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vol.003「RESPECT EACH OTHER」 Jリーグ大東和美チェアマン

2012年05月29日

 私は、学生時代はラグビーをやっていました。土にまみれ泥臭く熱い青春を過ごしたあと、プレーヤー引退後に監督として後輩の指導にあたり、その後、縁あってJリーグ鹿島アントラーズの社長となり、サッカー界に携わることとなりました。アントラーズ時代には、Jリーグチャンピオンというすばらしい経験もさせてもらいました。現在はJリーグのチェアマンとして、日本のサッカー界の発展のために、またサッカーを通じて多くの人々が豊かになる社会をつくるために、Jリーグを支える多くの方々とともに、力を注いでいます。

 選手、指導者、経営者と様々な立場でスポーツと接してきましたが、常々感じてきたのは、リスペクトはスポーツの原点であるということです。リスペクトなくしては、スポーツ競技は成り立たちません。スポーツでは一瞬の動きや判断がゲームを左右します。人間の持っている本性=闘争心を、スポーツという勝負の中で露わにし、それをどのようにコントロールしていくべきか、それこそがスポーツの究極の原点だと思います。闘争心を失うとゲームはつまらないものになりますし、コントロールを失うと相手を傷つけかねません。原点を間違えてしまうと、競技にならないのです。人間の本性をコントロールする術を身につけることが、スポーツを通じて人を育てる意味、目標であり、そのために必要なものが、リスペクトの精神=大切に思うこと であると思います。リスペクトできる選手はプレーに現れ、相手に伝わり、自らもリスペクトされます。そして、人間としてより成長することができるのだと思うのです。

 その意味でスポーツは、人間の自己コントロールの修行の場であるともいえます。スポーツの楽しみは、遊びではなく、それが知性的な行動であって、それらを積み重ねてある目標に向かっていき、それを達成することで感動や喜びがうまれる、そのプロセスにあるのではないでしょうか。選手だけではありません。指導者、審判、ファン・サポーターも、スポーツに携わる者はみな、掻き立てられる闘争心をコントロールしゲームに臨みます。スポーツは、生きた人間が、役割をもって、試合という一つの舞台を作り上げる、その営みともいえると思います。営みの中では、ミスもあれば、うまくいくこともあります。そこで、リスペクトの精神が、一つの舞台をつくりあげる大切な要素となります。選手、指導者、審判、ファン・サポーター―それぞれの役割を最大限引き出してこそ、素晴らしい舞台になります。だからこそ、それぞれの立場を理解し、尊重する、リスペクトの精神が求められるのではないでしょうか。

 先日、Jリーグの試合ですばらしい出来事がありました。ある1人の小学校の先生が、J2で戦うモンテディオ山形というクラブが大好きで、学校行事として企画されて生徒300名を連れてモンテディオ山形の応援にかけつけられたそうです。生徒さんは今日の試合のために、一生懸命応援の練習をして集まり、試合中、選手たちに見事な声援を送り続けました。その様子に心を動かされたゴール裏のサポーターが、普段はオリジナルのチャントなどで応援をリードするのですが、小学生の応援に乗って一緒に声援を送られたそうです。そして最終的には、会場中が一体となり大声援となったそうです。サポーター同士のリスペクトが、その空間に一体感を作り出したすばらしい出来事だと感じました。

 Jリーグでは、今シーズン「+Quality(プラスクオリティ)プロジェクト」という取り組みをスタートしました。この取り組みを通して、Jリーグは、試合を観に来てくださるファン・サポーターが賛同しないプレーや行為をなくし、お客様の心を動かすプレー、記憶に残るサッカーを提供することを目指します。それらの実現のためには、心を揺さぶる「熱さ」の源となる闘争心と、スポーツの「一体感」を生み出すリスペクトの精神が不可欠です。Jリーグはこれからも、リスペクトF.C.JAPANを通じ、多くの方にリスペクトの重要性とその先にあるスポーツの可能性を伝えていきたいと思います。(了)

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