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なぜレフェリーの判定を尊重しなければならないのか ~いつも心にリスペクト Vol.100~

2021年09月29日

なぜレフェリーの判定を尊重しなければならないのか ~いつも心にリスペクト Vol.100~

Jリーグのレフェリーたちが危機に陥っています。自分が応援するチームが負けた腹いせで、SNSにレフェリーへの誹謗(ひぼう)中傷を書き込み、あるいは脅迫し、本人だけにとどまらず、その家族にまで不安を与えているケースが後を絶たないというのです。

匿名性を利用し、自分は隠れた安全なところに居て他人を攻撃する――。こんな卑劣な行為が現代の日本ではびこっているのは、本当に悲しいことです。

しかしレフェリーたちの危機はSNSだけではありません。Jリーグ以外でも、試合をしているチームの監督やコーチ、保護者などからレフェリーに対する暴言が日常的に行われているというのです。

あるユースの試合では、試合後、負けたチームの監督(Jリーグクラブのアカデミーの指導者だったそうです)が、主審にくってかかり、「お前の判定でオレの契約が決まるんだ!」と叫んだという話を聞きました。こんなことを言う指導者に、未来を担う少年たちに指導する資格があるでしょうか。

「あんな下手な判定をされたら、一生懸命に練習してきた選手たちがかわいそうだ」と、主審に詰め寄る監督を見たこともあります。選手の前でそうした言動をすることで、選手たちから「自分たちのことを思ってくれている」とでも思わせたいのでしょうか。

試合観戦の保護者からレフェリーに心無い声がぶつけられることも少なくありません。ルールやレフェリングについての正確な知識がないのに、不利な判定をされると、「オフサイドじゃないだろう!」などと威嚇的に怒鳴るのです。

レフェリーたちにアンケートをとると、大半の人がそうした嫌な思いをした経験があるといいます。ある女性のレフェリーは、男性の監督からあまりにひどい言われ方をした試合の「審判報告書」に、「この試合でレフェリーをやめます」と書いてきたそうです。

レフェリーに暴言を吐いている人々に、ぜひ知ってほしいことがあります。それはどのような経緯でサッカーという競技にレフェリーが生まれたかという話です。

サッカーが始まったころにはレフェリーはいませんでした。当時は「紳士のスポーツ」とされていたので、意図的な反則はないと思われていました。反則があったときには、それぞれのチームのキャプテンがその選手を退場させるなどの措置がとられました。

やがて両チームから1人ずつ「アンパイア」という役割の人が出て、その人が判定をするようになります。しかしそれだと、2人の意見が合わないことがでてきます。そうしたとき、観客席に座っている最も見識のありそうな人に「どっちの判定が正しいですか」と問い合わせるようになりました。

これがレフェリー(主審)の始まりです。問い合わせを受ける人はこの時代の紳士ですから、黒いフロックコートを着て、手にステッキをもっていました。審判服が伝統的に黒なのは、そのためと言われています。やがて彼はピッチ内に入り、全ての判定を下すことになります。「referee」という言葉は、「問い合わせを受ける人」という意味です。

おわかりでしょうか、レフェリーは、試合をするためにお願いしてやってもらっているのです。だからときに不満はあるかもしれませんが、その決定を尊重し、従わなければならないのです。

Jリーグが始まったころ、レフェリーに対する異議や暴言があまりに多かったので、私は「ストライキをやってみたら」と書いたことがあります。当時のレフェリーは全員アマチュアでしたから、生活に困ることはありません。審判をしたかったら、少年の試合でやっていれば楽しく過ごせます。

レフェリーがいなければサッカーはできません。キックオフの笛が吹かれなければ、リオネル・メッシでもゴールを決めることはできないのです。レフェリーとは何か、選手も指導者もファンも選手の保護者も、サッカーに関わる全ての人がしっかり理解し、感謝の気持ちを持ってその判定を受け入れなければなりません。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2021年8月号より転載しています。

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