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FIFAセーフガーディング・レジデンシャル・ワークショップに参加 ~サッカーの活動における暴力根絶に向けてVol.114~
2023年07月21日
子どもたちの未来のためのセーフガーディング
国際サッカー連盟(FIFA)のジャンニ・インファンティーノ会長がFIFAコングレスでも強調しているように、FIFAは青少年のサッカー環境をより良いものとすべく、「セーフガーディング」の考え方を取り入れ、広く各国の協会・連盟で推進することを強く求めている。
具体的には、FIFAフォワードの推進プログラムの一つとして、各国の協会・連盟や各大陸連盟はセーフガーディングをその施策の一つに組み入れなければならないとし、2019年7月に「FIFAセーフガーディアンズ」というツールキットを発表した。各国の協会・連盟はそれに則って「セーフガーディングポリシー」を策定し、ポリシーに基づくアクションプランにより、セーフガーディングを推進していくことになる。日本サッカー協会(JFA)としても、これまでのリスペクトプロジェクトによるサッカー環境の整備に加え、「JFAセーフガーディングポリシー」を2021年11月18日に発表し、さまざまなセーフガーディングを推進している。
さらに、FIFAはセーフガーディングの適切かつ確実な推進のために、2021年1月に2年間のFIFAガーディアンズ・スポーツ・ディプロマ(履修コース)を立ち上げた。そして2023年3月、コース参加者の合宿研修(レジデンシャル・ワークショップ)をイングランドとフランスで開催した。
イングランドでの研修には、英語圏から68人が参加(フランスでの研修にはフランス語・スペイン語圏から28人が参加)。アジアサッカー連盟(AFC)からは、イングランドでの研修に18人が参加した。AFCは、事務局内にセーフガーディング担当者を任命(このコースにも参加)しており、47の加盟国のうち、44カ国がセーフガーディング担当者を設置している。
今回のワークショップは、3月6日~10日の日程で、初日を除いてイングランドサッカー協会(The FA)のナショナルトレーニングセンターである“雪降る”セント・ジョージズ・パークで開催された。参加者の全ては、FIFAガーディアンズ・スポーツ・ディプロマを受講しており、セーフガーディングに関する知見はそれなりに備えているが、初日はトッテナム・ホットスパー・スタジアムの会議室で、The FAの担当者によるセーフガーディング導入の背景や歴史についての講義を受講。セーフガーディングの必要性、普及の重要性について、再確認することから始まった。ちなみに、受講後に立ち寄ったスタジアムショップには、トッテナム・ホットスパーFCの女子チームに所属するなでしこジャパン(日本女子代表)の岩渕真奈選手の20番のユニフォームが飾られており、とてもうれしく感じた。
セーフガーディングという言葉は、まだ聞き慣れないのかもしれない。対象は、弱者である。大人の弱者も対象だが、世の中では(18歳未満の)子どもたちが一番の対象。いかにして子どもたちを守るのか。それは、虐待(性的虐待も含む)、ハラスメント、ネグレクト、グルーミング、いじめなどの形態や、どのように行われているのかの把握や予防、また発生している可能性のある時点での対応、発生したときの処理など多岐にわたる。そして、セーフガーディングを担当するセーフガーディング・オフィサーは、クラブ、協会・連盟などの組織で、これらに関する担当者として、実態の把握や予防、初期対応にあたることになる。日本ではウェルフェアオフィサーがこの職務を担えるということになるのだろう。
2日目からは、セーフガーディング・オフィサーの役割について確認した。組織の誰もがセーフガーディングというものを知り(特に外からの電話を受ける人たち)、何か火種があったならば、組織の誰もが報告などの初期対応をできることの需要性について、また発生時の対応や事後処理について、ケーススタディを中心にグループワークを行った。グループワークは、ロールプレーイングとディスカッションで、よりリアリティある対応を引き出すことができた。
重要なのは、転ばぬ先の杖、火種が見つかったときの初期対応である。それをリードするセーフガーディング・オフィサーが、いかに重要性であるかをあらためて感じた。加えて、さまざまなリアリティある情報の活用、例えば虐待を受けたことのある選手(トッテナム・ホットスパーFCの選手だった)の経験談はとてもインパクトがあり、多くのことを感じることができた。また、チルドレンセンタード(「子どもたちを大切に思うことから物事を始めよう」というもので、JFAのプレーヤーズファーストの考え方に近い)を実践しているソールズベリー・シティFCなど、セーフガーディングの考えを主柱に置くチームの具体的な活動発表もなかなか興味深かった。
最後に、参加者によるネットワーク構築を約束してワークショップは修了した。世界のどこでも、同じサッカー仲間がセーフガーディングの重要性を認識し、未来のある子どもたちのために協働していけることのすばらしさを感じることができ、とても良い経験であった。ぜひ日本でも、リスペクトプロジェクトの一環として、広く普及・推進できればと思う。
JFAセーフガーディングポリシーの詳細は下記参照
https://www.jfa.jp/respect/safe_guarding.html
【報告者】松崎康弘(JFAリスペクト・フェアプレー委員)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会『テクニカルニュース』2023年3月号より転載しています。
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