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1世紀後の兄弟チーム ~いつも心にリスペクト Vol.119~
2023年04月25日
J2リーグの試合前にホームチームの選手とファンがビジターチームを称える拍手を送った話を昨年の11月号で書きました。天皇杯で優勝を飾ったヴァンフォーレ甲府に対する町田ゼルビアの「ガード・オブ・オナー」の話です。
ライバルチーム同士がリスペクトの気持ちを表し合う姿は、本当にすがすがしいものです。今回は、イングランドのプレミアリーグとともに世界で最も競争が激しくレベルの高いリーグと言われるスペインリーグ1部で生まれた「リスペクトの物語」です。
サッカーではホームチームがユニフォームの優先権を持っており、色が重なるなど見づらいときには、ビジターチームが第2ユニフォームを着用することになっています。しかし2月19日にマドリードで行われた「アトレティコ・マドリード対アスレティック・ビルバオ」は異例でした。ともに赤白縦じまのユニフォームで知られている両チーム。なんとビジターがそのユニフォームを着、ホームのアトレティコは全身オレンジ色の「第3ユニフォーム」で試合に臨んだのです。創立125周年を迎えたアスレティック・ビルバオに敬意を表したものでした。
スペイン北部、バスク地方の中心都市ビルバオはスペインで最も早くサッカーが入った町です。イギリスから鉱業技師がたくさんきていたことで、そのイギリス人たちの間でサッカーが行われ、地元の学生たちも加わってサッカー熱が高まりました。そして1898年に誕生したのが「アスレティック・クラブ」でした。英語でクラブ名がつけられたところに、このクラブの原点が示されています。
その赤白縦じまのユニフォームは、イングランドのサンダーランド・クラブからもらったものだとも、サウサンプトン・クラブに由来するものだとも言われています。いずれにしろ、イングランドの影響が色濃く残るクラブです。
そして首都マドリードの「アトレティコ」は、ビルバオのアスレティック・クラブのサポーターだった3人のバスク人学生が、アスレティックの「支部」として1903年に設立したものです。4年後に独立したクラブとなり、名称もスペイン語に変えました。しかし独立後も、両クラブは「兄弟クラブ」という非常に珍しい関係を続け、今日に至っています。両チームのユニフォームやクラブエンブレムが似ていることには、そうした経緯があります。
「兄」のアスレティック・ビルバオは1929年のスペインリーグ創設以来1部リーグから降格したことがなく、優勝8回を誇っています。降格がないのは、他にレアル・マドリードとFCバルセロナの二つだけということからも、アスレティックがいかに成功したクラブかわかるでしょう。
一方、「弟」のアトレティコ・マドリードも、リーグ優勝11回と「兄」をしのぎ、欧州でも屈指の強豪クラブの地位を築いています。
今年は「兄」のアスレティックの創立125周年という記念の年。その「兄」を迎える年に一度のホームゲームで、「弟」のアトレティコが用意したのが、「ユニフォーム権の譲渡」とでもいうべきものでした。両クラブのエンブレムをつけた赤白のマフラーが飛ぶように売れ、試合前には両チームが仲良く記念撮影。「兄弟クラブ」の対戦らしい和やかな空気になりました。
しかし試合はまったく別物。「兄弟」とはいえ現在は同じリーグで争うプロ同士の対戦です。共に上位に残るための重要な一戦でした。見事な攻撃と見事なGKのセーブの応酬で、激しく白熱したものになりましたが、最後はアトレティコのフランス代表MFグリーズマンが素晴らしい突破からシュートを決め、ホームクラブに貴重な勝利をもたらしました。
同じリーグに所属する相手は「ライバル」であり、競争相手です。しかしそれは試合のなかだけのことであり、普段は互いに切磋琢磨して高め合っていく「仲間」にほかなりません。「兄弟クラブ」とはいかなくても、ライバルたちが互いへのリスペクトを示し合うのは、外から見ていても気持ちの良いものですね。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2023年3月号より転載しています。
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