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勝敗よりも試合の態度 ~いつも心にリスペクト Vol.95~
2021年05月24日
学生時代、少年サッカーチームの指導をすることになったとき、初めて活動に参加したのは、たまたま練習試合の日でした。
チームを引き受けることになったものの、内情はほとんど知らずに集合場所に行くと、集まったのはわずか7人。試合前、私たちの状況を見た相手チームの監督が「貸そうか」と言ってくれました。相手は20人以上います。足りない4人を貸してくれるというのです。
しかし私は、お礼を言って断りました。そして7人の少年たちに、得意な役割を聞いてポジションを割り振り、こう話しました。「これはきみたちの試合だ。人数が足りなくても、きみたちだけで乗り切らなければならない。何点取られてもかまわない。試合終了の笛が鳴るまで全力を尽くせ」
4年生ばかりの相手チームに対し、3年生も数人含む7人の少年たちは、信じ難い頑張りを見せてくれました。試合は0-7の大敗でしたが、最後まで投げやりにならなかったこと、点を取られてもすぐに取り返そうと攻撃をかけたことを私はほめました。
私自身、その日の少年たちからたくさんのものを学びました。そして、この少年たちが少しでも楽しくサッカーを続けていけるよう、自分も頑張らなければならないと思ったのです。少年たちの顔を見ると、負けた悔しさではなく、晴れ晴れとした表情をしていたのを、いまでも覚えています。
さて、つい最近、私が監督をしている女子チームが20-0というスコアで勝つという試合がありました。相手は今年結成されたばかりのチームで、高校生が中心のようでしたが、キックオフから1分もしないうちに先制点が決まると、あとは堰をきったかのようにゴールが決まり、途中から何点入ったのか、数えることもできなくなるほどでした。
それでも私はテクニカルエリアの一番前に立ち、声をかけ続けました。しかし途中からは、チームの中からの声が増え、集中しよう、切り替えを速くしよう、押し上げよう、相手ボールに行く人をはっきりさせよう、声をかけ合おうと互いに注意し合うようになったので、私はあまり言うことがなくなりました。
後半、相手は守備を大幅に改善し、私たちのチームのゴールに迫って惜しいシュートも放ちました。結果は前半15点、後半5点で20-0。近年にないスコアでした。
しかし、何より感心したのは相手チームの態度です。何点取られてもくじけず、みんなで声をかけ合いながら次のプレー、次のプレーに集中していたのです。チームとしては誕生したばかりでも、個々のプレーヤーを見るとキックなどもしっかりしており、すぐに強くなるだろうと思いましたが、それ以上に、どんなに難しい状況でも力を合わせて立ち向かっていこうという姿勢がありました。相手チームの監督と「グー」であいさつをしながら、「また試合をしましょう」と、私は話しました。
そして私のチームの選手たちにも、「素晴らしい態度だった」とほめました。
大差がついたとき、気をゆるめずにやるべきことを貫くのは、決して簡単ではありません。何点か取った後に、一時、一人でプレーしようというプレーが続いたときがありましたが、すかさずチーム内から「球離れを早くしよう。チームでプレーしよう」という声がかかり、すぐに修正されました。
最初に少年チームの指導をした日から50年、私は、またプレーヤーたちから教えられる思いがしました。相手チームのプレーヤーや監督がどう感じたのかはわかりません。しかし私は、スコアや勝敗などに関係なく、とても気持ちの良い試合だと感じたのです。
私のチームのプレーヤーたちは、何点取っても真剣に次のゴールを狙いにいきました。相手チームも、なんとか1点を取ろうと前向きな姿勢を崩しませんでした。結果にとらわれず、いつも両チームがこういう態度で試合ができれば、その試合はきっと成長につながるはずです。そして「リスペクト」の素晴らしいお手本になるのではないかとさえ、思ったのです。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2021年3月号より転載しています。
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