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浦和は「敗者」ではなかった ~いつも心にリスペクト Vol.81~

2020年02月26日

浦和は「敗者」ではなかった ~いつも心にリスペクト Vol.81~

日本のサッカーにとって、2019年はアジアを舞台にした大会で喜びきれなかった1年だったような気がします。

年初にアラブ首長国連邦(UAE)で行われたAFCアジアカップでは5回目の決勝進出で初めて敗れて準優勝。そして11月に決勝戦が行われたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)でも、決勝進出3回目の浦和レッズがサウジアラビアのアルヒラルに屈し、やはり準優勝に終わりました。

浦和はアウェイで0-1、ホームで0-2。チャンスらしいチャンスの数も少なく、完敗と言っ ていい内容でした。しかし私は、試合後の選手たちの態度を見て、誇らしいものを感じました。

もう12年も前の出来事ですが、私には忘れられないシーンがあります。2007年のACL決勝第2戦、浦和レッズ対セパハン。このときには、初出場で決勝に進出した浦和がアウェイを1-1でしのぎ、ホームでは2-0の勝利をつかんで見事優勝を飾りました。

6万人近くのサポーターで埋まった埼玉スタジアム2002のスタンドが喜び一色に染まり、やがて浦和の鈴木啓太主将が優勝カップを受け取ってサポーターに掲げ、金色の紙吹雪が勢いよく吹き上げられて宙に舞うと、歓喜は最高潮に達しました。

そのときセパハンの選手たちがどうしていたか、気に留めた人は多くはなかったでしょう。私も、後に写真を見て知ったのですが、何と、セパハンの全選手が浦和の選手たちに向かって横一列に並び、拍手をしていたのです。

これほど見事な「敗者」は後にも先にも見たことがありません。いや、彼らの姿には、「敗者」という言葉さえフィットしないと感じました。「ファイナリスト(決勝進出者)」という呼び名がふさわしいように感じたのです。

セパハンの選手たちが悔しくなかったはずはありません。しかしそれ以上に、彼らは全力を出し尽くした自分たち自身を認め、堂々と結果を受け入れていたのです。いわば、「セルフ・リスペクト」の心が、このような態度につながったに違いありません。

さて2019年2月1日のアジアカップ決勝。私は優勝したカタールの選手たちがカップを受け取るとき、日本選手たちがどんな態度を取るか興味がありました。最多の4回優勝を誇る日本。初優勝のカタールを拍手で称えたら素晴らしいなと思っていたのです。

しかし準優勝表彰が終わると、アジアサッカー連盟(AFC)の役員が先導してさっさと更衣室に引き揚げさせてしまったのです。カタールの表彰が始まったのはその後のことでした。

その前年にロシアで行われたワールドカップでも、国際サッカー連盟(FIFA)の役員は準優勝の表彰が終わるとクロアチアの選手たちをさっさと更衣室に引き上げさせてしまいました。クロアチアの選手たちなら、きっと素晴らしい態度を取ると思ったのですが…。

しかし昨年11月のAFC決勝では、浦和の選手たちは全員がピッチ上に残り、アルヒラルの表彰式を最後まで見守りました。そしてアルヒラルの主将がカップを掲げると、槙野智章選手、柏木陽介選手、ファブリシオ選手ら、何人もの選手たちは拍手で相手を祝福したのです。他の選手たちも準優勝のメダルを首から下げたまま、しっかりと顔を上げ、表彰式を見守っていました。浦和は決して「敗者」などではありませんでした。彼らは、実に堂々たる「ファイナリスト」でした。

いまやワールドカップに匹敵する最高クラスの大会とされるUEFAチャンピオンズリーグの決勝でも、決勝戦で敗れたチームの選手たちがすぐさま受け取ったメダルを外してしまうシーンをしばしば目にします。悔しい、負けを認めたくない…。そんな子どもっぽい態度を、世界最高レベルの選手たちも見せるのです。

結果が出たら胸を張ってそれを受け入れ、自らへの誇りを失わずに勝者を讃える―。そうした「セルフ・リスペクト」の態度こそ、次に向かう最大の原動力になります。結果を受け入れられない者には、次の試合の勝利もありません。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2019年1月号より転載しています。

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