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判定には反応しない ~いつも心にリスペクト Vol.31~
2015年12月01日
Jリーグに限らず世界中のサッカーで、テクニカルエリアに立った監督が主審に向かって大声を出すシーンはごく普通に見られます。
オフサイドの判定やタッチライン際のファウルの判定に対し、テクニカルエリアを出て副審のところに寄っていき、抗議する監督も珍しくはありません。もっともこれは、メインスタンドから見て右側のベンチ、通常はビジターチームの監督であることが圧倒的に多いのですが…。
その抗議があまりに頻繁であったり長く続くときには、主審が寄っていって注意することもあります。その中で暴言が出た場合などに「退席」という重い処分が下されるときもありますが、たいていは注意するだけで、通常は監督の抗議などに耳を貸さずに試合が続いていきます。
機転(?)がきいた放送では、監督が大声を上げるとすかさず監督のアップ画像に切り替え、その言葉が分かるほどしっかりと表情を視聴者に届けます。
「いまのはファウルだろう!」「PKじゃないか!」「イエローカードだ!」「もっとしっかり見ろ!」監督たちは遠慮のない言葉をレフェリーに投げつけます。その表情やジェスチャーを見て、そのチームのファンは誤審で自分の応援するチームが不利になったと感じるかもしれません。逆に相手方チームのファンは得したと思うかもしれません。
これが現代のサッカーの「風習」です。プロの世界の風習はアマチュアにもしっかりと伝わり、少年の試合でさえ、監督たちは判定に対して大声を上げます。こんなことを書いている私自身、監督をしている女子チームの試合で「ええ~!?」や「いまのは危険だよ」と声を上げてしまうことがあります。
ところがJリーグの監督にまったく声を上げない人がいます。ガンバ大阪の長谷川健太監督です。
一昨年J2に降格したG大阪の監督に就任して優勝、1年でJ1復帰を果たすと、いきなりその1年目でJリーグとナビスコカップと天皇杯の「3冠」を達成、今年はAFCチャンピオンズリーグでベスト4に進出し、Jリーグでも連覇を目指しています。
そうした厳しい戦いの中で、長谷川監督は判定に対してまったく反応しないというのです。Jリーグ担当審判員たちが口をそろえてそう証言しているといいます。どんな試合でも自分が見たことと反対の判定をされたと思うことはあるはずですが、審判員たちは長谷川監督の口から「ええ~!?」という声さえ聞いたことがないというのです。
この話を聞いたのは最近のことで、シーズン中であることもあって長谷川監督自身に確認はできていないのですが、オフの期間に機会があったらその真意を聞いてみようと思っています。
私の想像では、長谷川監督は自らの仕事に集中しようと努めてきたのではないでしょうか。
監督たちの中には、「声を出すことで主審の判定に影響を与えられる」と「冷静に」考えている人も少なくないでしょう。しかし実際には、どんなに大声を出しても判定には影響はありません。主審は起きた事象に素直に判定するだけだからです。いちど下された判定が監督の抗議で変えられることはありません。副審などから情報提供があって判定が変わることはありますが、それは「抗議によって変わった」わけではないのです。
勝利への道は、チームとして持てる限りの力を出し切ることだけです。審判にかかっているのではありません。
長谷川監督は、そうした「当たり前」のことを自らの行動で実践し、自分自身の采配に集中しているだけなのだと思います。それが自然に、審判員やその判定への「リスペクト」となって表れているのでしょう。
G大阪は2002年から10シーズンの西野朗監督時代に「黄金期」を迎えました。しかし長谷川監督の下でそれを上回る成績を残しているのは、こんなところにも秘密があるのかもしれません。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
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