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他国のサッカー文化にリスペクトを ~いつも心にリスペクト Vol.151~
2025年12月23日

マイアミでのスペインリーグは中止――。10月21日、スペインのリーグ当局がそう発表しました。
リーグ1部に属するビジャレアルとFCバルセロナから出されていた試合のアメリカ開催の申請は、8月にスペインサッカー協会が承認し、10月には欧州サッカー連盟(UEFA)がこの試合とともにイタリアから出されていた「ACミラン×コモ」のオーストラリアでの開催も認めました。
12月の「ビジャレアル×バルセロナ」の試合会場をアメリカのマイアミに移すという計画が明らかになって以来、各方面から激しい反発が起きていました。
中でも、楽しみにしていた「ホームゲーム」のひとつを奪われるビジャレアルのサポーターは、「危険な前例をつくり、クラブのルーツを奪う」と、絶対反対を表明しました。これに応じて、スペインや欧州のサポーターズクラブ連合は、「スポーツをクラブの伝統やコミュニティーから切り離された娯楽商品に成り下がらせる」と厳しい意見を発表しました。
サポーターだけではありません。他のクラブや監督、選手たちも、一斉に反対であることを表明しました。UEFA承認後の10月中旬には、スペイン1部の全試合で抗議行動が行われました。主審のキックオフの笛が吹かれてから15秒間、すべての選手が動くことをやめ、立ち続けたのです。
こうした反応を見て、スペインリーグはアメリカ側のプロモーターと話し合い、試合を本来の日程通り、12月21日にビジャレアルで行うことを発表したのです。
世界のサッカーを統括する国際サッカー連盟(FIFA)には、「国内リーグの試合は自国のサッカー協会の管轄区域内で開催する」という規則があります。しかし今回のマイアミでの試合を企画したプロモーターがその規則に対して訴訟を起こし、昨年4月に和解に達したことから、規則をタテに外国での試合を禁止することは難しくなっているといわれています。
ではなぜ、このような試合が計画されるのでしょうか。それは、スペインやイタリアのリーグが、イングランドのプレミアリーグのような収益を挙げることを目指しているからです。
プレミアリーグは世界中からトップスターを集め、その力で世界中に放映権を売り、そこから生まれる収益でまたスターを集めるという「循環」の中で、圧倒的な資金力を持っています。それに対抗するには、スペインやイタリアのリーグ戦を他地域で開催し、人気を高めて収益を増やさなければならないという意図なのです。
欧州の「サッカー市場」はすでに飽和状態にあり、成長のためには、北米、オーストラリア、そしてアジアといった、購買力のある「新市場」を開拓するしかありません。
今回のスペインの計画はサポーターや選手たちの激しい反対で撤回されました。しかし「新市場開拓」の動きが止まるはずがなく、今後数年間のうちに欧州の主要リーグの試合がアメリカや中国、そして日本といった国々で定期的に開催される可能性は十分あります。
それを喜ぶファンもいるかもしれません。しかしその結果、各国のサッカー文化の最も重要な牽引車である地元の「プロリーグ」は苦境に立たされるでしょう。
この状況は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて欧米の列強が自国の利益だけを求めて世界を植民地支配した「帝国主義」と非常によく似ています。植民地は搾取されるだけで、住民やその文化へのリスペクトなどない状態でした。
アメリカのサッカー界には、アメリカのプロリーグを育て、サッカー文化を根づかせ豊かにする活動目標があるはずです。アメリカのサッカーファンを搾取の対象とする欧州サッカーの進出を許すことは、「自由な経済活動」とはいえ、その目標達成を妨げます。許されるべきではないと、私は思います。
サッカーは世界のスポーツであり、世界的な交流はその重要な要素です。しかしそこに他国のサッカー文化をリスペクトして保護するという基本的な姿勢がなければ、それが人々の幸福につながるとは思えないのです。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2025年11月号より転載しています。
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