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多様性が進む社会でのサッカーの役割 ~いつも心にリスペクト Vol.83~
2020年04月28日
非常に下手くそな選手でしたが、私は30代半ばまでかなり一生懸命にプレーしていました。東京のクラブチームに所属し、都の社会人リーグだけでなくIFFL(インターナショナル・フレンドシップ・フットボール・リーグ)というリーグにも参加し、東京に住む外国人のチームとの試合を楽しんでいたのです。
1980年代の前半のことです。東京でも、現在のように当たり前のように外国人の姿を見かけるような時代ではありませんでしたが、それでも仕事で駐在している人が多く、「定期的にサッカーの試合をしたい」という希望を受けて、ベトナム人とフランス人の血を引き、日本で建築士の仕事をしている人が音頭を取ってこのリーグを結成したのです。私のチームは日本人だけの団体でしたが、「いっしょにやろう」という呼び掛けに応えて参加することにしたのです。
イギリス人を中心としたチーム、アフリカ人のチーム、スペイン人のチームなど、さまざまな国の人びとと試合をするのは、とても楽しい経験でした。時には激しいぶつかり合いもありましたが、終了のホイッスルが吹かれると何ごともなかったかのようににこやかに握手を求めてくる姿に、「ノーサイド」という言葉を思い起こしました。さまざまな国籍、大きく違う文化的な背景を持つ人々が、出会ったその日に試合を楽しむことができるのは、まさにサッカーの力だと感じました。
「サッカーは世界の言葉(ユニバーサル・ランゲージ)」というフレーズは、長く国際サッカー連盟(FIFA)の会長を務めたジョアン・アベランジェさんが好んで使った言葉です。21世紀も中盤にさしかかろうという今、サッカーは世界中の男性だけでなく、女性も、少年少女も、障がいを持った人々も、ありとあらゆる人が楽しむスポーツとなり、ますます「ユニバーサル(普遍的)」な存在となりつつあります。
こうした時代を受けて、人々をサッカーで結びつけようという動きを始めたのが、欧州サッカー連盟(UEFA)です。2008年にスタートした「リスペクト・プログラム」では、何年間か『人種差別にノー』のキャンペーンを展開してきましたが、2017年からは「平等な競技」という新しいメッセージの下に欧州のサッカーを統括する組織としての社会的責任を果たそうとしています。
21世紀の欧州は、移民、難民だけでなく国際的な交流が加速され、まさに多様性の時代になりつつあります。そしてそれが社会に摩擦を生み、対立や差別を助長する傾向も顕著になりつつあります。
「誰でも、どこの出身でも、どのようにプレーしても、ピッチでは、私たちは皆平等です」
「#EQUAL GAME」と名づけられたUEFAのサイトでは、数多くのスター選手と共に、障がいのある選手、少年少女、そしてシニア選手など、さまざまな人が自分にとってのサッカーとは何かを語っています。
メッセージはさまざまです。しかしその底には「みんながサッカーでつながっている」という感覚があります。ワールドカップの決勝戦でプレーした選手も、2本の杖を支えに片足でシュートを放つ元兵士も、みんながサッカーを楽しむ仲間なのです。
私が外国人チームとのサッカーを楽しんでいた時代と比較すると、近年は、東京だけでなく日本中で外国人の姿を当たり前のように目にする時代になっています。
日本サッカー協会は1979年に女子チームの登録をスタートし、2016年には障がい者のサッカーを仲間に加えました。しかし外国人についてまだ制限があります。「外国籍選手が6人以上所属するチーム」は、原則として「準加盟チーム」となり、一部競技会への出場が制限されているのです。
「リスペクト」とは、「違い」があってもそれを認め、仲間として一緒に楽しもうということではないでしょうか。日本の社会も、数十年のうちに欧州と同じような国際化が進むでしょう。日本に住む誰もが平等にサッカーを楽しめる時代の実現が望まれています。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2020年3月号より転載しています。
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