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大きなアクシデントの中で相手を思いやる ~いつも心にリスペクト Vol.152~

2026年01月22日

大きなアクシデントの中で相手を思いやる ~いつも心にリスペクト Vol.152~

「フランシス選手が順調に回復して、再びフットボーラーとして充実した時間を過ごせるよう、リハビリが進むことを願っています」

11月14日に豊田スタジアムで開催されたガーナとのキリンチャレンジカップ後、日本代表の森保一監督はそんな話をしました。

この試合の後半6分、ガーナGKのキックを日本がはね返したのを最前線で受けたFW上田綺世選手が落とすと、受けたMF田中碧選手が前進、ペナルティーエリア手前からシュートを狙いました。このシュートを阻止しようと、背後からガーナMFフランシス・アブ選手が右足を出します。しかしボールには触れられず、強いシュートを放とうと振った田中選手の右足がフランシス選手の右足首あたりを強打してしまったのです。

オーストラリアのベンジャミン・エイブラハム主審は田中選手のファウルと判定しましたが、フランシス選手のファウルと言ってもいい場面でした。しかしそれは大きな問題ではありません。

すぐそばに寄った日本のMF南野拓実選手が、第4の審判員の傳明氏(中国)に「タンカ!」と叫びます。倒れたフランシス選手のけがが重大であることは明らかでした。

上田選手が心配そうにしゃがみ込み、声をかけます。フランシス選手は、2022/23シーズンに上田選手がベルギーの「セルクル・ブルージュ」でプレーしていたときのチームメートで、非常に仲の良い友人だったからです。

そしてそのそばでは、田中選手が茫然と立っています。不可避だったとはいえ、相手選手に大きなけがをさせてしまったことに大きなショックを受けているようでした。その様子を見て、谷口彰悟選手や上田選手が肩をたたいて励まします。驚くべきことですが、ガーナの選手たちも田中選手を励ましているように見えました。

「交代のときに田中選手がガーナのベンチに行きましたが、どんなやりとりがあったのですか」

試合後の記者会見で、ガーナ代表のオットー・アッド監督にこんな質問をしたのは、WEBニュース『サッカーキング』の小松春生さんでした。うかつなことに私は見逃していたのですが、アクシデントから15分ほどして交代になったとき、田中選手は退出して日本のベンチに戻る前にガーナのベンチに行ったのだそうです。

「彼はわざわざ謝りにきてくれた。当たり前のことではない。感謝している。日本という国が、教育やしつけがいかにしっかりしているかということを感じさせた」

会見の冒頭、フランシス選手のけがに大きなショックを受けていると話したアッド監督でしたが、田中選手が悪質なプレーをしたわけではないことは十分理解し、また、ベンチまで謝りにきてくれたことに感銘を受けたと語りました。

フランシス選手はすぐに豊田市内の病院に搬送され、翌日に手術を受けました。手術は成功しましたが、残念ながら2本の骨が折れており、現在の所属クラブであるフランスのトゥールーズは「彼にとって今シーズンは終わった」と発表しました。

フランシス・アブ選手は2001年ガーナの首都アッカ生まれ、24歳の有望選手です。2018年にはJリーグの国際ユース大会で来日してガーナのクラブを優勝に導き、最優秀選手にも選ばれました。その日本で、今度は来年のワールドカップ出場まで危ぶまれる大けがを負ったことは、無念だったに違いありません。

残念ながら、サッカーでは時折、こうした大きなアクシデントが起きてしまいます。アッド監督自身、3回にわたる大けがで選手生命を縮めた人で、フランシス選手の胸中が十分過ぎるほど分かったのでしょう。しかし田中選手がとったこの行動は、フランシス選手だけでなく、アッド監督やガーナの選手たちの心を癒やしました。そして田中選手は自身のSNSで「ガーナの選手や監督たちの優しさに、僕自身も救われた。感謝したいです」と書きました。

誰にとっても不運で不幸な出来事でしたが、そのさなかに相手を思いやる心があふれていたのは、大きな救いであり、慰めでした。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2025年12月号より転載しています。

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