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サッカーへのリスペクト ~いつも心にリスペクト Vol.36~
2016年05月02日
シーズン序盤。チームによっては、新監督が就任し、選手の顔ぶれも変わって苦しんでいるところがあるかもしれません。とくに攻撃のコンビネーションという面では、新たな取り組みが形になるまでに時間がかかります。
今季FC東京の監督に復帰した城福浩監督は年代別日本代表監督やFC東京、ヴァンフォーレ甲府で指揮を執ってきた人で、豊富な経験をもっています。しかしその城福監督をしても、今季の日程は、新しいチームを整えることが難しい状況でした。普通ならシーズンに向けてのキャンプの真っ最中である2月9日にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のプレーオフ、チョンブリ(タイ)戦を戦わなければならなかったからです。
能動的な動きで相手を崩す「アクションフットボール」を掲げ、堅固な守備を主体とした前年までのサッカーから大きな変革を目指して8人もの即戦力を獲得。意欲的なチームづくりは、チョンブリ戦の9-0という大差での勝利で、期待が高まりました。
しかし2月下旬の本格的なシーズン開幕に向け、攻撃のコンビネーションを確立する十分な時間がなかったことに加え、韓国代表MF河大成(ハ・デソン)、DF駒野友一と中心メンバーが相次いで故障し、JリーグとACLの過密日程の中で苦しい序盤になりました。
3月11日に行われたJリーグ第3節のヴィッセル神戸戦は、そうした試合のひとつでした。
前線に力のあるアタッカーを並べ、守備を固めてカウンターを狙う神戸。FC東京は集中力あふれる守備でスキを与えず、ボールを支配して懸命に攻めました。しかしコンビネーションの未熟は明らかで、なかなか決定的な形ができません。後半のシュート数がFC東京の9に対し神戸が0という圧倒的な攻勢の中で、ようやくFC東京が決勝点をものにしたのは後半43分のことでした。
形勢はともかく、ともにほとんど良い形ができなかった試合は、正直なところ少し退屈でした。
FC東京はJリーグ開幕戦ではかなり活発な攻めをしながら大宮アルディージャにカウンターを食らって0-1で敗れていました。良い試合をしたが敗れた。そして神戸戦は、良い試合とは言えなかったが勝った―。それがサッカーの難しさと、面白さです。試合後、私は城福監督に率直にそのことを聞いてみました。
監督によっては、負けても「自分たちのほうが相手より良いサッカーをしていた」と強調する人もいます。結果だけで記事を書いてほしくないという気持ちはよくわかります。しかし城福監督の言葉は意外なものでした。
「結果がすべてのプロの世界に生きているので、勝点3が最優先です。内容が良くても大宮戦は勝てなかった。しかし結果の違いには、必ず『理由』があると私は思っています。試合ごとに反省点を見いだし、その教訓をチームで共有して次の試合の勝利のために生かしていきたいと思っています。私は、きょうの守備については満足しています」
「良い試合をしたが、不運で負けた」で終わるのではなく、勝点3を取るために何が足りなかったかを反省し、生かす―。それは、勝ったときにも、良かった点をチームで確認するとともに、しっかりと反省点を出して改善につなげるという態度にもつながります。
私が感じたのは、勝敗が非常に不安定なサッカーという競技、最高のプレーをしてもしばしば裏切られるサッカーというものに対する城福監督の謙虚さ、いわば「サッカーに対するリスペクト」の姿勢でした。
もちろん、何よりも勝点3が欲しい。しかしチームにできるのは最善の準備と、試合で全力を尽くすこと以外にありません。だからこそ、ときに気まぐれなサッカーの神様が決めるどんな結果も受け入れ、謙虚に試合を分析し、反省して次の試合に生かすという姿勢、「サッカーに対するリスペクト」が大事なのだと思うのです。
城福監督の下、今季のFC東京がどんなふうに成長していくのか、楽しみになってきました。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
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