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ガード・オブ・オナー ~いつも心にリスペクト Vol.115~

2022年12月21日

ガード・オブ・オナー ~いつも心にリスペクト Vol.115~

J1からJ3まで、1シーズンで1000を超すJリーグの試合の中でも、今季最も美しいシーンなのではないか――。そこまで感じたのが、10月19日、東京都町田市の町田GIONスタジアムで行われたJ2リーグ「FC町田ゼルビア対ヴァンフォーレ甲府(第41節)」の試合前の入場セレモニーでした。

通常、Jリーグの試合では、4人の審判員を先頭に両チームがそろって入場するのですが、この試合ではまず審判員が入場し、続いて長いコート姿の町田の選手たちがぞろぞろと出てきて、まるで花嫁・花婿を迎えるように、入場路の両側に並んだのです。

何が起こるのかと思っていたら、音楽が止まり、こんな場内アナウンスが流れました。

「ヴァンフォーレ甲府の皆さん、ヴァンフォーレ甲府のサポーターの皆さん、そしてヴァンフォーレ甲府に関わる全ての皆さん、第102回天皇杯優勝おめでとうございます」

「これは、天皇杯優勝を遂げたヴァンフォーレ甲府に対して敬意を表するものです。FC町田ゼルビアより、優勝の栄誉を称え、盛大な拍手でヴァンフォーレ甲府の選手を迎えましょう。皆さん、大きな拍手をお願いします」

再び音楽が流れ、この試合でキャプテンを務めた野澤英之選手を先頭に白いユニフォーム姿の甲府の選手たちが1列で入場します。拍手で迎える町田の選手たち。冷え込んだ水曜日の夜の試合で入場者はそう多くはありませんでしたが、観客席からも惜しみない拍手が送られました。

笑顔の選手たち、ちょっと照れたような選手たち。天皇杯決勝のヒーローとなった甲府のGK河田晃兵選手は相手選手とハイタッチをかわし、町田のGK福井光輝選手に肩を叩かれてうれしそうな表情を浮かべます。そしてブラジル人FWウィリアンリラ選手は、まるで日本人のように軽くおじぎをしながら、町田の選手たちの間を歩きました。

こうした相手チームによるお祝いセレモニーは、欧州のサッカーではときどき見られるもののようです。「ガード・オブ・オナー」と呼ばれ、時には「不倶戴天」のライバル間でも行われます。レアル・マドリードの優勝を祝福したFCバルセロナの選手たち。チェルシーに拍手を送ったマンチェスター・ユナイテッドの選手たち...。シーズン終盤の美しいシーンとして語り伝えられてきました。

2020年と2021年のJ1で優勝を決めた直後の川崎フロンターレを祝福した清水エスパルスとサガン鳥栖の前例がありますが、天皇杯優勝チームに対するものは初めてでした。

この試合のわずか3日前の10月16日日曜日、甲府はJ1上位のサンフレッチェ広島と天皇杯 JFA 第102回全日本サッカー選手権大会の決勝を戦い、延長まで120分間戦って1-1。PK戦5-4で初優勝を飾りました。この試合前までJ2リーグでは7連敗、22チーム中18位という甲府でしたが、決勝はJ1とJ2という違いを忘れさせるような堂々たる戦いぶりで、特に左CKからつないで取った前半26分の先制点は見事なプレーでした。甲府の奮闘は、J2のクラブにとって大きな勇気づけになったはずです。19日の試合前の感動的なセレモニーを町田が企画し、選手たちが喜んで協力して実施できた背景には、甲府に対する祝福の気持ちだけでなく、感謝の気持ちも含まれていたかもしれません。

もちろん、試合はまったく別です。前半の終盤に先制を許した町田は、後半、MF太田修介選手を中心に猛攻を掛け、終了5分前にFW鄭大世選手のゴールで同点。しかし甲府も「カップウィナー」のプライドで最後の猛攻を掛け、アディショナルタイムにウィリアンリラ選手が頭で決めて実に2カ月ぶりの勝利を収めます。

この試合は町田にとって今季のホーム最終戦で、試合後にはサポーターに感謝を伝えるセレモニーが行われました。残念ながら敗戦の後でしたが、サポーターからは大きな拍手が送られました。それはもしかしたら、この日、町田ゼルビアというクラブが示した本物の「リスペクト」の精神に、サポーターたちが勝敗や順位を超えた誇りを感じたためかもしれません。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2022年11月号より転載しています。

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