意識が少し低いのかなと。特に意識してほしいのは、トレーニング後や試合後に、なるべく早いタイミングで食事を取ること。年代別代表では、食事の時間から逆算してタイムマネジメントしています。試合後、移動で食事までに時間がかかる場合は必ず「補食」を用意し、すぐに食べられるように配慮しています。補食は、おにぎりやバナナなどでもいいのですが、夏場は衛生上の問題には気をつけながら、消費したエネルギーを補給するために炭水化物、たんぱく質を早く取ったほうがいいでしょう。
菅野 育成年代の選手たちは平日の夕方5時、6時からグラウンドに入ることが多いので、練習前にもエネルギーになる補食を取った方がいいですね。特に夏場で食欲が落ちてしまう選手に対しては、少しでも食べられるものを準備してもらいたいです。
季節を問わず天気予報は常に確認する
――夏場は熱中症予防にも気を使わなければなりません。
菅野 年代別代表でも練習前からペットボトル1本(500mℓ)くらいの水分を取らせるようにしています。事前に体内に水分を溜め込んでおくのです。ただし、一気に飲み干したり、水分を取り過ぎたりするとすぐに尿として排出されてしまうので意味がありません。水分を少しずつ、確実に体内に入れることをお勧めします。水分補給のタイミングは、練習中もセッションの間などにこまめに取ってもらいます。
小粥 年代にかかわらず、水分補給を習慣化させることが不可欠です。代表チームのキャンプでも、体重が減少するような選手には、なるべく早くペットボトル1本分の水分を補給させます。場合によっては、ロッカールームで飲んでから宿舎に帰るように指示することもあります。
――水分補給には何が望ましいのですか。
菅野 適度な塩分と水分が必要ですので、糖濃度があまり高くないスポーツドリンクや経口補水液などが望ましいですね。
――夏場を迎える前でも、熱中症の危険性はありますか。
菅野 湿度の高い日は、汗が出やすいので気をつける必要があります。梅雨の合間の晴れた日、梅雨明け直後の数日間は気温が急上昇しやすいため、特に注意が必要です。人の体は気温の変化に慣れるまでに1~2週間かかると言われています。梅雨晴れの炎天下で長時間にわたって練習するのは避けた方がよいでしょう。涼しい時間帯に練習することも、熱中症対策の一つです。そして、練習中は選手たちを注意深く見ていただきたい。例えば、選手のトレーニングウェアが汗でびしょびしょになっているようだったら、着替えさせた方がいい。熱がこもりやすくなるので、熱中症を引き起こす原因になります。尋常ではない量の汗が出ているときは日陰ですぐに休ませ、水分を取らせましょう。夏場だから意識するというのではなく、天気予報を常にチェックして気温、湿度、日差しを見てもらいたいと思います。
小粥 熱中症予防の温度指標もあります。WBGT(暑さ指数)計を駆使して熱中症のリスクをチェックできるようになっています。この基準値はウェブにも掲載されているので、誰でもアクセスできます。
――キッズ年代では夏場に帽子を被る姿を目にします。
菅野 ある程度、日差しをカットできるので効果的です。可能であれば夏用の通気性が良いメッシュタイプの帽子を選ぶとさらに熱を遮断することができます。一方、ナイロンタイプは熱がこもりやすく逆効果になることもあるので、気をつけてほしいですね。
夏を乗り越えるにはこまめな水分補給が不可欠。
早いうちからその重要性を理解し、ピッチでのパフォーマンスにつなげたい
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