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レフェリーに向き合え ~いつも心にリスペクトVol.14~
2014年06月30日
パスを受けようとする選手に後ろから激しく迫り、猛烈なタックル。だがボールをとらえられず、タックルを受けた選手が倒れる。レフェリーが強い調子で笛を吹く。当然イエローカードだ。だが反則を犯した選手を見ると、知らん顔で背を向け、さっさと自分のゴールのほうに戻っていく。
Jリーグでは毎試合と言っていいほどよく見かけるシーンだ。こうしたシーンを見ると、「子どもだな」と思う。
プロのサッカー選手なら、どんなに試合に熱中していても、自分が犯したファウルが「イエローカードもの」かどうかの見当はつく。カードを出されてから「なぜ?」という顔をする選手もいるが、多くの場合は恥ずかしさをごまかすための演技にすぎない。相手チームの選手がファウルをしたときにだけイエローカードとわかり、自分のファウルではわからないということなどありえない。
知らん顔をするだけではない。Jリーグではサポーターの歌声など喧噪のなかでの試合だから、レフェリーが呼び止めても、ときには笛を吹いて振り返らせようとしても、聞こえないふりをして離れていく選手が驚くほど多い。
その結果、あまり時間を浪費したくないレフェリーは、選手から10メートルも離れたところからイエローカードを示すことになる。スタンドから見ているファンには、誰に出されたのかもわからないという困った状況だ。
それはまるで、口うるさい親や教師と反抗期の子どものやりとりのようだ。叱ろうとする親や教師、それに向き合わず、背を向けて無視しようとする子ども…。とてもプロフェッショナルのサッカーのピッチ上の出来事とは思えない。
イングランドなど成熟したサッカーの国のプロリーグを見ていると、こんなことはあまり起こらない。レフェリーが強く笛を吹く。ファウルを犯した選手は「ボールにプレーしようと思ったんだ」と言い訳をする。しかしレフェリーが穏やかな表情で「でも少し遅かったね」とでも言うと、仕方がないという表情を見せ、レフェリーが示したイエローカードに、「わかったよ」とでも言うように手を上げてポジションに戻っていく。
おわかりだろうか。選手とレフェリーはピッチの上できちんと向き合っている。これが本来の姿だ。プロ同士としてコミュニケーションをとり、そして最終決定の権限をもつ人が明確な決定を下すと、それを受け入れて頭を切り換え、次のプレーへと戻っていくのだ。
もしかしたら日本の選手たちは、これまで、選手を「生徒」のように扱い、「問答無用」とばかりに権威を振りかざすレフェリーと出会ってきたのかもしれない。中学や高校時代には、そんなレフェリーが多かったのかもしれない。
しかし現在の日本のトップレフェリー、すなわちJリーグを担当しているレフェリーたちには、権威を振りかざす人はほとんどいない。試合を円滑に進めるために選手とコミュニケーションを取ろうと努力している人が圧倒的に多い。そうした人たちにも向き合わない選手が多いのは、日本のサッカーにとって悲しむべきことだ。
レフェリーと選手の関係は、親と子ども、あるいは教師と子どもの関係とは違う。上下関係や常に一方が正しい(ということになっている)関係でもない。協力してひとつの試合をつくっていこうという対等な関係のはずだ。だとしたら、プロフェッショナル(あるいは高度な専門職)同士として互いにリスペクトし、きちんと向き合うのは、人間として当然ではないか。
選手とレフェリーが互いにリスペクトし、しっかりと向き合うJリーグであってほしい。選手とレフェリーの「正しい関係」を示してほしい。そうしたお手本を見せ続ければ、少年たちも見習い。少年たちの試合を担当するレフェリーたちも見習い、日本のサッカーが成熟に向かっていくことができるのではないか。
そして選手とレフェリーの正しい関係は、選手と監督・コーチ、監督・コーチとレフェリーの正しい関係にも波及していくはずだ。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
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