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冷静さと公平さ ~いつも心にリスペクト Vol.33~
2016年02月03日
昨年12月、2年ぶりにFIFAクラブワールドカップ(FCWC)が日本で開催され、メッシ、スアレス、ネイマールといった世界最高クラスのFWを並べたFCバルセロナ(スペイン)のプレーにたくさんの人が酔いしれたと思います。しかし私がこの大会で最も感銘を受けたのは、開催国枠で出場したサンフレッチェ広島の奮戦でした。
3月からの長いシーズンの終盤。ただでさえ疲労が蓄積している時期に、広島は12月に入ってからJリーグのチャンピオンシップ(対ガンバ大阪)2試合、そしてこのFCWCの4試合と、毎週2試合ずつ立て続けに6試合を戦いました。そのすべてが、「非日常」と言ってよい厳しい試合であり、広島というクラブにとっても選手たちにとっても「挑戦」の戦いでした。
しかし森保一監督は、Jリーグの間には出場機会の少なかった選手たちを信頼し、6試合すべてで「サンフレッチェのサッカー」を実現して見せたのです。相手をあなどることなく、そして恐れることなく、すなわち「リスペクト」にあふれた試合ぶりこそ、アフリカ・チャンピオンのTPマゼンベ(コンゴ)とアジア・チャンピオンの広州恒大(中国)を下して、広島を世界大会3位という成績に導いた原動力でした。国際的に見れば「格違い」と言ってもいい南米チャンピオンのリバープレート(アルゼンチン)に対してさえ、自分たちのスタイルを押し通し、勝ってもおかしくない試合に持ち込んだのは、その最大の証しです。
その最初の試合は、大会の開幕戦、「準々決勝進出プレーオフ」でのオークランドシティーFC(ニュージーランド)戦でした。この試合で、広島は大きな不運に見舞われます。前半10分過ぎにMF野津田岳人選手、後半立ち上がりにMF柴崎晃誠選手、そして後半半ばにはMF清水航平選手と、次々にケガ人が出てしまったのです。柴崎選手は野津田選手に交代して入ったのですから、チームとしてはさらに痛手でした。
オークランドシティーはフィジカルに自信を持つチームです。そのチームが試合開始早々に失点し、広島のパスワークやカウンターに翻弄される試合となって、選手たちは苛立っていました。広島の選手がパスを出した後に体当たりを食らわすなどのファウルも多く、次第にラフになっていきました。しかしともかく、試合は2-0で広島の勝利に終わりました。
試合後の記者会見で、私は森保監督にこんな質問をしました。
「3人の交代枠をすべて負傷交代で使ってしまうというのは異例だと思うのですが、判定への不満というのではなく、審判に対して『こうしてほしい』という要望のようなものはありますか」
「しっかりファウルをとってほしい」というような答えが返ってきて当然と思っていたのですが、森保監督の言葉は少し意外でした。
「負傷で3人の交代を使いきったのは、初めての経験です」
と前置きした後、こんなことを話したのです。
「たしかに疑問に思う判定はありましたが、それは仕方がないことです。そしてケガについては、長いシーズンの疲労の蓄積によるものだと、私は感じました」
オークランドシティーにラフなプレーが多かったのは間違いありません。私は、カメルーン人のアリウム主審がその状況をうまくコントロールできていないようにも感じました。しかしケガ人が3人も出たという痛手のなかで、森保監督はそうした「試合の雰囲気」と「事実」を、冷静にそしてフェアに区別し、公に発言したのです。
今大会で、広島の選手たちはピッチに立った全員が堂々と力を出し切り、チームに貢献しました。それは、日ごろから森保監督が選手たちの取り組み方と努力を冷静な目で見つめ、どんなときにも公平に扱ってきた結果だったのではないでしょうか。試合に出られないことが続いていても、選手たちは森保監督から「自分もリスペクトされている」と感じていたに違いありません。判定に対するコメントに、そうした森保監督の姿勢がよく表れていました。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
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